CATS NO POWER!

aibaさんとショウコさんと純に好評のCATS NO POWER!
(不定期更新です。)
(頑張ります。)

春、別れ26

2008-08-29 00:35:47 | 春、別れ
景色はあっと言う間に、田舎。
高速バスは、あっと言う間に僕とショウコさんを引き裂いた。
長野行きのバスの中、ショウコさんを想い、一粒だけ涙を流した。それは冬への未練ではなく、春への期待。
“ショウコさんは今頃、何をしているのだろうか?まだ泣いているのかな?大丈夫、すぐに会える。すぐに会いに行くさ。”
僕は、ショウコさんと同じ強い眼差しで窓の外を見た。春の光を薄っすらと目に宿してさ。


終わり。

春、別れ25

2008-08-29 00:22:23 | 春、別れ
「新宿まで送るよ。」
ショウコさんが震えたような声で言う。
ショウコさんの目からは今にも涙がこぼれそうだ。
それを見て、全てがグニャグニャに歪む。涙がこぼれぬよう、少し上を向き、キャップを更に目深に被る僕。
“新宿まで来て欲しい。”
心でそう思っても、妙なプライドがそれを邪魔する。
“バスの外で手を振るショウコさんを思い浮かべるだけで泣き崩れてしまいそうなんだ。だから、ダメだなんだよ。”
声を出したらきっと泣いている事がばれてしまう。だけど、言わないわけにはいかない。
僕は大きく息を吸った。
「ここでいい。」
泣いている事がバレないよう上手く言えた。
そんな僕の声を聞き、
「わかった。」
とショウコさんの震えた声。
いつもだったら「行く。」と言うはずなのに。きっと僕が泣いている事がわかったんだろうな。

僕は、切符を一枚買い、改札を抜けた。
一度だけショウコさんを振り返った。
涙が出そうになる。だから、すぐに前を向き歩き出した。まともに前が見えない。帽子が目深だからだろうか。
階段を一歩一歩上る。
振り返りたい。ショウコさんの姿を見たい。だけど、振り返らない。振り返っちゃダメだ。ここで振り返ったら長野へはきっと帰れない。だから、ダメだ。振り返る事だけは絶対にダメだ。絶対にダメなんだよ。

結局僕は、一度だけ振り返ってしまった。
改札の向こう側に、ショウコさんはまだいた。
さっきまで泣いていたショウコさんはそこにはいなかった。
そこにいたのは、強い眼差しで僕を見つめるショウコさんだった。
“大丈夫だ。”
そう思った。
何が大丈夫なのかわからないけど、とにかくそう思った。
僕は、前を向き、歩き出した。

春、別れ24

2008-08-28 23:57:43 | 春、別れ
僕はキャップを目深に被り、ショウコさんは目を真っ赤にし、西荻窪を歩いていた。
涙を何とか抑え、外へ飛び出したのだが、気を抜けば今にも泣き出してしまいそうな僕とショウコさん。
春と言えども、まだ少し寒い。
自然と僕とショウコさんの手は繋がる。
ショウコさんが力強く僕の手を握る度、歪むキャップのツバ。
キャップを被ってきて正解だった。
手を繋いで、こんなにも涙が出そうになる事があるなんて、思いもしなかった。

ショウコさん宅から西荻窪駅は約10分。
下赤塚で別れた時にも思った事が頭をよぎる。
“この駅までの道がいつまでも続けばいいのに。”
一定の速度で歩く僕ら。
一定の速度で近づく西荻窪駅。
わかっているのだが、歩くスピードは緩めない。
受け止めなければならない。逃げる事が出来ない。その現実を選んだのは僕なのだから。

ショウコさん宅を出て約10分。
僕らは西荻窪駅に着いてしまった。

春、別れ23

2008-08-25 20:37:05 | 春、別れ
時は満ちた。
何もしないで。二人でいるだけ。その時間があっと言う間に過ぎ、時は来たのだ。

僕は観念し、荷物の入ったリュックを背負った。
ズシリ、と重い。
それなりに大きなリュックにも詰まり切らないほどの思い出が、リュックから溢れ、僕の体を覆う。
リュックが、体が、心が重い。
何より、目の前の現実が重過ぎる。

「行くね。」
僕のその一言で、堪えていたものがショウコさんの目から溢れ出した。
次から次へと、溢れ出した。
それはやがて、嗚咽交じりになった。
嗚咽の中からかすかに聞こえるショウコさんの声。
「嫌だ。行かないで。」
その言葉を聞いた瞬間、くっきりと見えていたショウコさんの部屋が、そして、ショウコさんが歪んだ。
その歪みは段々と強烈になり、歪みの中から何かが零れ落ちた。
“行きたくない。”
だけど、言えないその言葉。
僕は、その言葉が零れ落ちないよう、上を見上げた。見上げても、堪えても、歪みの中から次から次へと零れ落ちる想い。
“行きたくない。帰りたくない。”
耐え切れず、今にもそれらの言葉を言ってしまいそうだった。

もうダメだ。もう口にしてしまいそうだ。
そう思ったとき、タイミングよく嗚咽がこみ上げてきた。ショウコさんの嗚咽が伝播したに違いなかった。
そこからは、心を支えていた何かが切れたように泣いた。
ショウコさんも、僕も、泣いた。
ショウコさんと出会って2年とちょっと。その2年とちょっとの間の涙全てをそこで流した。
それでも止まらない。
“行きたくない。帰りたくない。離れたくない。”
それらの想いが止まらぬように、僕とショウコさんは泣いた。
いつまでも、いつまでも。

そんな僕らを、カーテンの隙間から射す春の光が照らしていた。
その光は、憎らしいまでに春だった。