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阪神間で暮らす 3

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関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界

2018-11-20 | いろいろ

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関根正裕×江上剛 総会屋事件対応した2人が語る今の銀行界


 江上氏 近ごろ経営のかじ取りがおかしい

 1997年に発覚した第一勧業銀行(現みずほ銀行)の総会屋利益供与事件。このとき広報担当者として活躍したひとりは作家となり、その部下だった金融マンは今年3月、西武ホールディングス(HD)傘下のプリンスホテル常務から、不正融資問題に揺れていた商工組合中央金庫(商工中金)の社長に転じた。第一勧銀時代、二人三脚で不祥事対応にあたった作家・江上剛氏と商工中金社長・関根正裕氏の2人が今の銀行界を語る。

  ◇  ◇  ◇

 関根 ずっと小畠さん(江上氏の本名)と呼んでいましたから、江上さんって言いにくいですね(笑い)。

 江上 僕も関根君ではなく、関根さんと言わないと……。それにしても、僕が小説を書き、関根さんが商工中金の社長になって、こんなふうに対談するとは、人生って不思議だよね。

 関根 ビックリですよ。そもそも商工中金に来るのが想定外でした。

 江上 初めて商工中金の話があったとき、どう思った?

 関根 正直、「私ですか?」と思いました。ただ、商工中金の調査報告書などを読んで、職員のメンタリティーは理解できたし、これであれば自分の経験が生かせる、役に立てるかもしれないと感じました。

 江上 このニュースを知ったとき、よく引き受けたなと(笑い)。家族は何と言っていた?

 関根 プリンスホテルの仕事は充実していたし、家内は他に行くとは思っていなかったでしょう。家内に「やりたいの?」と聞かれて、「やりたい」と答えたら、ビックリしていましたけど、「だったらいいんじゃない」と賛成してくれました。

 江上 西武グループには何年いたの?

 関根 13年です。そのうち5年がプリンスホテルでした。みずほ銀行から西武HDに移った目的は、後藤高志さん(西武HD社長、元みずほコーポレート銀行副頭取)を男にしたいというのと、西武再建を果たすの2つでした。それは達成したし、私が西武HDにいなくても大丈夫だと思ったこともあります。

 江上 商工中金へ移るときの新聞報道などを見ると、関根さんは再建の専門家と書かれていました。西武に移るときの気持ちと、今回は違いますか?

 関根 まず西武での経験が生きるのではないかと思いました。商工中金の職員はまじめに一生懸命やっています。ただ、時代の流れとか、経営のあり方の間違いで、不正融資問題が起こってしまった。だから、経営者が方向性を示し、体制をきちんと整えれば再生できると信じています。

 江上 近ごろはKYBや神戸製鋼所、タカタなどモノづくりの現場でも不祥事が続いています。業績至上主義というか、経営のかじ取りがおかしくなっていると感じます。

 関根 それは間違いないでしょうね。商工中金も業績に対するプレッシャーは相当強かったと思います。もっと言えば、職員は業績を上げることが人事評価につながるとの思いが強かった。そのせいで成果を上げようと無理をしてしまう。風通しの悪さもあったでしょう。現場で起こっていることが経営まで上がってこない。これは組織的な欠陥にほかなりません。

 江上 リーマン・ショック後などは、他の金融機関が貸し渋りをするなか、商工中金は積極的な融資を実行したと聞いています。申し込みも殺到したとか。

 関根 リーマン・ショックや東日本大震災では、多くの金融機関の融資残高は大きく減少しましたが、商工中金は融資残高を増やしています。危機のときに企業の役に立った。その感謝の声は今も続いています。それが顧客の信頼につながっているのは間違いありません。

 江上 銀行は「雨の日に傘を取り上げ、晴れの日に傘を差し出す」と言われることもあります。商工中金のメンタリティーは違うんですね。



 関根氏 個人にノルマは課さない

 関根 そもそも商工中金は中小企業の金融の円滑化という趣旨でつくられています。職員の矜持というか、DNAに組み込まれていると思います。中小企業の経営者には、あのとき助けてもらったから今があるという人がたくさんいます。一時は廃業を考えてたけど、商工中金が危機対応融資などで支援するといってくれたおかげで復活できたと言ってくれています。

 江上 ただ、その危機対応融資が平時にも続いたことが不祥事を招いたともいえますね。私は小説を書くために多くの経営者に取材しますが、業績を上げ続けなくてはいけないプレッシャーにはまり込む人が大勢いるように思えます。関根さんは、10月に策定した中期経営計画で、職員に目標を割り振るのをやめたとか?

 関根 各支店で個人のノルマを課すのは厳禁だと宣言しました。

 江上 そうすると、われわれの若いときみたいに喫茶店でサボる人も出てくるのでは(笑い)。

 関根 ハハハ、会社ですから成果を上げることは変わりません。ただ、ひとりずつに数字を割り当てるのをやめ、結果ではなくプロセスや取り組みを評価しようということです。

 江上 最近の企業は四半期ごとに決算があって、結果ばかりを求められます。だから結果から経営を考えるみたいになっている。でも本当は利益は後からついてくるものです。

 関根 銀行は、銀行の都合でセールスするのではなく、顧客のニーズに基づいて営業することが大切です。顧客のことをきちんと知れば、先方が気付いていない課題やニーズも分かってきます。そういう営業をすべきでしょう。

 江上 まさにホテルマンの経験が生きていますね。

 関根 ホテルの現場の人は、純粋に客に喜んでもらうことを考えています。収益など頭にありません。そんなホテルの経験を生かしてこそ、私が商工中金の経営をやる意味があると思っています。

 江上 先ほども少し触れましたが、中期経営計画には店舗の統廃合や職員数の減少も含まれています。職員の反応はどうですか?

 関根 合理化の話は一部分だけなのですが、そこばかり取り上げられて……。トータルの人員は自然減などで減少しますが、営業やサービスのソリューションの部分は増員します。一方で、店頭に来る人は減り、業務のロボット化、自動化も進んでいます。実際、業務量は減っていくので、その分の人員は減少します。現在、職員は約4000人ですが、560人分の業務量を減らします。自然減は400人ほどで、160人はサービス強化にエネルギーを注いでもらいます。とはいえ、自分の仕事がデジタル化や本部集中によってなくなってしまう職員もいます。そんな人には新たな挑戦のチャンス、成長する糧にしてほしいとのメッセージを送っています。

 江上 中小企業は後継者も大きな課題だといわれます。

 関根 中小企業は日本全国にざっと380万社あります。今後、10年で社長が70歳以上になるのは240万社といわれ、そのうちの半分にあたる120万社は後継者が決まっていません。

 江上 かつて日本興業銀行は“人材派遣銀行”といわれていたけど、商工中金も人材派遣したらどう?

 関根 要請はたくさんありますね。ただ、応えられていないのが現状です。

 江上 米国の成長企業には、2000年以降にスタートアップしたところが目立ちます。近ごろはクラウドファンディングなど支援の方法はさまざまですが、米国に比べ日本は体制があまり整っていないと感じます。

 関根 過去の経験や実績に基づいて審査する方法は限界があります。このやり方を変える必要はあるでしょう。たとえば、開発力があって製造は得意だけれども、営業力や財務の弱い会社があるとしたら、われわれは弱いところをサポートする体制を整えてあげる。

 江上 一般的に目利き力というのがあるでしょう。私も銀行の支店長時代に、融資先の社長の顔を見ながら、「夜逃げしないよね」と聞いていました。「しません!」とハッキリ言う社長もいたね。

 関根 経営者が情熱を持っているかどうか、誠実かどうかが基本でしょう。

 江上 せんえつですが、最後にひとつだけアドバイスしますね。決して職員を焦らせてはダメです。焦らなければ客の姿が見えてきます。

 関根 ありがとうございます。


 (構成=矢田正人/日刊ゲンダイ)

 ※対談は【動画】でもご覧いただけます。

▽せきね・まさひろ 1957年5月生まれ。61歳。東京都出身。81年早大卒業後、第一勧銀に入行。2005年西武鉄道に出向、07年西武HDに入社、10年プリンスホテル常務に就任。18年3月商工中金社長に。江上氏の小説「座礁 巨大銀行が震えた日」(朝日文庫)の登場人物(広報部員)のモデルとも。

▽えがみ・ごう 1954年1月生まれ。64歳。兵庫県出身。77年早大卒業後、第一勧銀に入行。築地支店長などを務め、2003年に退行。97年に発覚した総会屋事件では広報部次長として混乱収拾に尽力した。02年に作家デビュー。「失格社員」(新潮社)、「一緒にお墓に入ろう」(扶桑社)など著書多数。

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