前回は「知らない・映えない・バズらない」と負の三拍子が揃った食べ物、蕎麦がきについてごく基本的なことを書かせてもらった。
「蕎麦がきはじんわりと美味しい」「蕎麦がきは簡単に作れる」「蕎麦がきはいろんな調味料をつけるだけでも美味しい」といった内容だったが、DPZで紹介して下さったおかげで非常にたくさんの方に読んで頂いた。
「そんな食べ物あるんだ!」とか「じゃあ今度作ってみるかな」とか、或いは「え?蕎麦がきなんて当たり前の食べ物じゃないの?」と、私と同じ衝撃を受けた方もいらっしゃると思う(おそらく住んでいる地域などによっても蕎麦がきのポジションは変わってくるのだろう)。しかし、一番多くの人が抱いた感想は恐らくこれだろう。
「蕎麦がき研究家なんて言っておきながら、分類図の一つも作ってねーのかよ!」
確かに、「片手袋研究家」の肩書きをメインで名乗っている私からしても、その点はご心配おかけしたことを申し訳なく思っている。
私は道端に落ちている片方だけの手袋を15年間研究し続けてきた。
15年間で5,000枚は撮影してきただろうか?その膨大な蓄積をもとに構築したのが、「片手袋の分類法」及び「片手袋分類図」である。
これは蕎麦がきの記事なので詳細には触れないが、この分類図のおかげで「片手袋研究家」という肩書きがネタではないことを理解してもらえているのだと思う。
であるから尚のこと、蕎麦がき分類図も作らないで「蕎麦がき研究家」を名乗るのはおかしい、という皆さんの疑問は自分でも痛いほど理解できるのである。
でも安心して欲しい。蕎麦がきの分類図もきちんと構築しているのだ。
☆「蕎麦がき分類図」とは何か?
これが「蕎麦がきの分類図」である。前回、蕎麦がきの手軽さを「蕎麦粉と水を火にかけながら混ぜるだけの料理」と説明した。しかしあくまでこれは基本の蕎麦がきの話。私は研究に着手して割とすぐに、手軽であるからこそいくらでも応用できる料理であることにも気付いてしまった。しかし、新メニューを構築する際に発想の拠り所となるものが何もないのは心許ない。そこで蕎麦がきを構成する要素を幾つかに分け、それぞれに工夫を凝らせるようにしたのがこの分類図なのだ。つまり厳密に言うと分類図というよりはフローチャートに近いかもしれない。
片手袋の分類は三段階を経て行われるが、蕎麦がきは四段階設けた。
第一段階は蕎麦粉そのものに手を加えるか否か?勿論、一般的な蕎麦がきは蕎麦粉だけで作るが、そこに砂糖や粉チーズを加えてしまっても良いじゃないか。
第二段階は水分。「蕎麦粉と水」ではなく「蕎麦粉と水分」と捉えるだけで、選択肢はグッと広がる。
第三段階は味の方向性。前回、塩や醤油だけでなく蜂蜜や黒蜜との相性も良いことが判明したように、蕎麦がきはスイーツとしてのポテンシャルも計り知れないものがある。
第四段階、最後は調理法。おかず系、おやつ系、それぞれ焼いたり揚げたりすることでガラッと表情は変わる。
この分類図を作成したことにより、蕎麦がきを一番舐めていたのは私自身だったと痛感した。「蕎麦がきは次の次のタピオカ」をスローガンに頑張ろう、などと思っていたが事態はそんな生ぬるいものでなかったのである。どんな料理にも対応してしまう蕎麦がき。こりゃあ、一過性の流行り物とかではなくて、ご飯とかパンとか麺類とかに並ぶ、新たな日常食の誕生なのではないか?それって日本の食文化における一大転換点なのではないか?そんなことまで考えるようになってしまった。
煽ってばかりでもしょうがない。今回はおかず系を中心に、蕎麦がきをどんな形で応用していけるかをご紹介しようと思う。
☆何かに見立てることは新メニューの近道
これまでに蕎麦がき新メニューを考案する際、一番多く用いた手法は「何かに見立てる」というものである。蕎麦がきの最大の特徴は「モチモチした食感」にあると思う。それに近い特徴を持つ食材としては、餅・団子・お麩などがある。蕎麦がきをそれらの食材に見立て、分類図に沿って発想していけば大抵美味しいものが出来上がる。
これまでに蕎麦がき新メニューを考案する際、一番多く用いた手法は「何かに見立てる」というものである。蕎麦がきの最大の特徴は「モチモチした食感」にあると思う。それに近い特徴を持つ食材としては、餅・団子・お麩などがある。蕎麦がきをそれらの食材に見立て、分類図に沿って発想していけば大抵美味しいものが出来上がる。
(※ちなみにいずれの料理にも使用している「基本の蕎麦がきの作り方」はこちらの記事を参照してください)
例えばこれは蕎麦がきをニョッキに見立て、生クリームとゴルゴンゾーラのソースに絡めた一品。
こんな風に出来上がった蕎麦がきをニョッキくらいの大きさに丸めてソースと和えるだけ。これが信じられないくらい美味しくて、何度も作る我が家の定番メニューにまで昇格している。
同じようにニョッキからの発想で、トマトベースのソースやモッツァレラチーズなどと和えても美味しかった。
ニョッキとは少し違うが、ラザニアのように見立ててグラタンに入れてみたこともあった。これも当たり前に美味しかった。それもそのはず、蕎麦粉のクレープであるガレットという料理もあるので、蕎麦がきと西洋料理との相性の良さはある意味「当たり前」なのである。
韓国の餅、トッポッキに見立てるたのも正解だった。ニンニクと辛味が効いたスープを作って少し煮込む。最高。韓国の冷麺も麺に蕎麦粉を使用している場合が多いので、これも「当たり前」か。
ちなみに蕎麦粉の消費量ナンバーワンはロシアで、蕎麦の実を粥として食べるのが一般的だそう。蕎麦は様々な調理法で「当たり前」に世界中で食べられているのだから、蕎麦がきも日本的な型にはめる必要はないのだ。
とはいえ、日本的な料理との相性の良さは言わずもがな。
餅に見立てて磯辺風に焼いたのも美味しかった。
バター醤油で焼いて海苔を巻くだけだが、100点。
練り物のような使い方も手軽で美味しい。
これは妻がおでんを煮込んでいるのに気付き、バレないようにこっそり蕎麦がきを混ぜておいた時のもの。「え!いつの間に!」と驚く妻の顔が見たかったのだが、結果的にはおでんの具材としてあまりに馴染みすぎていて何事もなかったようにスルーされてしまった。
揚げ出し豆腐の要領で、蕎麦がきを揚げて温かいお出汁をかけるだけでも美味しかった。
この時は余っていた花麩も一緒に入れてみたが、私はこれが直木賞の選考会のテーブルに並べられても、なんの問題にもならないと思う。むしろ選考委員は帰りのハイヤー内でぼんやり考えることだろう。
(あのカリカリ、モチモチの美味いの、なんだったんだ?)
☆もっと簡単に工夫する手もある
これらは分類図でいうと第四段階、「調理法」での工夫になってくるが、もっと手前の段階でバリエーションを増やす手もある。
これは蕎麦粉に粉チーズととろけるチーズを加えて塩胡椒をし、水の代わりにトマトジュースを混ぜて作ったトマト蕎麦がき。
これなんかは鍋を火にかけて蕎麦がきが出来上がった瞬間、一つの料理としても完成しているのだから嬉しい。オリーブオイルをかけて食べたら美味しかった。
これは蕎麦がきの手軽さを証明するべく、夜釣りの途中に野外で調理した時の写真。コンビニで買ったチーズと生ハムを混ぜて作ったのだが、醤油をかけて食べたら絶品だった。このレベルの料理が野外でも数分でできてしまうのだから、今流行りのソロキャンプとの相性も抜群だと思う。蕎麦がきの可能性、無限大。
☆勿論なんとなくの発想で作ってみても良い
既存の料理に捉われることなく、「こんなの美味しいんじゃないかな?」という発想だけで作ってみたメニューも勿論ある。
チーズと明太子を蕎麦がきで包んで揚げたものなのだが、私はこれがG7の晩餐会のテーブルに並べられても、なんの問題にもならないと思う。むしろ各国の首脳は帰りの飛行機内でぼんやり考えることだろう。
(あのカリカリ、モチモチの美味いの、なんだったんだ?)
これは基本の蕎麦がきにソースをかけて食べたら美味しかったことから発想した、たこ焼き風のそばがき。
たこ焼き風と言っても、タコを包んだ蕎麦がきを油で揚げてソースやマヨネーズをかけたもの。実はこのメニュー最大の特徴は、水の代わりにダシで蕎麦粉を溶いたところ。
こうすることでかなりたこ焼きに近い風味に仕上がった。
ただこのメニューを食べた時に一つの問題点が浮かび上がった。それまではどんな調理法を試しても、蕎麦がきの風味が消えることはなく、「蕎麦がきで作る」という意味がちゃんとある料理に仕上がっていた。しかしこのたこ焼き風。ダシで溶いてソースやマヨネーズをかけた結果、流石に蕎麦の風味は後退してしまったのである。
我々は創作料理を口にした際、「これ、わざわざ〇〇を入れる必要はないよね」とか「手を加えすぎて〇〇本来の良さを消してしまっている」などと言いがちである。しかし、“食材が持っている本来の良さ”とは果たして味だけのことなのだろうか?例えば蕎麦がきの場合、蕎麦の風味は勿論のこと「モチモチの食感」、或いは「作るのが簡単」といったような要素も“食材が持っている本来の良さ”なのではないだろうか?そう考えると、このたこ焼き風蕎麦がきもやはり、蕎麦がきで作る意味がある料理であったと言えると思う。
蕎麦がきの進化はまだ始まったばかりだ。最初から通り一遍の決まり文句で可能性を閉ざさないで、皆さんもガンガンいろんな料理にチャレンジしてみて欲しい。
☆ある意味、前言撤回
前回、基本的な蕎麦がきの魅力を説明した際、こんな図を用いて「蕎麦がきは美味すぎない」という趣旨のことを書いた。
「美味いには強さと速さがある。どちらも微妙な蕎麦がきは強烈な美味さはないが、その分何回食べても飽きが来ない魅力があるのだ」と。この図で言えば青いエリアにあるのが蕎麦がきなのだ。
しかしそれはあくまでプレーンな蕎麦がきの話。これまで様々な新メニューを開発してきた結果、やり方によっては蕎麦がきも赤いエリアに持っていくことが十分できると断言する。
滋味深く優しい味わいを楽しむこともできれば、口に入れた瞬間「美味い!」と叫んでしまう料理にも化ける。もしSNSで「一週間蕎麦がきチャレンジ」なんていうバトンが回ってきても、慌てないで欲しい。そんなの余裕でクリアできるくらい、蕎麦がきを使ったメニューの幅は広いのだから。
そしてさらに、スイーツとしての実力も超一流だとしたら…。
いずれ、スイーツ蕎麦がきの魅力についても書いてみたい。
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