NPO法人 地域福祉協会

清掃事業  森林事業(植栽・剪定)

高橋洋子 魂のルフラン

2015-04-17 | 音楽

高橋洋子 魂のルフラン


ショートショート     秘仏

2015-04-17 | 文学

私は池禅尼。

平忠盛の妻であった。

出家して尼となった。

 

平氏と源氏の戦

平治の乱で平氏は勝利した。

 

源氏の頼朝という幼子の処遇をめぐって

棟梁の平清盛は苦悩していた。

 

「一度私が頼朝に会って見ます」

私は

血の繋がりのない子である清盛に告げた。

 

頼朝を呼び

人となりを観察するのだ。

 

「頼朝と申します」

「お入りなされ」

 

私が鎮座する堂内に

蚊の鳴くような細々とした声を発する源氏の御曹司が現れた。

 

体躯も面も細い。

が。

そこはかとない気品と尋常ならざる重厚な雰囲気が

既にその幼童に備わっていた。

 

そして、おなごが放っておかないであろう妖しい可愛さがあった。

 

私の臍下丹田の下にある命の根源、漆黒の塊に久しく忘れ去っていた灼熱の炎が燃え上がった。

私自身の中心は、わなわなと微細な律動を始め、ねっとりとした汗が流れ落ちた。

 

彼はこれから少年から青年となって弓馬の道を修め、逞しく成長していくだろう。

一瞬。

多くのおなごにその艶やかな唇を奪われ、半開きの唇から嬌声をあげて悶える彼の姿を妄想した。

 

私は清盛に謁見した。

「頼朝は、私の死んだ息子に似ておられます。ご慈悲にて命だけは助けて下されませ」

でたらめな助命嘆願であった。

 

彼は私が秘かに愛玩する小さな仏であった。

 

高橋作