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Toshiが行く

日々の出来事や思いをそのままに

恋景色

2025-04-26 10:03:59 | エッセイ

 

高校1、2年生? いや、まだ中学生かもしれない。

並んでこちらへやってくる。

だが、女の子は足首でも挫いたのか足を引きずるようにして歩いている。

心配して声を掛けていた男の子が、やおら女の子に身を寄せた。

女の子は、照れたようなしぐさでその肩に腕を回し、

男の子にもたれかかり片足を持ち上げるようにして歩いた。

 

すぐ近くのマンションが女の子の住まいのようで、

女の子は肩から腕を外し足を引きずり玄関ドアへ向かっていった。

男の子は2、3歩後を追おうとしたが、足を止め、心配そうに見送っている。

小さな初恋物語、そのように見える風景に思わず頬が緩んだ。

 

           

 

4月も下旬となり、気温がいきなり25度を超えた。

いつもの川べりをウオーキングすると、頭上からの陽が容赦ない。

帽子の隙間から汗がしたたってくる。

いつも石段に陰を作ってくれる、わずか二本の桜の木は薄色の花弁は散り去り、

緑一色の枝葉に頼っている。

若い男女(と言っても年の頃は2人とも30前後と見える)が

向かいからやってきて、その石段の木陰に座った。

少し早めの昼食だったのだろうか、近くのスーパーのらしいレジ袋から

ドーナツみたいな、そんな形をしたパンを取り出した彼女は、

かすかな笑みを浮かべながら彼に渡した。同じように缶ジュースも。

彼は無言のまま手を差し出して受け取り、

時折彼女の方に目をやりながらパンをかじり、合い間にジュースを飲んだ。

 

2人は2人きりの時をはしゃぐでもなく、浮かれるふうもなく、

年相応といえばそうなのだが、物静かなたたずまいであった。

2人の前を通り過ぎ、50㍍ほど進んだ時、がしゃという音がした。

振り向けば、踏みつぶされぺしゃんこになった缶が彼の足元にあった。

彼女はなぜか彼に背を向け、一人歩み去ろうとしていた。

彼はただ、つぶれた缶を睨みつけるだけ。

わずかばかりの時間に何があったのか。

 

                               

 

ゲートボールの、あのカーンという乾いた音がする。

ウオーキングコースに隣接する広場に目をやれば、

相手ボールに狙いを定めたお爺さんがスティックを振ろうとしている。

だが、残念。

転がったボールは相手・お婆さんのボールの右側をかすめるように転がっていった。

「あらら、振られてしもうた」悔し紛れにスティックで土を小突く。

                           

             「あ~あ」僕のため息は青空高くに昇っていく。

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二番目の兄

2025-04-22 10:54:11 | エッセイ

 

当家の墓には、両親はもちろん長男、三男、それに次女が入っている。

だが、二番目の兄はいない。

この兄は、中学を卒業するとすぐに親戚筋の精肉店に働きに出た。

その親戚には、子どもが一人もいず店を継ぐ者がいなかったため、

兄を養子に迎え入れ、それを託したのだった。

それを兄もすんなり受け入れ、兄はそちらの墓に入っている。

 

兄の腰のあたりにしがみついた僕の体は、

カーブのたびに右に左に傾き、尻はゴリゴリと擦れ、痛かった。

無理もない。このオートバイは兄が働く精肉店の業務用で、

僕が座っているのは、鉄の棒と板を四角に組み合わせた荷台であり、

そこに薄っぺらの座布団を乗せ、荷物を固定するゴムのロープで括り付けた

即席の座席だった。しかも、座布団の綿はもう用をなさないほどく

たびれていたから鉄の固さをそのまま思い知ることになった。

 

 

 

70年ほど前にも暴走族はいたのかどうか。

暇さえあればオートバイを走らせる、11歳離れているこの兄を

僕は不良なのではないかと思った。

だが、不良と言うにはちょっとしけている。

乗っているオートバイは、何の飾りもない業務用のものだし、

後ろに乗っけているのも可愛い女の子ではなく、小学生の弟、つまり僕だった。

不良と言うには、まったく様になっていない。

24、5の盛りの年頃。なのに、この兄からは色恋らしきものは、

まったく見も聞きもしなかった。

 

それこそ働くことしか知らないかのように一心に励み、

成人したからと言っても酒に飲まれるでなし、

夜遊びにうつつを抜かすでもなかった。

そんな兄の唯一とも言える楽しみだったのが、

精肉店のオートバイを引っ張り出してきて、

ついでに、小さな弟をいつも後に乗せドライブすることだった。

「不良では?」なんてとんでもない。実直で律儀な人だった。

 

もう一つあった。どこでどう覚えたのか知らないが、クラッシック音楽だ。

そのため、結構高価なステレオを買い、レコードをボツボツと集め、

シューベルトだ、ベートベンだと一人聞き入っていた。

両親と兄弟姉妹、全部で8人が雑魚寝するような小さな家に不釣り合いと

言えるものだったが、兄が懸命に働き、自力で買ったものだったから、

誰も文句一つ言わなかった。

 

その頃僕はもう高校生になっており、聞いていたのはもっぱら

エルビス・プレスリーなどロックだった。

兄が不在だったある日、僕はこっそりステレオでプレスリーを聞いた。

「やっぱりステレオはすごいな」大満足しながら体を揺すっていたら、

予期せず兄が帰ってきたのだ。

そして、「プレスリーなんか聞くと不良になるぞ。やめとけ」とだけ言った。

「黙って俺のステレオを使うんじゃない」決して、そんな怒り方をしなかった。

むしろ、薄ら笑いさえ見せていた。

 

そんな兄が逝ってもう11年か。

昔、オートバイの後ろ座席で尻をもぞもぞさせた、あの小さな弟が今、

兄が逝った年齢と同じとなった。

 

 

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これも青春‼

2025-04-15 09:53:41 | エッセイ

 

 

今風のやんちゃな格好をした男の子が、

ビルの片隅にしゃがみ込んで苦しそうにしているのが見えた。

おそらく夜通し飲み明かした挙句のことなのであろう。

「しようがない子たちだ」放っておいて素通りしようとしたが、どうにも気になる。

「大丈夫か」声をかけると、半ばベソをかいたような、

ちょっと青ざめた顔がこちらを見上げる。

ふと、同じ年頃だった自分の姿が重なった。

 

学生の頃は、家庭教師で稼いだわずかばかりのアルバイト代で、

同級生たちと何をするでもなく、半ば好奇心まじりに夜の街を徘徊、

挙句、オールナイトの映画館をホテル代わりにし、

白々と明けた朝をまぶしく迎えたこともあった。

社会人になると、先輩たちから「これも勉強のうち」と

毎晩のように夜の歓楽街をひっぱり回された。

さほど飲めない質だから二日酔い状態で出勤することもしばしばで、

何とかその日をしのぐと、夕方にはまた「行くぞ」と半ば命令口調で言われ、

やがてそれが習慣みたいになってしまった。

「よくぞ体を壊さなかったものだ」と思うほど無茶苦茶な生活を送った。

 

       

ここで苦しそうにしている子は、あの頃の僕より少し年下のようだが、

「同じようなことをしているのだ」と思えば、

少しばかりのいとおしさが湧いてくる。

「大丈夫です」と答えた彼はまた、「うえっ」となる。

「ほれ、水」持ち歩いているペットボトルをバッグから取り出した。

「飲んだらボトルは捨てといてくれ」年寄りから、

そんな施しを受けるのはバツが悪いのか、最初はためらっていたが、

ぼそっと「ありがとうございます」と言って、おもむろに受け取ったのだった。

 

道筋で中年の男性が、ビニール袋を手に道端のゴミを拾い集めている。

スーツをびしっと決め、背には黒のバッグを背負う。

おそらく近くの会社に勤めるサラリーマンだろう。

個人的なボランティアのようで、吸い殻や紙くず、ペットボトルに空き缶……

それらのゴミをトングで黙々と拾い、ビニール袋に放り込んでいる。

 

夜通し飲み明かし、少しばかりの罰を受けた若者。

彼らが汚した道なのかもしれない、その道を文句ひとつ言わず掃き清める中年男性。

あり様はまったく違っているが、この二人の姿に心がじんわりとなる。

 

 

 

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Toshi Band

2025-04-08 09:37:13 | エッセイ

 

『The Toshi Band』結成‼

2月12日の当ブログ「孫からのLINE」で、

The Waltersというバンドの『I Love You So』という曲を

孫がギターを弾き、僕が歌い、それを動画に撮ろうという話。

いよいよ、その日である。

だが、それが嬉しいような予想外の展開となった。

 

ギターを背にした孫が、何とガールフレンドを同行してきたのだ。

高校の同級生と言い、物おじしない明るい女性だった。

「今日は彼女にはドラム代わりに茶碗を叩いてもらおうと思う」と笑う。

聞けば、いろんな楽器の多少の経験があるのだという。

それで思いついた。我が家にはキーボードがある。

楽器音痴の僕がキーボードでも弾けるようになりたいものだと思い立ち買ったものだ。

当初は毎日のように練習したものだが、やがて「やはり無理だ」と諦め、

今では部屋の隅でカバーをかけられたままになっている。

 

「ピアノはどう?」と聞けば、「以前少し習った」というではないか。

「では、キーボードを弾けば」と促すと、

ためらわず「やってみます」と答えたのである。

そして、スマホからこの曲の楽譜を拾い出し、練習し始めた。

「以前少し習った」だけのことはある。

小一時間もすると、きちんと弾けるようになったのである。

これで、トリオバンド結成である。

 

 

プロデュース役でもある孫は、それからが大忙しだ。

部屋中の机やイスなどをあちこちと移動させ、

僕を挟むように両側に孫とガールフレンドがピタリと座るようにした。

そして、正面から真横から、さらに何とスマホを天井に貼り付け頭の上から、

逆に床面にスマホを置き、いろんな角度から動画を撮るようにしたのである。

それらの動画を後日編集し、まとめるのだという。

 

さて、演奏開始だ。

いろんな角度から動画を撮るため何度も演奏することになる。

出来栄えはどうだったか。即興バンドにしてはまずまずだったと思うが、

こんな曲を歌う僕の声に張りがないのが残念至極だ。

妻が、そんな様子を愛用のカメラでパチリパチリと撮っていった。

 

4人で夕食の食卓を和やかに囲んだ。

2人はどうやらその意思(結婚)ありのようだが、

おそらく、そこにたどり着くにはいくつかの難題があるのも世の常である。

祖父母が立ち入りにくい話でもあり、静観するしかあるまい。

 

孫とこんな時間を過ごせるとは‼。

短い老い先、これからも何度かこんな機会があれば、

何物にも代えがたい楽しみ、生き甲斐ともなるのだが……。

 

 

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指しゃぶり

2025-04-06 14:00:00 | エッセイ

 

あれからもう26年ほどにもなるか。

あの日のことを思い出せば、今でも涙が出そうになる。

 

妻と向かい合っての夕食。

2人とも何かを思う風に一言もせず、箸の動きも鈍い。

そんな重苦しいような空気を妻が破った。

「やはり、迎えに行きましょう」

思いは同じだった。

「急ごう」僕も箸を投げ出すように、車のキーを握った。

 

まだ2歳にもならない僕らの初孫、可愛くてたまらない女の子。

その子に間もなく弟が出来る。

僕らの長女である母親は、そのため入院中だし、

父親も長期の出張中とあって、この子は独りぼっちで

祖父母との生活を強いられていた。

 

ある日、親しくしている知人宅に遊びに連れて行った。

その家には、少し年上の女の子がいて結構遊び相手になってくれ

本人も楽しそうだった。

その姿を見てからか、知人が「泊めたらどうか」と言い出した。

「どうしよう」とためらった。

「大丈夫だろうか」との思いの中には、

一晩だけと言っても孫を手放す寂しさがあったのである。

でも、楽しそうにしている姿に負けた。

この子をおいて帰宅したのだった。

 

             

 

ダメだった。

こらえきれず車に飛び乗り、夜道を急いだ。

知人宅に着くと、「おーい、おいで。帰るよ」と呼びかけると、

笑顔いっぱいで飛んできた。

妻が抱き上げ、僕は友人に礼を言うのもそこそこに

今度は我が家への道を急いだのである。

 

そして、いつものようにこの子を真ん中にして寝床に入った。

この子の小さな親指は小っちゃなお口にあった。

クチュクチュとさせながら懸命に眠ろうとしている。

でも、目は閉じていてもなかなか寝付かない。

そんな様子を見て、ひどく切なくなった。

この子はきっと寂しいのだろう。

「いつもはママとパパに包まられるようにして寝るのに、二人ともいない。

でも私が泣けばじぃじとばぁばが悲しむだろう。だから私は泣かない。

親指をママとパパと思って我慢しよう」

まだ2歳にもならない幼い子。

独りぼっちの寂しさに一生懸命耐えようとしている。

そんな風に見え、思わず涙がポロリと流れ落ちた。

 

「私もうアラサーよ」と言う。

そう言えば、つい先日28歳の誕生日だった。 

あの子がねえ~。

   

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