むらくも

四国の山歩き

膳棚・矢筈山周回…徳島県

2014-05-12 | 祖谷山系

矢筈山            やはずやま




山行日            2014年5月9日
標高             1848.5m
登山口            つるぎ町一宇県道304号線沿い
駐車場            なし(県道304号線広い路肩)
トイレ            なし
水場             尾根および稜線にはなし(片川上流及び支流の小川や沢)
メンバ-           坊主とむらくものチマチマ隊




毎日日曜日組の坊主さんとわたし、以前から二人でチョコチョコと山へご一緒していましたが、この度、神のお告げがあってチマチマ隊という名称をいただくことになりました。
チマチマにチョコチョコを着けてチマチョコ隊とすればなおいいのですが、どこかのお菓子屋さんと間違えられても困るので、単純にオノマトペ風にチマチマ隊、いい感じです。
このことは未だ隊長の坊主さんにはご承認いただいていないのですが、たぶん、得心され10回ほど大きく頷き、大賛同されるのではないかと、そう思って隊名を拝することとしました。
チマチマ隊長坊主、隊員1号むらくも、なお多くの隊員を募集したいところではありますが、チマチマ歩きが出来る人というのはなかなかに絶滅間近の貴重種類で、坊主隊長によると、次のような特徴というか妙癖を持っておられる方に限られるようです。
その一…山頂に立つことには拘らず、これ単にチマチマと周回を果たすこと
その二…お天気のいい日には岩の上でトカゲをすること
その三…三角点を見つければ、前足で根本を掘り起こし、等級を確認すること
その四…道迷いは当たり前のこと、なぜなら道のあるところは歩かない、ただただ歩きよい所を歩くこれがチマチマ隊の大鉄則、違反した者はただちに罰金100万ガバチョをがあべらBK(口座番号は別途通知)に振り込んだ上、除名処分
その五…従って道迷いという言葉は辞書にはありませんので、途中で分からなくなったからといって引き返すことは原則ありえない、突進あるのみ。
隊長はチマチマとややこしいことはお嫌いですので、隊則はどこやらの山の会(どこやらとは申しません、っていうか知らないのであります)のように10も15も作りません、五訓であります。

というわけで今日もデタラメなプロロ-グでしたが、とりあえずチマチマ隊は出かけることにしたのです。
行き先は祖谷に聳えるかの有名な矢筈山、目的はその東にある岩場の膳棚でトカゲをする。
従って矢筈山という山頂は有名ではありますがどうでもよろしい、周回のためのただの通過点であります。



5時起床、5時半出発、気温15度の猪ノ鼻を越え、阿波五街道の一つ撫養街道、別名川北街道(県道12号線)を東へと走る。
朝陽が随分と眩しく、サンバイザ-を下げ、窓から入る風を受けながら、朝の歌をくちずさむ。
先生おはよう、皆さんおはよう、小鳥もちっちと歌っています おはよう、おはよう♪

朝だのに昼間を過ぎ、足代をも通り越し、まだ閉まっている三野にある道の駅を横目でチラッとやりすごし、中通りから右折して半田へ抜け、坊主隊長の待つ貞光道の駅。
この日は金曜日でしたが、キャンピングカ-などの車がたくさん駐車しており、テントも張られていた。
GWを外して旅行している方たちなんでしょうね。
最近はホテルなどには泊まらず、道の駅で車中泊される方が増えている。
消費税増税後、燃料代や高速代なども高くなったしで、世の中節約ム-ドのようです。

先に来て待っていた坊主隊長と乗りあわせをして、438号線を走って、岩戸温泉の少し先で右折し、民家がちらほらある片川沿いを遡る。
石ノ小屋へのピンカ-ブのところで、路肩へ駐車。
7:38、空気は冷やこく、シャツ2枚を着てスタ-ト。
片川に架かる細い鉄橋を渡ったが、対岸には造成中の林道があり、砂利などが置かれている。




造成中の林道はすぐのところで行き止まり。
踏み跡はないかとキョロキョロ探したが、見当たらない。
もともと、踏み跡を辿る気持は薄かったので、そのまま南へと入り、尾根に取りつく。




適当に登っていくといきなり伐採地に行き当たり、短い足で難儀する。
植林帯を抜け、標高1060m辺りではシロモジの三つに深くくびれた新緑の葉っぱが青空に映える。
シカの鳴き声が五月蠅いほどに山に響きわたる。




日が差し込む林床ではところどころで小さなピンク色をした花が出迎えてくれたが、これはジロボウエンゴサクのようです。
ミツバツツジが咲き残っている傍らではブナがすっかり芽吹き、色も一段と鮮やかです。




標高1100mを越えたでしょうか、やや痩せ尾根になりシャクナゲの蕾がぽちぽち。
この尾根を登った方が残して行った赤テ-プが、枝に巻かれていたが、わざわざ結んでいる。
雨でも降っていて濡れて粘着力なく、結んだのかもしれない。
8:53、標高1168mPを通過。




シャクナゲがずっと続いたあと、下草がない開けた明るいところに出る。
おそらくこの辺りは過去には笹が茂っていたのだと思いますが、シカが食べてしまったのでしょう、歩きよい気持のいい尾根です。
登山口から尾根に取りついたところで、念のため熊避けのために笛を吹いて入山したのですが、ここでも笛を吹く。




山桜の大きな木からひらひらと花びらが舞い落ちるその下では新しい芽吹きが始まっていた。
ブナではなさそうでしたが、可愛らしい新芽が枯れ葉の間からニョッ。




シカの糞がそこここに転がっていて、ところどころで樹の幹に熊と間違えそうなほどに角研ぎ跡が残っていて、
下草は毒のあるバイケイソウだけが活き活きと伸ばしている。




急登が続き、ときどき休みを入れながらゆっくりと足を運ぶ。
ここのところの気温の上昇で、飲み水は2リッタ-、そして牛乳なども持ってきているので、多少はザック重量が増えてはいるが、
涼しくて汗も出ず、飲み水もほとんど口にしなくて済んでいる。

時刻は10:45、標高が1600mを少し越えたところで苔蒸した石がゴロゴロしているところに出た。
平地と比べて気温はおおよそ9度から10度低いので、10度から11度程度だろうか。
杉や桧の植林帯を歩くのをそれほど苦にしない坊主さんも、やはり自然林がいっぱいのところを歩くのは気持ちがいいと言う。

シカは低いところから笹の葉を食べていくようで、上へ登るにつれ笹の芯だけ残っていたモノがだんだんと着けている葉が多くなってくる。




稜線が間近のようで、残雪が出てきた。
この標高になってくると、気温はグッと冷え込んでいて、樹木たちの芽吹きはまだだった。
稜線が近づいてきた。
右へ右へと弧を描くように意図的に剃らせながら登っていく。




目前に岩棚が見えてきた。
稜線には出ずに、そのまま棚の根元を矢筈方面へと進む。
膳棚、このときはこの岩棚が膳棚だとは気がつかず、根元を回って稜線に出、のちに一つのピ-クに立ったときにやっとこさこの岩が膳棚だったと気がつく。




稜線からの展望は抜群でした。
三嶺から天狗塚や牛ノ背の稜線が目の前に展開している。




手前が塔ノ丸、奥には剣山・次郎笈の主峰。
ここから眺める二つの兄弟主峰は昔、大工さんが使っていた墨壷を真横から見た形に似ているなと思った。




景色を堪能したあと、西へと進む。
後ろを振り返って坊主さんを入れて写真を撮ったが、その後ろの桧のような木が生えているピ-ク奥が膳棚だったのかもしれないと、いまになって後悔している。

道標が立ってました。
黒笠山までここから2.3km、矢筈山までは1km、因みに石堂山までは3kmと表示していた。




11:34、標高おおよそ1770m。
当初は展望のいいこのピ-クが膳棚のある位置だと勘違いしていたのですが、違っていました。
ここには岩棚はない。
ちょっと気落ちしたが、引き返して膳棚の岩に登り返すのもしんどいし、ここでお昼ご飯とした。
目の前に形のいい矢筈山のピ-クが見えています。
坊主さんとうんだら話、何を話したか、まったく覚えていないほどに馬鹿げた話題だったらしい。
坊主さんにはときどき小学生並みやといわれることがあるが、いつものことなので、全然気にも止めていない。
むしろ、小学生以下、アホだのボケだのと、幼稚園児並みです。
まどろみそうな時間が過ぎていく。
こんな時間を楽しむ事ができるのは、いまのところ、山だけのような気がする。

コ-ヒ-も飲み終わり、小さな窪みの残雪を眺めながら、矢筈山へと向かった。




振り返って津志嶽方面を撮影しましたが、手前から1770P、そのすぐ左奥が東膳棚のようで、膳棚は1770Pの陰になっているようです。
南の谷間方面には霧谷がありますが、霧谷林道が伐採地辺りから上がって来ているのが見える。
2年前、坊主さんとちょこっとだけその林道へ車を走らせたが、ガタガタのダ-ト道だったことを思い出した。




一面の笹原だ。
久しぶりに山らしい山に登ったという感じです。




こういう風景は瓶ヶ森から平家平にかけての長閑な稜線と、剣山から牛の背にかけてのゴ-ルデンル-トに観られる、四国の山の原風景です。
他にも土佐矢筈山から綱付森、塔ノ丸から丸笹山を経て赤帽子山などもそうですね。




12:48、矢筈山山頂到着。
一休み。
坊主さんの2本3本と立て続けに吸う紫煙が高く舞い漂い、匂いを残してふっと消えていく。




石堂山への尾根を下るが、ここの斜面は相当にきつかったように記憶していたが、今日下ってみるとそうでもない。
その後の多くの山行での経験の数がそう思わせているようでした。
昔、ひどいヤブだと思ったり、悪路だと感じたものも、もっと酷いところを経験すると、なんでもないことのようになる。

下る斜面からもう一度膳棚を振り返って見た。
右から黒笠山、手前左に1770mP、左に東膳棚、左奥やや低い位置に津志嶽。




石堂山方面へ、石堂山のちょい右手には御塔石が小さく見えていた。
西方面には烏帽子山の特徴のある山容が聳えている。




ドンドン下って、稜線から離れて片川へと下る踏み跡を探したが見つからず。
見逃したのかもしれない。
少し引き返して、適当なところから笹の斜面へと踏み込む。
とりあえずコンパスを片川上流へと指針方向を合わせて、一直線に下ろう。




ダケカンバの林を抜けて、やがてブナ林が現れた。




目通り3mほどのブナがあちこちに出現し、ときおり抱きつきながら下る。
抱きつかれたブナはびっくらこいてるだろう。
アブナ-と言ったかどうか。
時間はたっぷりある、途中休みながらのんびり歩く。




このル-ト上には薄い踏み跡があるだろうと思い込んでたが、まったくない。
自然そのままです。
やがて沢が現れ、綺麗な山水が流れていた。
渡って小さな尾根を乗り越えると…。




作業道らしき踏み跡があり、それを辿る。
やがて細尾根になり、行く先々でシャクナゲの花が迎えてくれた。




満開だぜ~。
シャクナゲの虜になっていると、やがて崖に差し掛かり、なおも深追い。




ツツジも咲いてるでよ~。
右手深い谷には滝が流れ落ちているのが見えた。
あら、ここは渡れないわな。
位置的にはもう少し先に進めば目的方向の地点に差し掛かるはず…。
左手へ降りるしかない、そう思った。




崖と言っていいような急斜面を降りた。
下には片川の谷が見えている。
川床に降りた。
岩だらけのところを進んでいくと、そこは滝、しかも水が落ち込むところは深めの淵だった。
左岸の登れそうな所を目で探した。

するとなにかもぞもぞ動く物が斜面に鼻を突き立てて、ゴソゴソ。
アナグマだった。
顔は見えなかったが、お尻とふさふさしたシッポが可愛らしい。

ここを突っ切るには、アナグマの居た斜面をよじ登るしかないが、その前後左右ともに崖に近い状態で、足を滑らせると大岩の上に落ち込むか、もしくは運が良くても淵に沈んでしまいそうでした。
突っ切るかどうか逡巡した。
ここは片川の上流の川床、位置的にはほぼル-ト上に近いところにあることは間違いなくて、川床を越え、左岸から右岸へ少々濡れてもジャブジャブすれば、ル-トに復帰できる。
そう思いながら、坊主さんに問いかけたところ、坊主さんは凛々しく顔を引き締めてきっぱりと引き返そうと言う。
その言葉に迷いから目が覚めた。




降りてきた崖を右へと迂回しながら、なんとかかんとか這い上がり、石楠花咲く尾根に戻ったときは正直ホッとしたが、しかし、道はなく、目を皿のようにして探したところやっとそれらしい薄い踏み跡を見つけて、右側に流れる渓へ降りたところ、対岸の先に踏み跡が続いていた。
この間、写真を撮る余裕がなかっただけにホッとした。
時刻は17:03でした。
登山口へはあとおおよそ20分から30分もあれば着く。
そう思った。




はっきりした作業道を歩きながら、坊主さんと一安心後に生まれた余裕のある会話が続く。
「あの谷へと下る踏み跡は薄すぎて、下りのル-トに使うのには不向きだわな~、しまったね、反時計回りじゃったが~。」
「あれは分からんわな、甘く見てたな~」
「それより、あの崖這い上がり、あれはそのまま降りた崖を上るのには危険じゃったわ、迂回してよかったが~。」
「いやいや、崖は下ることが出来れば、上がることは先ず間違いなく出来るはずやと、わしゃ思うとる」
「なるへそ、そりゃそうじゃが、それにしても危なかったわ~」
「あのまま滝の淵斜面を突っ切ってたら、どうなっとったやろ?」
「たぶん、怖いことになっとたぞい」
「いやいや、引き返すと言ってくれたときは、さすが坊主じゃがと思うたわ、ありがとな、良きパ-トナ-じゃ」

ところが、どすこい。
小さな小川に架かる橋を渡ってしばらく先で、目を覆いたくなるような光景が映った。
なんと伐採された杉が辺り一面に倒され、通行不能状態。




倒木を潜ったり、跨いだり、そうこうしながらなんとか突破を試みたが、ますます酷くなり抜き差しならなくなってきた。
斜面を登ってもなお切り倒された倒木が転がっている。
時間が経つばかりで焦ったが、他に手立てがない。
できるだけ上へと迂回し、やっとこさ、降り立ったところは、朝に見た林道の終点の右下側でした。
ホヘ----!
こりゃ、分からんはずやわ。

坊主さんがポツンと一言。
「もし、朝の時点で、尾根へは向かわずに、予定どおりにル-トを探し歩いてたら、あの作業道の状態を見て、今日の山行は中止したじゃろわい」
「そうじゃろわいな~」
「ちゅうことは、探さんと、いい加減な適当歩きをして良かったわ」
「う~ん、しかし、反省すべきことが大きいわ、甘かったな~」
「なんちゅうても、一番してはいかんことをやってもうたわ、道迷いの谷下りはセオリ-どおりしたらあかんな~」

馬鹿っちょチマチマ隊二人、帰りの道すがら、なんども繰り返し話したことでした。




石ノ小屋登山口7:38-膳棚11:14-11:34おおよそ1770mピ-ク12:08-12:48矢筈山13:14-分岐?13:45-滝へ迷い込み16:22-小川渡渉17:03-小さな橋17:17-18:13石ノ小屋登山口


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