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Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

2023-12-02 06:00:00 | エッセイ

 

 

信号は赤。ハンドルを握る手に、ふと目が落ちた。

ぐっと握れば手の甲の皺は隠される。試みに開いてみれば、

たちまち皺に覆われた手へと豹変した。

血管が浮き出、ところどころにシミ。

短い指、みっともなく不格好な手に苦笑する。

 

         

 

泣きながら、抱かれた母の乳房を求めた手。

息絶え床に横たわる父の、うっすら伸びたヒゲを剃ってやった手。

戻らぬ意識。病床の兄に「目を覚ませ!」と足裏をくすぐった手。

引き、引かれ長年寄り添ってくれた妻の手にもまた皺。

結婚式の日、2人の娘が「どうか幸せに」と合わせた手。

すべすべ、ふっくら……生まれきた孫に触れ、たまらない喜びを感じた手。

 

「よし、任せろ」リレー競争で渡されたバトンをしっかり受け止めた手。

大空に宙返り、鉄棒を握りしめた手。

2キロを完泳しようと、懸命に水を掻いた手。

60歳過ぎ、それでもグローブをはめソフトボールを投げた手。

ペンで、ワープロで、そしてパソコンで文字を書き続けた手。

すっかり後退してしまった頭を、虚しく撫でる手。

 

すでに、父より10年以上も長く生きている。

この手の皺の中には、僕の81年の人生が刻み込まれている。