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判例読みますか

2018年01月29日 | 判例




【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和58年(オ)第678号

【判決日付】 昭和62年4月16日

【判示事項】 一 取締役を辞任したが辞任登記未了である者と商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役としての責任の有無

       二 取締役を辞任したが辞任登記未了である者が商法14条の類推適用により同法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役としての責任を負う場合

【判決要旨】 一 株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、特段の事情がない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を負わないものというべきである。

       二 株式会社の取締役を辞任した者は、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、商法14条の類推適用により、善意の第三者に対し、当該株式会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、同法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできない。

【参照条文】 商法12

       商法14

       商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266の3-1


       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人河合弘之、同西村國彦、同井上智治、同池永朝昭、同栗宇一樹、同堀裕一の上告理由第一及び第六のうち被上告人打本幸吉、同中山昭、同下清二に関する部分、第二、第四について
 株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの、以下同じ。)二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである(最高裁昭和三三(オ)第三七〇号同三七年八月二八日第三小法廷判決・裁判集民事六二号二七三頁参照)が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法一四条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法二六六条ノ三第一項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、被上告人打本幸吉、同下清二、同中山昭が、訴外宇野鍍金工業株式会社の代表取締役である訴外宇野登に対し、取締役を辞任する旨の意志表示をした際ないしその前後に、辞任登記の申請をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の存在については、原審においてなんら主張立証のないところである。そうすると、右被上告人らは上告人に対し商法二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負うものでないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は判決の結論に影響のない原判決の説示部分の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第一及び第六のうち被上告人田中哲夫に関する部分、第三について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右の事実関係のもとにおいて、被上告人田中哲夫は上告人に対し商法二八〇条、二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないとした原審の判断は、首肯するに足りる。論旨は、採用することができない。
 同第五について
 上告人の本件損害賠償責任を棄却した原審が過失相殺の点につき審理判断しなかつたのは当然であり、原審に所論の点につき審理不尽の違法は認められない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官角田禮次郎 裁判官高島益郎 裁判官大内恒夫 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷 巖)


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最高裁は,退任取締役に会社法908条2項の責任を負わせる要件として,「取締役を辞任する旨の意思表示をした際ないしその前後に,辞任登記の申請をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の存在する場合」と限定的に解釈しました。

取締役を退任した際には,内容証明郵便などによって退任登記について直ちに申請するよう意思を明確にして,不実の登記について明示的な承諾があったと言われないようにしましょう!

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