小学校の同期生だった人たちとのあれこれ5
8.N君と僕の関係における空白の6年間
僕とN君は同じ中学に進学したが、同じクラスになったこともないし、一緒に遊んだこともない。僕の中学生活がもっぱら野球部を中心に、忙しくしていたことがその最大の理由だろう。その間に彼が何をしていたのか、僕は全く知らなかった。僕と彼が何かで絡むようなこともまったくなかった。
それでも、僕は折々に彼のことを意識することがあった。中間試験や期末試験の成績が職員室近くの壁に貼り出されるたびに、僕は彼の学年順位を確認していた。いつも僕よりは下位だったが、450人中で一桁台はいつもキープしていたから、同じ高校に進学することになるものと、勝手に思い込んでいた。
ところが、いざ、3年生の卒業近くになって、同じ高校を受験する者が一緒にその高校に願書を提出しに行く際には、彼の姿がなかったので不思議に思った。後に知ったことだが、彼は僕らとは別の高校に願書を出して、受験・入学していた。
何故そうなったのかと、考えたことがあり、二つの可能性が想定できた。N君自身は僕らと同じ高校を志望していたのに、中学側が合否に不安があるからとそれを引き止めて、それよりも合格の可能性が高い高校を彼に勧めて、彼がそれに同意したのか。或いは、中学では僕らと同じ高校の受験を勧めたのに、彼がそれを拒んで別の高校を受験したのか。
僕は後者の可能性が高いと思った。N君はまたしても偏屈ぶりを発揮して、僕らと同じ高校に進むのを拒んだのではないか、それならいかにも彼らしいことと、愉快で嬉しかった。
そんなわけで、中学の3年間、その後の高校の3年間も引き続き、つまり都合6年間、僕は彼と一度も会わなかった。そして、やがては彼のことなど、思い出すことさえなくなった。
ところが、大学生になってから、僕はキャンパス内で彼と再会することになった。予想外のことだったが、キャンパス内を歩いているうちに、偶然に会ったわけではなかった。その逆に、僕ら二人が共に、あるいは片方が、是非とも会いたいからと、誰かに頼んで引き合わせてもらったわけでもなかった。
偶然と必然の絡み合いによる縁のようなものが、僕らを引き合わせた。当時、僕はそのように思った。
9.大学での殆ど7年ぶりの再会
後に知ったことだが、僕らには共通の知人として在日学生のK君がいた。両者ともに大学入学後にそのK君と出会った。
N君は工学部の同じ学科の新入生同士としてK君と出会ったらしい。他方、僕は同じ在日の新入生同士として、学内の在日サークルの催しに参加した際に、K君を紹介された。大学内には、南系と北系と在日学生のサークルが二つあり、僕は後には南系のサークルで活動することに決めるが、それ以前に両方のサークルと関係を保っていた時期にK君と出会い、好感を抱いた。しかし、その後、K君は北系のサークルを選択して、南系のサークルとは縁遠くなって、それ以降には時折、偶然にキャッパス内ですれ違う程度になった。
それはともかく、久しぶりにキャンパスで出会った際に、K君がそのN君の話を切りだした。
同じ工学部の同じ学科で、しかも、アウトドア活動が趣味という縁もあって、親しくするようになったNという学生が、小中時代に僕と一緒だったというので、会ってみないかと言うのだった。
そのK君の話で初めて僕は、N君と僕が同じ大学に通っていることを知ったし、そのN君がアウトドアを趣味にしているなんて、すごく意外だった。
それからほどなくして、そのK君とN君が連れ立って、キャンパス内の約束していた場所に姿を現した。僕はN君とずいぶんと久しぶりに会えて嬉しく、笑顔を浮かべて、挨拶したが、言葉を多く交わしたわけではない。たった数分くらいだったが、話すことは何も思い浮かばず、旧交を温めるというわけにはいかなかった。そもそも旧交などないも同然だったから。それも当然のことだった。そして、それがN君の姿を僕が見た最後の機会だった。
(「小学校の同期生だった人たちとのあれこれ6」に続く)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます