夫の胃の調子が悪いので、揚げ物は控え目にしていた。トンカツは数カ月ぶり。豚ロースを2枚買って帰宅した。家に着いてから、トンカツを作る行程をチラリと頭に浮かべたら、「あっ、卵!」無いんだった。
卵はこれまで365日切らしたことが無かった。だから、家にあって当然の食材だったのに…。ウッカリしていた。結局その夜は、急遽変更してポークジンジャーにしたのだった。
たいてい買い物には午後から出かけていたので、このところスーパーの卵売り場には全く卵の姿を見かけない。無くてもまあ別に困ることもうちの場合は無い。これでもし、お弁当作りをしている時期だったら、大打撃だったと思うけど…。そんなわけで、毎度スーパーに行った時は一応卵売り場をチェックするけど、「今日も無いね」とあきらめて帰って来ていた。
最後に卵を買ったのはいつだったか。4月のレシートを探ってみると、4月11日が卵を買った最後の日だった。イオンで買った価格は税抜き258円。その前は4月8日、アークスで税抜き198円。
4月中旬以降、午後の時間帯では店頭で卵を見かけることが無くなった。
4月11日に買った卵は5日くらい保ったはずだから、我が家の卵がない生活は2週間ほどだろうか。
卵が無くても困らないと思っていたけど、ふと、お菓子を作りたくなる。クッキーを焼こう!と思いついて、ああ卵が必要なんだったとガックリ。マドレーヌでも焼くか!あっ、卵…。
そんな事が数回あって、本気で卵を手に入れようと近くのコンビニを訪れた。時間は午前10時。無かった。
強面の店員さんに入荷状況を聞いてみると、「今日は8パック入荷しましたけど、明日は入荷するかどうかわからないです」と、いつもは元気なのに疲れた様子で答えてくれた。きっと、毎日同じ事を何人もの人に聞かれているんだろうなあと思った。
たまたまこの会話を聞いていた、ご近所の常連と思われる高齢の小柄なお婆ちゃんが、笑いながら「〇〇スーパーなら10時頃入荷するから買えるわよ」と貴重な情報をくれた。
〇〇スーパーは家から歩いて10分ほどのスーパーだが、入荷と同時にきっと「争奪戦」が始まるに違いない。そんなことを想像すると、二の足を踏んだ。「早い者勝ち」は子供の頃から苦手。勝ったことが無い。
それからまた数日経った。
シリアルの懸賞応募のハガキを書いたまま、締め切り日が迫っていた。早く出さなきゃと思いながら数日経った。明日こそは、例のコンビニ前のポストへ投函しよう。そのついでにダメ元で卵の入荷時刻前に足をはこんでみよう。そう決心して床についた。
目覚めたら午前7時30分。コンビニの入荷時間は午前8時。慌てて顔を洗い、支度をする私に夫は「絶対無理だよ」と“卵ゲット”はならないと否定する。夫はいつだってネガティブなのだ。やってみなきゃわからないのに。
午前7時45分に一旦ドアを出て、肝心の懸賞ハガキを忘れ、戻る始末。私あるあるな出来事。
徒歩5分もかからない近場のコンビニ。
はやる心を抑えつつ、先ずは本来の目的、ポストにハガキを投函。
店の前には、すでに大きな配送車が停まっていた。
店内に入ると、今しがた入荷した荷物が所狭しと重なって置かれている。
8時に仕事を引き継ぐと思われる店員さん同士が忙しそうだったが、思い切って聞いてみた。
「すみません、卵の入荷はありますか?」
直ぐに店員さんはカウンターから出て探し始めた。そこにいた常連客と思われる、先日とは別の高齢のお婆ちゃんが、「その荷物の真ん中辺よ」と店員さんより詳しいのには、思わず苦笑した。
期待していなかったのだが、卵が難なく目の前に現れた。お久しぶりー卵様。
店員さんは卵を1パック私に手渡しながら「いくらかわかりませんけど」と言った。
この際、いくらでも良いと内心思っていたけど、レジに持っていくと、この日は税込み321円だった。会員割引20円でこのお値段。以前よりは100円ほど高くなっていたけれど、「いくらかわかりませんけど」の一言の効果か、安く感じられた。
何日ぶりのお目見えだろうか。ありがたい。争奪戦もなく、穏やかに手に入れられたのが嬉しかった。
卵を手にして店を出た。
これまで卵を買って、こんなに幸福を感じた日はなかったな。
家に帰ると夫が卵を見て「スゴイね」を連発した。そして直ぐに目玉焼きを焼いて、美味しそうに食べていた。
色んな意味で、幸せな人だ。