平成30年7月に改正された相続法の内容の続きです。
3 遺言に関する見直し
については,①自筆証書遺言の方式緩和,②遺言執行者の権限の明確化,③法務局における自筆証書遺言の保管制度が新設されます。
①自筆証書遺言の方式緩和は,自筆でない財産目録(パソコンで作成など)を添付して自筆証書遺言を作成できるようにする(新民法968条)というものです。
遺産がたくさんある人にとっては,とても良い改正となっています。しかも,登記事項証明書の写しでもよいとされていますので,とっても便利になります。
②遺言執行者の権限の明確化は,遺言執行者が遺言内容を実現することを責務とする(新民法1012条),遺言執行者の行為の効果が相続人に帰属する(新民法1015条),遺言執行者は遺言の内容を相続人に通知しなければならない(新民法1007条)とされました。
現行民法では,遺言執行者の責務の内容や,いかなる権限が付与されているのか,また,遺言執行者の法的地位や行為の効果が誰に帰属するのかも明確ではありませんでしたので,これらの点を明らかにしたことになります。
③法務局における自筆証書遺言の保管制度は,遺言者が,遺言書保管官に対して,自己の遺言書を無封の状態で保管申請することができる(遺言書保管法4条1項)とするものです。
この制度により,家庭裁判所の検認手続が不要となり,さらに,遺言書の紛失や隠匿,変造を原因とする争いを回避する仕組みが整備されたといえます。ただし,この制度は,遺言書を形式的に保管するだけですので,公証人が関与することにより法的にも有効な内容の遺言書の作成が可能となっている公正証書遺言と比べると,遺言の内容に基づく紛争を防止できるわけではありません。
4 遺留分に関する見直し
については,遺留分減殺請求権の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずるものとしつつ,受遺者等の請求により,金銭債務の全部または一部の支払いにつき裁判所が期限を与えることができる(新民法1042条~1049条)とされました。
現行民法では,遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生じるとされていたものを改正しました。これにより,最近問題となっている事業承継が進めやすくなりそうです。
5 相続の効力に関する見直し
については,法定相続分を超える権利の承継については,対抗要件を備えなければ第三者に対抗することが出来ないようにする(新民法899条の2)とされました。
現行民法では,相続させる旨の遺言等により承継された財産については,登記等の対抗要件なくして第三者に対抗できるとされていました。この改正により,登記制度に対する信頼が確保されますし,何よりも遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を確保できるようになります。
6 相続人以外の者の貢献を考慮
については,相続人以外の被相続人の親族が,被相続人の療養看護を行った場合には,一定の要件のもとで,相続人に対して金銭請求することができる制度(新民法1050条)が創設されました。
現行民法では,寄与分は相続人にしか認められていません(現行民法904条の2)。たとえば,相続人の妻が,無償で被相続人(夫の父や母)の療養看護に努めたとしても,寄与分の評価対象とはならず,遺産分割手続において寄与分を主張することが出来ませんでしたので,このような不都合が一定程度解消されることになりますね。
このように平成30年7月の相続法改正の内容を確認すると,これまで指摘されていた不都合に対して,現時点で考えられる良い方法が取り入れられていると評価できます。ただし,平成27年2月に法務大臣による諮問があり,その後,中間試案,追加私案,パブリックコメントなどを経て,平成30年7月に成立という経緯を見れば,法律の改正にはかなりの時間がかかるものだと実感させられます。
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