「Letters」

精神科医からの医療に関する時事報告

おとなの発達障害専門外来を開いて その4

2010-01-22 08:26:15 | 日記
「そだちの科学」(日本評論社刊)第13号
おとなの発達障害専門外来を開いて その4

専門外来はどこへいく
 アップロードの反響は予想をはるかに越えた。当初予約制にはしない!と豪語した勢いは初日からあっけなく粉砕された。その後に当事者向けに執筆した一般書の影響もあって現在も毎日問い合わせの電話が途絶えることはない。申し訳ないことであるが電話予約は月初めに3ヶ月後の1か月分を受け付ける方式に変えて今に至っている。デイケアも申し込みは多く、かなり長いウエイティングリストができてしまっている。
 もはや自分ひとりでは対応できない。興味をもって取り組んでくれる若手の発掘、育成を急がねば。一般の精神科医にとって、発達障害はかなりの苦手意識をもって迎えられるようである。統合失調症を専門にしているからといって、神経症やうつ病は診られないと拒否する精神科医はほぼ皆無であることを考えれば不思議なことである。別に幼児の自閉症を診てくれといっているわけではないのに。逆にいえば、一般の精神科臨床に「発達」の視点がいかに欠落していたかを示すものであるように思う。
 幸いにして、最近では若手の医師が熱心に取り組んでくれるようになった。デイケアはスタッフにとって(もちろん私にとっても)まったく未知の領域、かつ大人数ではとても実施できないプログラムであり苦労は絶えることがない。しかし一方で意欲をかきたてるものともいえるようである。スタッフの絶対的不足は明らかだが、そこは各大学の心理学研究科の学生さんによびかけて多くの学生さんが手弁当で手伝ってくれるようになった。

おとなの発達障害専門外来を開いて その3

2010-01-08 18:57:30 | 日記
「そだちの科学」(日本評論社刊)第13号
おとなの発達障害専門外来を開いて その3

専門外来を開くまで
 平成19年に私は昭和大学附属烏山病院に移った。ここでは小児精神科の実績はゼロである。しかし、逆に精神科リハビリテーションでは長い歴史があり、また400床以上の大きな精神病棟を有していた。この立ち位置を生かさなければ。
小児自閉症と同様に、おとなの発達障害についても薬は基本的に無力である。二次的なうつ状態などは多いので実際には投薬する機会も少なくはないが、いわば医者にとっての最強の武器は無いに等しい。こういった事情もあってアスペルガーの大人たちが診断を求めて病院をたずねても、診断されるだけで「治療法はありません」「個性だからそれでいいんです」といわれることが多いという。薬が期待できないとなればデイケアでのコミュニケーションスキルの訓練しかない。烏山病院の伝統である統合失調症に対するデイケア・プログラムの一部を発達障害向けに修正する作業が始まった。
それからおよそ一年、精神保健福祉士や臨床心理士の皆さんの献身的ながんばりでそれなりに準備はできてきた。少数例で始めたデイケアは手探り状態ながら発達障害の人たちに居場所を提供しつつあった。満を持して病院ホームページに専門外来開設のお知らせを出したのは平成20年夏のことであった。