「Letters」

精神科医からの医療に関する時事報告

発達精神医学の時代 その4

2009-07-18 13:32:19 | 日記
「精神医学」巻頭言Vol.51 :312-313.2009
発達精神医学の時代 その4
-成人自閉症スペクトラムの専門外来から見えてくるもの-

自らも重い自閉症児の母親であるローナ・ウイングによってアスペルガー症候群が再発見されたのは1981年のことであるが、我が国でその存在が広く知られるようになったのは、ここ10数年だと思われる。今日ではアスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラム(autistic spectrum disorder; ASDと総称される)の頻度はおおよそ150人に1人とされ2)、特に高機能ASDの増え方が著しい。このような高い頻度は、ほとんど統合失調症のそれと同程度であることを意味する。しかも当然ながらASD は子どもに限らない。むしろ知的に高い例では義務教育期には問題は顕在化せず、自立した対人関係と社会参加が求められる成人後に事例化することも多い。これまでのカナー型自閉症を念頭に置いた議論では、その子孫を問題にすることは実質上無かった。結婚し、子どもをもうけることは例外的であったからである。しかし、今日では上記のお母さんと同じように、子どもがASDと診断されたことをきっかけに自分にある同じ障害に気づいて相談される事例が相次ぐようになった。また大学などの高等教育機関では、当事者が大学に進学するという事態をそもそも想定していなかった。しかし、時代は変わった。ASDの当事者が続々と入学し、彼らに特有の権利意識もあって保健センターに「発達障害支援」を求めてくる事例が急増しているのである。

つづく

文献
2)Kuehn,BM: CDC:Autism spectrum disorders common. JAMA 297: 940, 2007.

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