若い朝

2006-11-22 12:59:58 | 物語
ひとつくしゃみをした。
茂みから猫が一匹飛び出してくる。わたしは気を取り直してまた、歩き出す。
おろしたての靴がまだ足になじんでいない。
駅までの道、何百回も歩いた道だけれど、
靴のせいか、時間のせいか、新鮮に感じた。


今朝、ドアのがちゃりと閉まる音とともに、
馴れ親しんだ愛しいものとはお別れをした。

人もまばらな電車に乗り、席につく。
秋の朝の色は頼りない。金色の光は車内に射し込んでくるけれど、窓の外をみれば、幼い水色だ。
夜にぎやかな街は寝ぼけ顔で、遠くに見える森は新しい日のはじまりを静かに待っている。
遠くに並ぶビルは少しづつしか動かないけれど、電車はどんどん進んでいく。
いつのまにかビルも見えなくなっている。

結局、変わらないものなんて何もない。とわたしはまた思う。
生きている限り変わっていくんだ。新しいろうそくに火がついて、燃え尽きて、
また別のろうそくに火がつけられる。
電車の外の景色のように、めまぐるしく変わっていくものと、
少しずつしか変わらないもの。
スピードの中に身をおいていると1ミリずつの変化には鈍くなる。
ある日突然何センチも動いていてびっくりし、
裏切られたような戸惑いを覚える。気づいていなかっただけなのに。
でも人生はそんなことの繰り返しなのかもしれない。





(作:ししゃも 写真:しゃけ)

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