池田 悟≪作曲家≫のArabesque

・・・深くしなやかに・・・(音源リンクしてます)

ラフマニノフの固定楽想

2007-08-24 | 弾いたピアノ曲

素朴なメロディーの断片が数度繰り返されるや、呼応して絢爛たる和音の飛沫が隆起する…どこかで聴いたこんなピアノ曲のイメージが突然頭に浮かび、弾きたくなった。
おぼろげな記憶を頼りに再現してみるが、到底イメージには程遠い。するとますます真実の音を自分の手で探り当てたくなる。
確かラフマニノフ…持っているラフマニノフの楽譜を残らず探した。それらしい曲は見つけたが「正にこれ!」という感触では無かった。仕方なくそれらしい曲で妥協し、弾くことにした。
「この曲の記憶が自分の中で時間と共に変化し、デフォルメされたのだろう」と言い聞かせながら。
毎日1~2小節ずつ暗譜していくうちに、最初の記憶はだんだん薄れ、違和感も無くなってしまった。

ところが再現部までたどり着いた時ふと、「記憶にあったのはこの部分ではなかったか?」という気になった。
楽譜を探している際は冒頭しか見なかったから気が付かなかったが、冒頭では和音が降って来る形だったのが、再現部では隆起する形に変わる。確かにこの形だ。
しかもその直前では、パッセージが稲妻のごとく高音から最低音まで一気に駆け下り、はたと無音になる―なるほど、あまりにも印象的な再現手法だ。
見え透いているとすら思うものの悲しいかな、僕はまんまとその毒気にやられてしまった訳だ。
その曲とは、ラフマニノフの練習曲「音の絵」Op.39-3(Fis-moll)。あたり一面の鐘がさざめくようなピアニズム…ショパンとリストを交配したような。

やがて、もう一つのお気に入り、同じく「音の絵」Op.39-5(Es-moll)との共通点に気が付いた。
後者はE♭-D♭-E♭-F-D♭と、主音から全音上下に動く3つの音で始まる。そして前者の開始も何と、F♯-G♯-F♯-E-G♯と同じ動き、ただし上下逆さま!
この形は、ラフマニノフの固定楽想のようなものなのか?
Es-moll の方を暗譜して毎日弾いていた僕が、Fis-moll の方も弾かなくては、と強迫観念に襲われることになるのも、定められた運命だったのかも知れない。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿