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日々の出来事や思いをそのままに

二番目の兄

2025-04-22 10:54:11 | エッセイ

 

当家の墓には、両親はもちろん長男、三男、それに次女が入っている。

だが、二番目の兄はいない。

この兄は、中学を卒業するとすぐに親戚筋の精肉店に働きに出た。

その親戚には、子どもが一人もいず店を継ぐ者がいなかったため、

兄を養子に迎え入れ、それを託したのだった。

それを兄もすんなり受け入れ、兄はそちらの墓に入っている。

 

兄の腰のあたりにしがみついた僕の体は、

カーブのたびに右に左に傾き、尻はゴリゴリと擦れ、痛かった。

無理もない。このオートバイは兄が働く精肉店の業務用で、

僕が座っているのは、鉄の棒と板を四角に組み合わせた荷台であり、

そこに薄っぺらの座布団を乗せ、荷物を固定するゴムのロープで括り付けた

即席の座席だった。しかも、座布団の綿はもう用をなさないほどく

たびれていたから鉄の固さをそのまま思い知ることになった。

 

 

 

70年ほど前にも暴走族はいたのかどうか。

暇さえあればオートバイを走らせる、11歳離れているこの兄を

僕は不良なのではないかと思った。

だが、不良と言うにはちょっとしけている。

乗っているオートバイは、何の飾りもない業務用のものだし、

後ろに乗っけているのも可愛い女の子ではなく、小学生の弟、つまり僕だった。

不良と言うには、まったく様になっていない。

24、5の盛りの年頃。なのに、この兄からは色恋らしきものは、

まったく見も聞きもしなかった。

 

それこそ働くことしか知らないかのように一心に励み、

成人したからと言っても酒に飲まれるでなし、

夜遊びにうつつを抜かすでもなかった。

そんな兄の唯一とも言える楽しみだったのが、

精肉店のオートバイを引っ張り出してきて、

ついでに、小さな弟をいつも後に乗せドライブすることだった。

「不良では?」なんてとんでもない。実直で律儀な人だった。

 

もう一つあった。どこでどう覚えたのか知らないが、クラッシック音楽だ。

そのため、結構高価なステレオを買い、レコードをボツボツと集め、

シューベルトだ、ベートベンだと一人聞き入っていた。

両親と兄弟姉妹、全部で8人が雑魚寝するような小さな家に不釣り合いと

言えるものだったが、兄が懸命に働き、自力で買ったものだったから、

誰も文句一つ言わなかった。

 

その頃僕はもう高校生になっており、聞いていたのはもっぱら

エルビス・プレスリーなどロックだった。

兄が不在だったある日、僕はこっそりステレオでプレスリーを聞いた。

「やっぱりステレオはすごいな」大満足しながら体を揺すっていたら、

予期せず兄が帰ってきたのだ。

そして、「プレスリーなんか聞くと不良になるぞ。やめとけ」とだけ言った。

「黙って俺のステレオを使うんじゃない」決して、そんな怒り方をしなかった。

むしろ、薄ら笑いさえ見せていた。

 

そんな兄が逝ってもう11年か。

昔、オートバイの後ろ座席で尻をもぞもぞさせた、あの小さな弟が今、

兄が逝った年齢と同じとなった。

 

 

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