今度は、ヒカリゴケを求めて…。
ヒカリゴケと言えば、武田泰淳の短編小説「ひかりごけ」が有名だ。
三國連太郎主演で映画作品にもなっている。
ちょっと重たい内容の物語だが…冬の羅臼、遭難した船長と乗組員たちが避難したのが、マッカウス洞窟。食べ物も無い過酷な状況の中で、生きる為に船長が選択した道とは…。ひかりごけにからめた、罪の物語。
と言う事で、言葉だけは知っていたけど、光る苔がほんとにあるんだねー。
羅臼市街地のはずれ、ヒカリゴケが見られると言うマッカウス洞窟へ足を運んだ。
洞窟と言うだけで冒険心がワクワク。
残念ながら、落石の危険がある為、洞窟内には入ることは出来なかった。
それでも外側から柵越しに暗い洞窟内を覗くと、かすかに妖しく光るヒカリゴケを見る事が出来た。
洞窟内部に入る事が出来ない観光客の為に、ヒカリゴケに関する資料館の案内が側に掲示されていた。で、そちらも見に行こうという事になった。
途中、クジラの見える丘と言う看板に誘われて、そちらへも向かう。
丘の上では、どこの大学だったか忘れてしまったが、機材を持ち込みクジラの観察を行なっていた。
この日はちょっと、どんより曇り気味。
大学の先生のご好意で、「ちょうど今、潮を吹いてますよ」と望遠鏡を覗かせていただいたが、よく分からず。
残念ながら、この日は“クジラの見えない丘”だった。きっと、天気のせいだな。晴天だったら、遠くまで良く見渡せそうな、いい丘だった。
次に向かったのは、羅臼町郷土資料館。
平成22年3月31日に、106年の歩みに幕を下ろした植別小中学校の校舎を再利用して、平成23年12月より開館したとある。
学校の建物をそのまま再利用しているので、入り口から懐かしくも楽しい気分。
教室を最大限に活用し、各部屋は、①〜⑥の展示室にあてられ、遺跡の出土品、土器、石器類等など貴重な品々や、多数の剥製群、写真、古い生活用品等、場所が広いだけに、収蔵品も大変多く、見どころ満載で期待以上に面白かった。
ここへ来た最大の目的、それはヒカリゴケ。人口培養されたものと言う事だったが、乾燥を防ぐため水槽の中(言わずもがなですが、水は入っていません)に生体展示されていた。
やや展示室の日陰になる場所で、水槽越しに至近距離でじっくりと苔の輝きを観察する事ができた。それにしても不思議な輝きだ。
翠玉の輝きと言われているようだが、「翠玉」すなわち「エメラルド」…とは、ちょっと違うかなー?
また、生活展示室には、非常に古い“飴の自動販売機”が展示されていた。人をかたどった、珍しい小さな自動販売機だ。
息子がそれを見つけるや、大興奮していた。
息子の説明によると、大正末期に活躍した国内初期の自販機ということだ。
自販機内部の構造も、しっかり観察出来るように展示に工夫が施されている。
当時の硬貨も用意されており、「使ってみよう」と促してくれる一文あり。早速一銭硬貨を入れるてみると、ちゃんと飴が1個出て来た。
出て来た飴は、ちゃんと食べられる現代の飴。念の為(笑)。
私が試して出てきたのは、確かサクマのいちごみるくだった。資料館のご厚意。ありがたくいただいた。
資料館と名の付く場所はこれまでも数々見てきたが、こちらの資料館は収蔵品も珍しい物が多く充実しており、展示も見易く整然としていて、好感が持てた。
また、随所に関わっている方々のお人柄が温かく感じられる居心地の良い所であった。
スケジュール過密状態の2日目の次なる見どころは野付半島の“トドワラ”
小学1年生の頃からトドワラと言う言葉は知っていた。
写真やイラストで見るトドワラは、まるで大きな魚の骨が地面に刺さっているような姿。枯れ木らしいのだが、今一つ実態が不明でずーっと気になっていた。
後年になってわかったのは、トドワラとはトドマツが海水に侵食されて枯れてしまった木々のことだ。
時が経過するに従い風化し、さらにその姿を変化させて行く。その木の様相が、独得の雰囲気をもたらし“最果ての地”にふさわしい景色となる。
灰色の死んだトドマツは、風雨にさらされ不気味な佇まいだ。
トドワラを目指し、野付半島を車で走る。
野付半島は想像以上に細く、道の両サイドが海。こんな景色初めてだ。
トボトボと歩くキタキツネとすれ違う。
野付半島ネイチャーセンターへ直行。内部の展示をサッと眺め、そこから徒歩でいざトドワラへ!
トドワラまで片道25分程だったか。
到着してみると、写真で見たトドワラの風景では無かった。
2011年の東北地方太平洋沖地震により、ここもかなり津波の被害があり、トドワラが流されてしまったのだ。ここにまで被害が及んでいた事に、3.11の規模の巨大さを思い知った。
ほんのわずかに残ったトドワラを観た。私が訪れたのは2015年。
今やかつてのトドワラの景色は、観光ガイドに掲載される観光写真でしかお目にかかれ無い。残念だ。
トドワラの他に、ナラワラがある。ミズナラ等がやはり海水に侵食されて立枯れたものである。
野付半島ネイチャーセンターから元来た道を戻り始めると、すぐ左手に湖なのか大きな潮溜まりなのか、その遠方にナラワラが林立しており、鹿の群れも見えた。
すでに生命を失ってくすんだ色のナラワラ。その木々の合間に群れるエゾシカたちの生命あふれる赤毛。水面に鏡のように映るナラワラとエゾシカ。
その美しい景色が、どんどん遠ざかって
行く。
さらば、野付半島。
またいつか、トドワラを見に戻らん。