食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

古代ローマの食材(2)オリーブオイル

2020-06-16 20:25:00 | 第二章 古代文明の食の革命
古代ローマの食材(2)オリーブオイル
イタリア料理やギリシア料理に欠かせないのがオリーブオイルだ。オリーブオイルはオリーブの実を絞って採る。オリーブオイルは古代ギリシアや古代ローマで大量に生産されていた。今回はこのオリーブオイルについて見ていこう。



オリーブは中近東から東地中海沿岸の地域が原産のキンモクセイの仲間の植物で、高さは10メートルにもなる(写真参照)。とても生命力が強く、地中海沿岸には樹齢2000年をこえる古木が今でも元気に実をつけている姿が見られるそうだ。ちなみに、日本の小豆島にはスペインのアンダルシア地方から運ばれてきた樹齢1000年のオリーブの樹が移植されている。

オリーブは初夏になると白色の小さな花を咲かせる。その後、丸い緑色の実をつけ、成熟するとともに実の色が赤→紫→黒へと変化する。実はそのままだととても渋いので、しぼってオリーブオイルを採るか、塩漬けなどにして渋みを抜いて食べる。

完熟したオリーブの実には油が15〜30%含まれ、その主成分はオレイン酸である。オレイン酸は不飽和脂肪酸だが、炭素間の二重結合を1つしか持たないため酸化されにくい。このためある程度の長期保存が可能である。また常温では固まりにくいため、運びやすいし使いやすい。このような優れた特徴から、オリーブは広く栽培されるようになったと考えられる。

一説によると、オリーブの栽培は遅くとも紀元前3000年頃には地中海の東部で始まったとされる。その後、栽培地域は徐々に西側に広がり、紀元前1200年頃にはエーゲ海の島々で栽培が始まり、少し遅れてギリシア本土にも伝わった。また、イタリア南部には、北アフリカのギリシアの植民地を経由して紀元前500年頃に伝わった。また、同じ頃にスペイン南部でも栽培が始まった。

オリーブの栽培を大きく拡大させたのがローマ帝国だ。ローマ帝国が支配地を拡大するにあたり、各属州にオリーブを持ち込んで栽培を奨励したのだ。こうして、ローマ帝国はローマを中心にオリーブオイル文化圏と呼べるような様相を呈するようになる。「油」を意味する英語の「oil」とフランス語の「oile(古語)/huile(現代語)」も、その語源は古代ローマ公用語のラテン語でオリーブオイルを意味する「oleum」であることからも、古代ヨーロッパにおけるオリーブオイルの浸透度が分かる。

また、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教では、オリーブオイルは宗教儀式で「聖油」として用いられるようになった。旧約聖書のノアの箱舟の話では、ノアの放った鳩がオリーブの枝をくわえて帰ってきたことから、平和が訪れたこと(悪い人間が一掃されたこと)が分かったとされている。この話から、オリーブの枝はハトともに「平和の象徴」となった。

古代のギリシアやローマの料理では、オリーブオイルの特有の油くささを抑えるために酸っぱい酢がよく使われていた。やがて大航海時代になって酸味とともに旨味のあるトマトが新大陸からヨーロッパに持ち込まれると、酢に代わってギリシア料理やイタリア料理に使用されるようになる。


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