転生の宴

アヴァロンの鍵対戦会「一番槍選手権」を主催するNishiのブログ。最近はDIVAとDBACのプレイが多めです。

COJショートショート:クエスト・フォー・ザ・ムーン その5

2014-08-26 00:13:31 | 創作物(M・o・Aちゃん他)
昨日は色々あって夜から吉祥寺へ。
時間も無かったのでCOJもダラバーもそこそこ程度のプレイとなりました。
ひとまず「9消し」はガサ星系に入っていて、
多人数以外はすこしずつ埋めている感じです。

――

そんな訳で久々にショートショートの更新です。
「京極院 沙夜」が主役の連作「クエスト・フォー・ザ・ムーン」の最新話となります。
お楽しみ下さい。

・過去作品
クエスト・フォー・ザ・ムーン その1
クエスト・フォー・ザ・ムーン その2
クエスト・フォー・ザ・ムーン その3
クエスト・フォー・ザ・ムーン その4

エージェント・イン・スイムスーツ(1話完結)

<<<クエスト・フォー・ザ・ムーン その5>>>

作:Nissa(;-;)IKU

とある研究施設の会議室。ホログラムディスプレイには無人の都心の風景が映し出されている。

「ドライブ」会議室の奥、一人の少年がホログラムキーボードをなぞると、画面に全身を葉で覆われた人型の物体が現れた。その横には識別コードが表示されている――《ハッパロイド》。

「アタック」少年が再び入力を行うと、ハッパロイドが画面奥に向かってスライディングを決めた。「ブロック」ハッパロイドはその場で身構える。「エボルブ」ハッパロイドの周りに光が集まり、やがてそれは巨大な甲虫の姿になった。横では《クワガドス》の文字が点滅を繰り返している。

「見事だ」斜向かいの席に座る白衣の老人が腕を組みながら頷いた。「君が入ってわずか1日で、ここまで仕上がるとはね」「今までが悠長すぎたのです」少年は率直な意見を述べた。金髪碧眼の、整った顔立ちを持つ少年である。「既に100人を越えている犠牲者のことを考えれば、一刻の猶予もありません」

「やはり君を呼んだのは正解だったな」老科学者は腕組みを解き、少年の方へ向き直った。口は悪いがその技術と才能は計り知れない――老科学者は彼の実力を高く評価していた。「この技術が実用化されれば、エージェント達の活動範囲は大幅に広がるだろう。それによってより多くの人々を救えるようになる」

「高々100個程度のデータを具現化するだけの作業です」少年は画面を切り替え、1つのファイルを表すアイコンにポインタを合わせた。「今からそのプロトコルを共有できるよう、ファイルを発信します。これがあればバイトのキーパンチャーでも出来る簡単な作業になります」

――

昼下がりの校庭では生徒達が教員達の指示のもと、組ごとに整列させられていた。その一番端の生徒達はジャージやレオタード姿のまま、不安そうに周囲を見回していた。丁度ダンスの授業中であったのだ。

事は授業時間の半ば、30秒程度のダンスを1人ずつ実演しようという時に起きた。節子――そう、先日沙夜を見舞いに行った赤毛の少女だ――は課題曲に合わせてリズミカルなダンスを披露している最中であった。

曲が転調し、盛り上がろうというところで、彼女は急に動きを止めた――正確には動けなくなったのだ。彼女の周りを霧のような光の粒がまとわりつき、全身を縛り上げたからだった。声にならない悲鳴を上げながら身悶える節子だったが、霧が彼女を覆い尽くし、そして屋内から消し去ってしまう方が先であった。

「人体発火」――この都市伝説めいた言葉を思い起こした生徒の1人によって火災警報器のボタンが押され、その結果がこれである。

教員たちがスパッツやジャージ姿の生徒たちの前に集まる。詳しい状況を訊く為である。建物から火気が感じられないことからいたずらの可能性を疑われ、詰問に近い質問攻めを受けたために泣き出す生徒も現れだした。

「先生ー!」ジャージの少女が駆け込んできたのはその時だった。「沙夜さんが、京極院沙夜さんがいません!」教員たちは一斉に顔を見合わせた。「もしかして、逃げ遅れて巻き込まれてしまったのかも…」

――

緊急避難によって無人となった校内。その中を息を切らしながら走り続ける影が1つ。沙夜である。緊急避難の隙を突いて校内に残っていたのである。

沙夜の華奢な体は白いレオタードとタイツに包まれている。彼女もダンスの授業に居合わせており、節子の「人体発火」も当然目撃している。だが彼女にはある直感があった。

(あの消え方…やはり『あるかな』に…)先日の「信玄」との会見で、彼女は異次元空間「アルカナ」の存在を知った。そして「アルカナ」が無差別に現実世界を取り込みつつあることも。

都心で起きている不可解な失踪事件やバラバラ死体遺棄事件も、恐らくその影響であろう――沙夜の直感は次第に確信へと変わっていった。だが節子が「引き込まれる」のを目の当たりにしたことは、彼女に大きな動揺を与えた。節子を救う為に自分に何が出来るか、まだ見当が付かなかったからである。

もう一つの懸念は現実世界にあった。彼女が校庭にいないことに気づいた教員たちが、間もなく校舎に入って来るであろう。もし彼らに見つかり校外に連れ出されれば、節子を救う機会は――恐らく永遠に――失われる。

沙夜の周囲では砂嵐の様な影がおぼろげに明滅を繰り返している。だが節子を救う手がかりは未だに見えない。心を休める暇も無く、彼女はあてもなく廊下を走り回っていた。

――

もうどれだけ廊下を走り続けていたであろう。ここに来て漸く沙夜は自分の教室の前に戻っていたことに気づいた。何かを思い出したかの様に、彼女は教室に飛び込んだ。

教室内にはまだ着替えの制服や荷物が残されている。自分の席に戻ると、鞄の底から「彼」が顔を覗かせているのに気づいた――「ミイラくん」である。

鞄の中身を整理した時にたまたま紛れ込んだのであろう。だが何かを訴えかけるような「彼」の青白い瞳は、彼女に何をなすべきか思い出させるには十分であった。

(何事にも準備が必要だ。十分な装備、十分な鍛錬、そして何より、頼れる仲間たち…)先日の会見が記憶から蘇る。そう、まさに「彼」こそ今一番必要な「装備」…いや、今一番頼れる「仲間」の1人ではないか。沙夜はすかさず「彼」を手に取り、胸のあたりに掲げた。

柔らかな生地の感触が掌を通して伝わって来る。沙夜の呼吸は急速に落ち着きを取り戻し、それと共に周囲を漂う砂嵐がまとまりを見せ始めた。

沙夜はふと足元に目をやった。二対の腕を持つ異形の影が4~5体。その更に下には人型の影が1体。(節ちゃんは…2階か…)彼女は教室を飛び出し、階段へと向かった。

――

2階へ降り立つ前に、沙夜は階段口から覗き込むように廊下を確認した。まだ校舎に誰かが入る様子は無い。そして壁の隅辺りを見ると、丁度件の影があった。何かの物音が近づくのに気づき、怯えている様子である。(節ちゃん…怪我は無いか…?)節子の身を案じたその時である。

(((…沙夜ちゃん…?)))突如影の方から声を感じ取ったのである。節子の声であった。(((…何処にいるの…?)))(まさか…聞こえるのか?)(((うん…よく分からないけれど、沙夜ちゃんが思っていることが聞こえるの…)))

沙夜には節子の心の声から、周りの景色を想像した。恐らくどこかの廃ビルの中で、2対の腕を持つ怪物に追われている所であろう。(((沙夜ちゃん…どうしたらいいの?)))(少なくともここはまずい…右手から怪物が迫っている)(((ということは…左手に行けばいいのね?)))

沙夜が移動を促したのには理由があった。節子の影は丁度教室と廊下を隔てる壁の間を、腰から下を床にめり込ませたまま走っている。もしこのまま現実世界に「戻された」なら、床や壁で体を「切断」され、「バラバラ死体」となって戻ってくるであろう――そう直感したからだった。

節子を怪物に襲われることなく、安全に「戻れる」場所に誘導する――しかも教員たちに連れ戻される前に。「現実」と「アルカナ」、2つの世界で同時に行われる両方の「戦い」に、沙夜は勝利しなければならないのだ。

残された時間はあとわずか。沙夜の孤独な戦いが始まった。

<<<その5おわり、その6につづく>>>

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