へしゃげる脳みそ

大きく息を吸って

電車の音 タバコの煙 小さな喫茶店のお話

2008年03月26日 | そこはかとないそれ
今日
一軒の喫茶店が閉店した

おそらくそれは
東京スポーツの一面を飾る事も
日本経済新聞の社会面に載る事も
神奈川ローカルテレビに出る事もない

マンションが
できるんだって

40年間
続けてきたそうで


僕は最後に
アイスコーヒーを頼んだ

斜めに作られたおしゃれなグラスに
おそらく手で割ったであろう ゴツゴツとした氷が入ってる

ミルクとシロップは少なめ

まず僕は
そのままブラックで飲んだ

とても濃厚で
頭がクラクラした










ここの
ハムトーストセットは絶品で
750円という安さ 正直その二倍の値段は取ってもいいと思った

最後の日でも
マスターは淡々と仕事をしていた

その光景は まるで明日も明後日も
ずーっと開店し続けるかのようだった

ブレンドコーヒー 一杯と
アイスコーヒー 一杯を飲み終わり
もうそろそろ とうとう閉店の時間


まだサヨナラ
したくなかったけど
僕等には その終わりの時間を止める事ができなかった












帰り支度をして
会計の準備をした

コーヒー 一杯分
サービスしてくれた

僕は
財布から二千円出して渡した

本当は
何かプレゼントしたかった

でも
マスターは
とても毅然とした人で
何故かそのオーラがプレゼントを拒んだ

揺れる涙腺を
我慢した

いつも通り
のど飴をくれた








マスターは笑顔が
とても素敵なおばさん

というか
おばあさんに近いかもしれない


僕は今週
日月火水木金土
毎日この喫茶店に通った

今まで
こんなに近くにあったのに
最近まで気付かなかった その穴を埋めるかのように

時間がない時は
アイスコーヒーを一杯だけ飲んだ

背が高い事を理由に
マスターは僕の事をすぐに覚えてくれた










帰り道

空を見上げた
何度も何度も空を見上げた

色がなくなってく

おそらく
僕等は最後の客だったと思う

それを
とても光栄に思った

視線が明後日の方向へ
ずれていく

僕は
東急東横線が東白楽の方へ
急行か快速で向かうのを尻目に

少し
悲しいと思った

もう飲めなくなる
コーヒーについて 

もう一緒に
行けなくなる僕等について

一人
考えていた








その後
僕は何故か
すぐにドトールへ行った

あの喫茶店との匂いの違いを
確認したかったのかもしれない

でも

そこには
予想通り

生身の人間の
しなやかさというか 奥深さはなく
コーヒーメーカーの不器用な機械音と
防腐剤入りのチョコケーキやバームクーヘンしかなかった 

アイスコーヒーを頼んだ 


おいしい 


僕なんかの安い味覚には
残念だけれど それで充分だった

でも
どこのドトールで
飲んでも同じ とても無難な味だった 
特に文句はない そもそも僕はドトールが好き


友達を
待っていた

窓から見える
大量の人の流れを見ていた

その光景は
なんとも単調で 事務的だった

僕はまた
少し悲しくなった

そんなお話



さよなら また明日













最新の画像もっと見る