マドの天狗 まどのてんぐ
山行日 2015年6月24日
標高 1245.7m
登山口 西祖谷山村下名坂瀬川松尾川出合地点林道
下山口 同上 山風呂集落跡への林道
駐車場 なし(149号線沿い広い路肩)
といれ なし
水場 日比原南標高965mP南東林道沿い標高おおよそ890m
山風呂南西沢標高おおよそ790m
メンバ- 単独
梅雨入りして早くも3週間が経った。
日毎に湿度が増していたが、夏至を過ぎて一気に高まったのか、不快感100%。
室内はジトッ!身体もジトッ!
窓から眺める遠くの山並みも、白く霞んでいるか、まったく見えないかのどちらかだ。
まれに雨上がりの日などは山肌はわりとくっきり見えていても、麓は霧が漂っていたりする。
梅雨が明けるにはまだ早い。
あと3~4週間はこんな天気が続くものと思って間違いなさそうです。
梅雨が明けるのが待ちきれない虫がいる。
雑草や葛などが生える草むらでは早くもキリギリスが鳴きだした。
キリキリキリ-と長く引っ張ったあとにはいつものスィッチョンがない。
まだ練習中のようです。
なかにはキリキリキリ-が鳴けなくて、チョッ……チョッ、チョッとだけよ~んと鳴くものもいる。
ス-パ-ではあの黄色くて甘-いマクワウリも売り出した、いよいよ夏ですね。
梅雨の晴れ間を狙ってどこかの山へと思いながら地図を眺めた。
以前からチョッとだけ気になっていたマドの天狗、ここを県道149号線が走る松尾川から登ることにした。
特に気持ちが惹かれたのは山風呂という集落跡。
国道32号線を走って祖谷口橋を渡り、しばらくのところにある出合から左折し松尾川を遡っておおよそ12km余り(出合から)、景勝地竜ヶ岳の少し先から右手に登る林道の奥にその地がある。
標高おおよそ700m~760mの山間地に昭和26年に8戸(人数不明)。昭和46年7戸31人が暮らしていたようです。
主に林業で生計を立てていたが、昭和45年頃には林業が廃り、次第に戸数を減らしていった。
かつては児童が13人いたという出合小学校山風呂分校もあったのですが、昭和55年3月31日、最後の一人が卒業し休校を経て昭和57年に廃校となった。
マドの天狗を山風呂集落跡を入れてどう周回するか、県道149号-日比原-マド-マドの天狗-旧マド-山風呂集落跡-県道149号を時計回りで歩くのか、それとも反時計回りで歩くのか、当日現地登山口に到着するまで迷った。
わたしの場合、普段は初めてのル-トでより困難さがともなう方を登りにするのですが、なぜなら危険性が高く、それ以上歩くことが困難だと判った時点で引き返すことを考慮にいれているからなのです。
そうすることでより安全に短距離短時間で引き返すことが出来る。
ところがこの日の計画である往路復路両ル-トとも、ネット検索には掛からなくて、事前情報を得ることができませんでした。
地図上では両コ-スともマドの天狗直近まで破線の道があるのですが、破線の道が廃道になっているということはこれまでに何度も経験してきており、崩れていたり、まったくの自然に還ってしまって大薮になっていたりということもあります。
特に、破線の道が尾根ではなく、川や沢を跨いだり、渓に沿っていたり、等高線の狭い中腹だったりすると、その可能性が高いとみたほうがいいようです。
6時、自宅を出発、天気予報は曇りときどき晴れ、野外は湿度高くボ-ッとした視界。
猪ノ鼻トンネル付近の気温は17度。
吉野川に架かる青い祖谷口橋を渡って出合へ。
そして左折し149号線をくねくねと竜ヶ岳方面へ。
8痔ちょい、松尾川支流の逆瀬川を過ぎたところの149号線沿いの小さな小屋のあるちょっとした広場に駐車。
8:29、スタ-トし、少し引き返した所にある擁壁に沿ってついている林道から登りだした。
迷っていた登り口は、駐車位置からほんの少し近い日比原への道で、偶然にも時計回りになりましたが、まさか軽トラが入れるような広い林道がついているとは思ってもみなかったことでした。
歩きよい林道は延延と続いていましたが、途中、いくつにも分かれており複雑でした。
つづら折れに上へ上へと辿ります。
かつてはこの辺りにも民家があったのでしょうか、地図には建物があったことを示しています。
途中一カ所でハッカの強い匂いがプ-ンと鼻を突きました。
空気はひんやりしていたのですが、湿度が高く、汗が流れ落ちます。
堪らずに長袖のシャツを脱ぎ、半袖一枚になる。
いくつかの三叉路の一つで道を誤ったようです。
直進先に小屋があって、その先は行き止まり。
林道はここまで、そう勘違いしてしまって踏み跡らしき植林の中を前進したのですが、踏み跡らしき道は完全に消えてなくなり間違いだったと気がつく。
引き返し、先ほどの小屋の前を通り、三叉路を上へ。
965mPへと続く尾根はすぐ右手上に見えてます。
思わず首筋を手で触ると、指先にふにゃりとした感触が伝わってきた。
つまんで目先に持ってきた。
毛の生えていないなにかの虫だった。
歩く先々で林道はさらに分岐してましたが、尾根上に出るように、方向と地形を確かめながら概ね南西方向へと上ってゆきます。
途中で尾根の東を巻くように林道が延びてましたので、尾根には出ず、逆らわずに南東方向、やがて南へ。
最近使われていない林道にはいくつかの倒木があったり、動物の足跡があったりしてましたが、不思議なことにカヤなどの雑草はなく歩きよい。
何年も放置されているのでしょうが、倒木を除けて、小石を片付ければ、車は十分に走れる状態を保ってました。
小さなトカゲがチョロチョロ何匹も道を横切る。
この時期はまだ子どもなんでしょうね。
体長20cmになるかならないかの細くてちょんまいヘビもチョロチョロ。
標高965mPの東直下を過ぎたところで突然に左手に景色が開けました。
左側の渓谷が松葉川で、中央の渓谷が逆瀬川、そして中央奥が風呂塔方向、ガスが掛かっている一番高い山が烏帽子山のようです。
写真が小さいので残念ですが、大きく見ると奥深い荘厳な景色が広がっているといっていいでしょう。
手前に自然林の急峻な傾斜を見せ、その向こうに杉などの森林が渓谷へと裾野を広げている。
景色の開けたところは、林道が上から崩れてきた土砂や石によって塞がれていたが、その一部分だけであって、危険はなくそのまま奥へ進むことができた。
山水がやや急な沢筋から流れ落ちていて、水場に適していた。
左斜面の緩やかな林床には三椏やシロモジが一面に生えており、特に三椏は山風呂、日比原で暮らしていた当時の人たちの一部収入源でもあったようです。
道はやがていくつもの林道が交差する峠と思しき場所に差し掛かった。
交差点の傍らには三界境を示すお地蔵さん(明治2年)が鎮座している。
時刻は10:18、マドといわれる峠だった。
カッコウの鳴き声が東の渓筋から届く。
北方向へと続く林道を歩いてみたら、小屋があって、その先へも続いていそうだったので直ぐに引き返した。
この道は尾根を通っていくつも枝分かれしていた日比原への林道に繋がるのだろうか、それとも山風呂方向へと下って行くのだろうか?
林道は峠から南東方向へと下る道と、西へ向かう道とに別れている。
西への道はおそらく旧マドに通じるものと思えた。
お地蔵さんの裏を歩いて尾根への踏み跡を辿る。
ここまでずんやり林道歩きでしたが、ここからやっと山道に入れることになり、ほっとした気持にさせらる。
標高1100mくらいでしたでしょうか、エゾハルゼミの鳴き声がしきりと聞こえてきます。
ヒグラシも混じっていると思いました。
左斜面は杉植林、右斜面は自然林、その境目付近にテ-プが施されており、山頂へと導いてくれる。
前方にマドの天狗らしい、三角形の頂が樹幹越しに見え、やがて杉植林はなくなり自然林になった。
テンニンソウだろうか、まだ伸び始めのようで背は低いが、そいう場所に差し掛かり、そこはやや開けていて、ウノハナとも呼ばれているウツギが一面に咲いていた。
東の方角に景色が見えているのだが、生憎のガスでよくは判らない。
たぶん、方角からして寒峰台地(カヤト)の向こうに烏帽子山が聳えていたのではないだろうか。
10:57、東側から回り込むようにしてマドの天狗山頂に立つ。
標高わずかに1245.7m、少し開けた山頂にはシカの糞がパラパラと地面に落ちていて、点名・天狗の三角点石柱が埋設されている。
真東には寒峰台地と思われる尾根が延々と続き、その右手には寒峰の頂が乳白色にかすんでいた。
空気が澄んでいればもっと間近に見えたかもしれないが、この日の寒峰ははるか遠くに見え、一人たりとも訪れることを阻んでいるように感じた。
落合峠まで一体どれほどの距離があるのだろう。
こちらは南東の天狗塚や三嶺方向を撮影したつもりですが、いま一つ判然としない。
10分余り景色を楽しんだあと、テ-プが施された北西への尾根を下る。
標高おおよそ1200m付近の幹に二段巻きのテ-プが施されていたが、分岐地点というものではなさそうだったので、そのまま尾根を直進。
ほどなく苔蒸した岩場に差し掛かった。
先ほどのテ-プは岩場を避けて、少し巻きなさいという意味合いにとれなくもなかったが、岩場は特段問題なさそうです。
前方に形のよい中津山が見え、足元には特徴のあるヤマシャクの実がなってました。
フタリシズカもまだ咲き残ってます。
中津山の手前に小高いピ-クが見えていますが、これが鞍部旧マドの直ぐ北西にある標高おおよそ1120mの頂きのようです。
途中にはシカが傷つけたと思われる木がありましたが、根本付近にはなにか判らない、シカではない他の動物のものと思われる4本の爪跡があります。
11:36、標高1051mの旧マドに到着。
前方左西方向に、おそらく田ノ内へと思われる道があります。
直進尾根標高おおよそ1120mP方向には薄い踏み跡があり、テ-プも施されています。
山風呂方向への破線の道を探りますが、杉植林が広がるばかりで道はどこにも見当たりません。
左写真は後方を振り返って撮影した物ですが、先ほど下ってきた尾根からの道を左へ折り返すようにしてついている道はマドへの道です。
どうやら山風呂への破線の道は跡形も無く消えていて、残っていないようです。
それとも見過ごしてしまったかのどちらかですが、前者のような気がしてなりません。
ここでマドへの道を辿り下山するということも考えましたが、一先ずテ-プの施されている1120mPへの尾根道を歩いて登り、そこから北へ進路をとり、山風呂方向へと下ってみようと思い直しました。
一登りで1120mPに辿り着きましたが、テ-プと踏み跡は北西への尾根へと続いていて、北の山風呂方向にはなにもなし。
しかし、そこは杉の林床で下草もなく歩きよい。
思い切って、北へ下ることにした。
10分ほど下ったところで、水源かん養保安林の看板を見つけたのです。
ル-トは間違ってない、このまま北へ下って行けば山風呂集落跡に辿り着けるだろう。
そう思って、ここでお昼ご飯とした。
ザックから取りだしたおむすびがコロリン、コロコロ山の中。
時刻は12:03、これから県道へ降りる距離からすると、下山には早すぎる時刻でした。
おにぎりを頬張りながら、中津山へ登ればよかったかなとも思いましたが、看板はあっても踏み跡がない状態が続いているので、このまま下山続行。
12:26、なんとなく踏み跡らしきところを歩くが、すぐに見失う。
再び踏み跡を見つけ、左が沢筋の小さな尾根をしばらく追った。
小さなカエルが飛び跳ねる沢を渡るが、踏み跡なく、荒れている。
もう一度沢を渡る。
間伐材がゴロゴロ転がる林床を乗り越えながら進むが、時間が経つばかり、しかも長く続く。
再び踏み跡に乗った。
それは古い作業道、二段巻きのテ-プが施された場所にやってきたが、踏み跡が濃い尾根方向を選んだ。
20cmばかりの小さな小さなお地蔵さんに出合った。
よく見ると周りには同じく倒れてしまった小さなお地蔵さんが3基ほどあった。
倒れていた石を小さな台座の上に立て直した。
全部で4基、拝んで先へ進んだ。
なぜかは判らないが方向が変だと感じた。
脳みそが違うという。
GPSで位置を確かめ、地図を取りだした。
破線の道からは少し南にずれた尾根を辿っている。
尾根を引き返し登った。
下るときには気がつかなかった小さな祠の跡のような石積みがあった。
どうやら先ほどの二段巻きのテ-プのところから、沢へ下り、渡ったあと左岸沿いに北東に進むのが正解のようなのですが、沢筋は荒れている。
獣道を辿った。
カケスがジェ-ジェ-騒ぐ。
再び水の流れる沢にぶつかり、それを越えると、ヤマゴボウの花が咲く場所に出たが、このヤマゴボウの原産地は中国で、漢方薬として栽培されていた物。
人家が近づいたようです。
ほどなくお釜が野ざらしになっているところに差し掛かるが、辺りには割れた瓶の欠片も散らかっていたり、古い洗濯機も転がっていた。
集落跡だろう、たくさんの石積みが残されている傍を通過。
少し先で廃屋が見つかった。
廃屋の下にある畑や小屋からは、朝歩いた日比原からの尾根と、その先にマドの鞍部辺りが見え、マドの天狗の山が見えている。
ここから眺めるマドの天狗の形は意外となだらかで丸かった。(中央右奥)
ヤマゴボウ
もう一度マドの天狗を振り返る。
この山名はどこから眺めて名付けたものかは知らないが、ここからこうやって眺めると、丁度窓を開けて頭を突き出し、いまにも顔を出そうとしている天狗に見えてしまうから不思議です。
畑に残された栗の木には花が咲き、放つ芳香が辺りに漂う。
秋にはたくさんの実が生るが、摘み取る人はもういなくて、獣たちにとってはうれしい食糧になるだろう。
民家からの道は分かり難く、適当に下って、林道に出た。
左斜面上部方向に小学校跡らしい敷地の一部が見えたような気がしたが、寄らずにそのまま下山。
小屋があって…。
石積みのカ-ブを曲がって、そこから15分ほど歩くと、県道沿いにある民家が見える。
14:23、県道に降り立った。(左写真の右側林道から降りてきた)
松尾川の川床すぐ傍に立つ神社らしき建物を眺めながら県道を歩いて、駐車地点に帰り着く。
<後記>
当日、登山口である林道入口に立つまで、山風呂側から登ろうか、それとも日比原側から登ろうかと迷っていたが、もし反時計回りに山風呂側から登っておれば、最終民家の廃屋すぐ先で道は消え、荒れた沢や、間伐材の転がる山の状態からして、登るのは諦め、引き返していたものと思われます。
それと、下りで出合った小さなお地蔵さんと小さな祠跡の尾根先は、方角的には山風呂集落の林道へと下っています。
引き返さなくともそのまま前進しておれば、林道へと繋がっていたかも判りません。
しかし、やはりここは引き返して破線付近を歩くのが原則でしたでしょうか。
旧マドからは右往左往、道なき山を歩くことの難しさを痛感した一日でした。
149号線駐車地点8:29-林道入口(149号線沿い)8:32-マド10:18-10:57マドの天狗11:09-旧マド(標高1051m)11:36-標高おおよそ1120mP11:52-12:03標高おおよそ990m水源かん養保安林標識12:18-山風呂集落跡奥地廃屋13:41-林道出口(149号線沿い)14:23-14:30駐車地点
グ-グルマップ→こちら(登山口などの位置が判りやすい地図)
ル-トラボ→こちら(距離などが把握しやすい地図)
<参考>山風呂集落跡周辺拡大図