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日本の労働生産性はなぜ低いのか

2024-05-31 01:33:06 | 話の種

「日本の労働生産性はなぜ低いのか」


最近発表された日本の大企業の好決算とその問題点については、これ迄に何回かに分けて述べてきたが、ここではよく言われる労働生産性について考えてみたいと思う。

日本の労働生産性が低いということはよく言われており、現にOECDの調査によると2021年の日本の労働生産性は下記のようになっている。

・「1時間当たり労働生産性」:49.9ドルで加盟38カ国中27位。(1970年以降、最低順位)
・「1人当たり労働生産性」:81,510ドルで加盟38カ国中29位。(1970年以降、最低順位)
(これはポーランド、ハンガリーといった東欧諸国や、ニュージーランド、ポルトガルとほぼ同水準で、西欧諸国では労働生産性が比較的低い英国やスペインより2割近く低い。)
・「製造業の労働生産性」:92,993ドルで加盟主要35カ国中18位。
(これはフランス、韓国とほぼ同水準で米国の6割弱。2000年にはOECD諸国でもトップだったが、2000年代に入り順位が低落するようになり、2015年以降は16~19位で推移している。)

「労働生産性とは」(Productivity)

労働生産性:「労働力や設備などを投入したことで得られる成果量の割合」(一般的な定義)
      「生産諸要素の有効利用の度合い」(ヨーロッパ生産性本部による定義)
(*生産諸要素とは機械設備・土地・建物・エネルギー・原材料など、生産に必要なもののこと)

労働生産性は、「労働者1人あたり、又は1時間あたりに生産できる成果を数値で示したもの。」
(*一般的には「労働者1人に対しての付加価値額」を労働生産性とするケースが多い。)

*労働生産性の種類

「物的労働生産性」
・生産量の効率性を数値化(産出量の具体例としては総生産額(売上高))
・労働者1人が働いた成果に対する金額や生産量のこと。
(例えば労働者1人が働いたときに1,000個の製品を生産する現場よりも、1,500個の製品を生産できる現場のほうが物的労働生産性は高いといえる。)

「付加価値労働生産性」
・付加価値に対する効率性を数値化(産出量は、総生産額から原材料や外注費などを引いた金額)
・企業が生産した成果に対する金銭的な「価値」を示すもの。
(例えば製造業では、外部から仕入れた原材料を加工して新たなモノを作り販売する。これらの仕入れや加工にかかった金額と販売額の差を「付加価値」と考え、どれくらい付加価値を生み出しているかの効率を計るもの。)

*労働生産性を求める際の計算式
 労働生産性 = 産出量(output) / 投入した経営資源(input)
(産出量は生産量や成果(付加価値額)、経営資源は労働量(労働力や時間)のこと)

もう少し具体的に言うと、

物的労働生産性の計算式(「生産量」を成果と考える)
・物的労働生産性=生産量÷労働量(労働者数、又は労働者数×労働時間)
計算例:従業員数10人、各従業員の労働時間8時間、商品の総生産数量400個
・労働者1人あたりの物的労働生産性:生産量400個を投入した労働量(10人)で除して40個となる。
・労働時間1時間あたりの物的労働生産性:生産量400個を投入した労働量(10人×8時間)で除して5個となる。

付加価値労働生産性の計算式(「付加価値額」を成果と考える)
・付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量(労働者数、又は労働者数×労働時間)
計算例:従業員数4人、各従業員の労働時間5時間、商品の売上額100万円、原材料費など諸経費合計60万円
・労働者1人あたりの付加価値労働生産性:付加価値額(100万円-60万円)を投入した労働量(4人)で除して10万円となる。
・労働時間1時間あたりの付加価値労働生産性:付加価値額(100万円-60万円)を投入した労働量(4人×5時間)で除して2万円となる。

*生産性向上と業務効率化との違い
「生産性向上」と「業務効率化」の主な違いは対象範囲

業務効率化とは、業務の「無理・無駄・ムラ」をなくして効率よく業務を進められるようにすること。
(業務プロセスの中で効率の悪い部分を省くことが業務効率化の具体例)
生産性向上とは、生産性を高めて企業が効率よく利益を上げられるようにすること。
(業務効率化は、生産性向上を実現するためのひとつの手段)

*企業規模別/業種別の労働生産性

企業規模別:
一般的に、大企業の方が中小企業と比べて労働生産性は高い傾向にある。
しかし、業種によって企業規模別の労働生産性には差があり、特に情報通信業や製造業などの機械化が進んでいる業種では顕著に差が見られる。
一方多くの人手を必要とするサービス業などの業種は、企業規模による大幅な差は発生していない。

業種別:
金融業や不動産業などは労働生産性が比較的高く出やすい。これは少人数でも多くの利益を生み出しやすい産業構造となっているため。
一方サービス業などの業種は多くの人手を要するため、労働生産性が低くなりがちな傾向にある。


「日本の労働生産性が低い理由」

これについては種々説明があるが、当方が納得できるもの及び考えついたものを記しておく。

・雇用形態
(年功序列と終身雇用)
給与体系は成果によるものではないので、何もしていなくても給料は支払われる。また正社員であれば身分も保証されているので、ある程度の年齢になり先が見えてくると、あまり仕事をしない或いは意欲的に働かない人も出てくる。その結果全体としての成果は同じでも人数で割った労働生産性は低下することになる。(但しこの制度自体には利点もあるが)

(新卒採用)
日本では新卒採用が大半で、社内教育をしてから社員を戦力としている。従ってこの分、時間と費用がかかるので生産性は落ちることになる。(この制度にも利点もあるが)
(米国などでは即戦力となる中途採用が一般的なので当然労働生産性は高い。)

・長時間労働
従来から日本では長時間労働をするということは、それだけ仕事をしていると見られる傾向がある。
また残業代が生活費の一部になっているということもある。
更に上司が帰らなければ帰れないという悪しき風潮(意識)もあり、これらが労働生産性を低下させる原因にもなっている。

・社内組織・制度
稟議書や報告書・会議などが多いことも業務の効率化を妨げる原因となっている。
(海外ではトップに伝わるスピードが早く、またトップの決断も早い。また決済が担当者個人の裁量に任されている部分も多い。)

・業務のアナログ管理
給与計算や書面の発行から郵送、各種申請や承認など、事務作業やデータ管理にかかわる業務を手作業で行っているところも多い。未だにFAXを使用しているとか、ハンコ文化などもその例。時間と労力の無駄となっている。

・客先回り
日本では何かにつけて体面形式を重視する傾向がある。顧客開拓のための訪問もあるが、商談は別として、さして用事がなくとも御機嫌伺などで客先に出向くことも多い。「生保レディ」と呼ばれる保険の外交員などは大量の人員がおり日々客先を訪問しているが、その成果は訪問回数・時間に見合ったものとは思えない。

*この他に日本の労働生産性が低い理由は中小企業の存在にあるとの意見もある。
日本は欧米諸国に比べて中小企業が多く生産効率を妨げているとの意見だが、これについてはそのような面もあるにせよ、一方自動車産業などに顕著に見られるように、これらの産業は中小企業の存在によって成り立っており、それにもかかわらず大企業が中小企業の利益を圧迫し、生産性を低くしているという側面も見逃してはならない。(日本の中小企業の生産技術の高さはよく知られているところ。)

*労働生産性は、収益の減少以外に、ひとつの業務に携わる人数が多くなったり、作業する時間が増えたりすれば、低くなる。欧米の先進国と比べると、同じ価値を生み出すために日本で投入されている労働者数や労働時間は多いため、結果として労働生産性は低くなっている。


労働生産性を向上させるには、「成果主義」を取り入れるとか「能力給」にするとか、或いは「チーム作業」の見直しとかいろいろと言われているが、私はこれらについては賛成できないところがある。
(欧米はこのスタイルだから労働生産性が高いのは当然で、逆に日本が低いのも当然である。)
私が成果主義に反対の理由については「年功序列と成果主義」のところで述べているが、このような欧米流の合理主義は日本人には向いていないと思われる。
(日本が総中流社会から格差社会になってしまたのも、経済状況の問題は別として、このことに起因するところが大きい。)
勿論、日本経済を発展させ国民全体の所得を向上させるには、生産性を高めるということは必要不可欠であり、このこと自体を否定するものではない。
しかしその方法は、我々国民性に合ったもので、納得できるものでなければならないというのが私の考えである。

 

(追記)

言い忘れたが、日本企業の生産性が低いのは、大企業の内部留保の貯め込み過ぎということも忘れてはならない。内部留保自体は生産性に全く寄与しない。この資金を「設備投資」「人材育成」「新規事業開発」などに投資されることによって、はじめて生産性向上に寄与する。(その可能性が出てくるということ。)

如何に資金が効率よく使われいるのかは、B/S(バランスシート)のROE(自己資本利益率)を見ると分かる。
日本企業のROEは国際比較でみるとかなり低い。東証が2022年7月に公表した資料によると、ROE15%以上の企業の割合は、日本が19%であるのに対して、米国が61%、欧州が49%となっている。
これは日本企業の資本効率が悪いということで、生産性を下げる原因にもなっている。

 

 


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