滝下の天狗塚 たきしたのてんぐづか
登山日 2012年8月26日
標高 1445m
取り付き 東祖谷落合439号線沿い
駐車場 なし(439線広い路肩)
トイレ なし
水場 滝下集落跡「石積みの小さな滝」(標高940m付近)
メンバー 坊主さん、むらくも
坊主さんを誘った。
誘った先は滝下の天狗塚。
彼が一度は行きたいといってた山だが、ある日から行きたいという言葉が聞こえてこなくなった。
理由は分からないが、そこを餌を撒いて強引に誘ってみた。
すると乗ってきた。
シメシメ、誘ってみるものだ。
餌は仙人。
坊主と仙人とは似ていないが、遠縁にでもなるのだろうか?
そういえば坊主さんとの山はどれもキーワードが潜んでいる。
地獄谷から登った東光森山、女人禁制の大峰山、崖上の大佐古峰、天狗の奥庭から登る天狗岳。
そして今回は…崖上にある滝下の天狗塚。
一本の太い線で繋がっている。
終着駅は仙人なのか。
ところで仙人て子どもの頃からなじんだ言葉だが、どんなものか知らない。
ただただ長く白い髭の生えたお爺さんで、山奥の崖の上で杖をついて、霞を食って生きているとしか。
しかし、仙人は鋭い眼力があり、その教えは聡く正しい。
ウイキペディアで調べたところ、仙境にて暮らし、仙術をあやつり、不老不死を得た人を指す。羽人、僊人ともいう。
道教の不滅の真理である、道(タオ)を体現した人とされる。
仙人は基本的に不老不死だが、自分の死後死体を尸解(しかい)して肉体を消滅させ仙人になる方法がある。これを尸解仙という。
羽化昇天(衆人のなか昇天することを白日昇天という)して仙人になる天仙、地仙などがあるが位は尸解仙が一番下である。
西遊記において孫悟空は「妖仙」などと蔑称されている。
仙人もいろいろと階級があるようで苦労しているようだ。
ところで仙人が暮らすところは…仙境というところだそうだ。
仙人は主に高い山の上や仙島、天上などの仙境(神仙郷、仙郷、仙界[2])に住む。仙境とは俗界を離れた静かで清浄な所、神仙が住むような理想的な地を指す。
(中国の)東海に蓬莱、方丈、瀛洲の三つの仙人の島(三島)があるともいう。仙人がいる、あるいはそこにいけば仙人同様になれる聖地を故事になぞらえ桃源郷と呼ぶこともある(桃花源記)。
彼の山歩きはどうやら仙境を探しつつ、常に彷徨しているのかもしれない。
いまだに見つけていないようだ。
仙人としての終の棲家を探しに出かけよう。
というわけで、徳島県東祖谷にある滝下の天狗塚を439号線から取り付き、滝下集落への破線の道を使って登ることにした。
ルートは滝下集落東奥の民家から1403m峰の西側稜線に出て、西に折れ1424.8m三角点・滝下北を経由し、天狗塚へ。
わたしは1403m峰東の尾根から登ることを勧めたが坊主さんはさっちに崖の間をすり抜けたいと言う。
ここらへんが一般人と坊主から仙人へと常に高い位置を目指して努力する人との考え方の違い。
天狗塚に立ったあとは彼がそこを修行の場とするか、それとも西の鞍部から下山するか、それは誰にも分からない。
8時過ぎにいやしの温泉郷へと入る橋の所に着き、しばらくうろうろと取り付き地点を探したが分からない。
民家の西側で、沢のあるところに広い路肩があったのでそこに車を止めた。
他の方の車が一台すでに止まっていたが、持ち主は地元の方のようだ。
この沢のすぐ左側にうっすらと踏み跡らしいものがついていて、これがどうやら下山予定の破線の道のようだ。
しかし、それはもうすでに道とはいえないような荒れた状態で、歩けないことはなさそうだが雰囲気が悪い。
準備をして、祖谷川に架かる細い吊り橋を眺めながら、439号線沿いの取り付き地点を探すがやっぱり分からない。
民家の所にモノレールの道があったが、どうやらこれが破線の道のようだったので、そこから登りだした。
しかし、民家に入りそうな感じだったし、犬に吠えられたので林の中へと入り、適当に登っていくとわずかに道跡らしいのが見つかって、目を懲らしながら辿っていく。
20分ほどでガードレールのある林道に飛び出した。
舗装は施されてないが、立派な道だ。
左折する。
林道からはいやしの温泉郷が見え、その上はガスが掛かっている。
今日の天気は好くないな、雨がくるかもしれん。
強い雨が降り出したら、止めて帰ろう。
軟弱な二人はそんなことを話ながら、林道終点まで歩き、そこから破線の道を追う。
やがて鉄塔保線路の小さな標識のある尾根に出合うが、ここから明瞭な踏み跡が尾根から外れるようにして左側に2本着いている。
どれがどれだ???
迷った末に2本の踏み跡は無視して尾根を辿ることにした。
しばらくで杉林のなかにいくつもの石垣があって、集落や畑跡と思われるところに出合う。
突然右手に廃屋が現れた。
杉の落ち葉で埋まった破線と思われる道をモクモクと歩く。
石垣が続く。
またもや廃屋だ。
もう朽ちて潰れていた。
屋根の形が小屋とは違って、昔の屋敷を偲ばせている。
そろそろ破線の踏み跡から外れて右上へと振らないといけないが、少し行き過ぎたようだ。
やや引き返して、方向を確認して再び登り出す。
だんだんと登る斜面がきつくなってくる。
小雨が降り出した。
植林帯なので濡れない。
構わずにとっとと登る。
梢の間からほんのちらっと天狗塚らしい稜線と崖が見えてきた。
地図を見ながら崖のない東へと振ったつもりだったがその右手にはやや切れ込んだ乾いた沢(窪み)があって、渡る気が起きないまま直進。
とうとう目の前には崖が。
左も崖だが、なんとなく切れているような気がして、行けそうな感じだった。
しかし、地図では西に延々と崖が記されている。
地図を信用するしかない、東へと振る。
突然前方の崖辺りから、2~3度、ベ~~~という鳴き声。
どこの爺さんが彷徨い出てきたかという鳴き方をする。
姿は見えなかったが、ニホンカモシカのようです。
いよいよ、崖が険しい様相。
切れ落ちたところから奥を覗き込むと、その奥にもさらに崖が見えている。
二重崖だわ。
地理院の地図にはあくまでも一つの線の崖としてしか記されていない。
崖の真下を沿うように東へと辿り、途切れたところから急斜面を四つ足で這い上る。
右にも小さな崖が見えたので、間をすり抜けるようにして尾根の稜線に飛び出したようです。
幸いにも尾根上までの急斜面は植林されていて、最近に間伐も行われた様子。
横たわる間伐材を避けながらではあったが、当初想定していたジャングルのような樹林帯を歩くことはなかった。
用意した革手袋は無用でした。
辿り着いた稜線の様子。
稜線を西に振り、外れないように歩く。
そこここに穴が開いており、何物かの出入りした痕が。
入口は掃き清められた玄関のようで、チリ一つなかったが、辺りの岩場にはあちこちに糞の山、てんこ盛りだ。
大型ではないが小さくもなさそう、どなたの糞だろうか?
やがて四等三角点・滝下北のある標高1424.8m峰に着いた。
北西に景色が開けている。
真ん中ちょい左奥の高い山は落禿、そして右手前はサガリハゲ山だろうか?
眼前にトンガリ山が見えた。
これが滝下の天狗塚のようだ。
この姿を見て、初めて天狗の由来がピンと来た。
ほんとうに尖っている。
これではどちらから登っても急斜面を這うようにして登るようになる。
三嶺は相変わらずガスの中。
1424.8m峰を天狗塚へと下った。
振り返ると、南斜面は崖だった。
いやしの温泉郷が真下に見え隠れしている。
岩を巻いて天狗塚へと急斜面を登る。
祠のある天狗塚に着いた。
祀られていたものは麓に移されているのかなかった。
坊主さんが神妙な顔つきで写真に収まった。
仙人顔とはこのことかもしれないと思った。(残念だがカットさせていただいた)
時刻は12時を少し回ったとこ、お昼ご飯とした。
麓から練習だろうか、お祭りの太鼓の音が聞こえた。
渓から涼しい風が吹き上げてくる。
目前の三嶺はガス、雨が降っているようだ。
小粒の雨がこちらにもかかるようになり、慌てて店じまい。
西に降りる。
こちらも急斜面で木を掴みながらの降下。(写真はやや落ち着いたところでパチリ)
雨を除けるためか、頬被りしてこれで肥え桶をかついでいたら田悟作だ。
本日稜線上一番の落ち着いた雰囲気のある鞍部(二重稜線)
コブの頂きから後ろを振り返ってみた。
天狗塚の右手には丸笹山や塔ノ丸、剣山辺りが見えるはずだが、こちらもガスの中。
田悟作が木や岩を摑みながら急降下。
怖い。
コブを三つほど超えたところにやや落ち着いた鞍部があって、横たわった細い木の枝に赤と黄色のテープが施されてる。
どうやらここが分岐のようだ。
そのまま稜線を西へと行くと、1419.4m三角点・大野を経て、尾根伝いに滝下へと降りることも出来る。
こちらへのルートを辿って、三角点へ寄ってみるのもいいかなと思ったが、マニアックでもない二人はここから直に滝下へと
下山することにした。
ここまで花などは一つもなかった。
本日紅一点のちょっとばかし鮮やかななにか分からない実を見つけた。
これでも本日では落ち着いたいい雰囲気の場所でした。
やや東に振りすぎたので、少し引き返し、引き続き南東に降りる。
再び杉の植林帯に突入。
突然、ザックがフッと浮くように軽くなった。
後ろを振り返った。
坊主さんの姿はなく、誰もいない。
背中がゾクゾクッとした。
誰だ…、誰かいる?いない。
そんなはずない、誰かいるでしょ。
前方に廃屋が見えた。
どうやら破線の道に出たようだ、ホットする。
坊主さんを待った。
石垣の間の道をどんどん下る。
歩きながら考えた。
ザックに杉の木の枝が引っかかって、バネのようになってザックを持ち上げたに違いない。
きっとそうだよ。
再び廃屋が見えた。
足早にどんどん下る。
木と木が擦れグググーッというくぐもった音がする。
石垣の向こうに岩で囲まれた小さな滝がある。
集落のかつての水汲み場だろうか。
いくつもの廃屋、シンと静まりかえっている。
どこをどう歩いたのか、朝見た廃屋に再び出合った。
おや、変だ。
ここでやっと気がついた。
いつの間にか朝歩いたルートに戻ってしまって、下山予定のコースとは違う。
そのまま下った。
ところがこの道、朝にはこんな木の橋はなかったぞ。
木漏れ日が差して、いやに明るい植林帯だし、踏み跡もえらいこと綺麗だ。
やがて、朝に歩いた尾根の分岐(鉄塔保線路のある三叉路)へと辿りついた。
あじゃ~、なんだかきつねに抓まれたみたいだわ。
やがて林道に出て、そのまま林道&車道を歩いて439号線に降り立つ。
道端には植えられて残された園芸種の花が咲き。
ホオズキの赤い風船が膨らんでいた。
駐車地点に着いて、靴を脱ぎホッと一息。
わたしゃ、いつもコースを外すんだわ。
これじゃ反省しても毎回同じことを繰り返して、まったくダメだわ。
坊主さん、お疲れさんでした。
ここでの仙人住まいはやはり厳しすぎますよね。
霞だけじゃ生きていけないわ。
いやいや、生きるも死ぬもない。
不老不死じゃ、頑張れ!
取り付き8:35-林道8:51-分岐(廃屋)9:32-稜線11:28-1424.8m三角点・滝下北11:43-12:10滝下の天狗12:35-鞍部分岐13:18-石積みの水場14:12-分岐(廃屋)14:18-林道14:36-15:03駐車地点
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