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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 20

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


前の話を読む


 

 ゆりとマルコがモニタリングルームから出たちょうどその時、ラボのエントランスの方から少年の甲高くよく通る怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「おい!ここにAIがいるってほんとか!」

 

 その声の後から、少年を諌めるような何人かの大人たちの声も聞こえてくる

「コウタ、待て落ち着け・・・!」

 何やら剣呑な様子に気づいてケンはすぐに扉を開けて部屋の外に出る。

 パタパタと床を蹴る足音がこちらに近づいてくると思ったら、次の瞬間、手に何やら鉄のパイプを持った少年が足を滑らせなが走り込んできた。

 ユリが驚いて声を上げる。

「ちょ、ちょっとコウタくん!?」

 コウタと呼ばれた少年はユリの後ろから顔を出したマルコに気が付き、手に握る鉄パイプを振りかざして身構えた。

『フアッ!?』

 マルコは異常事態を察知したようだ。この少年は自分に向かってこの鉄パイプを振るおうとしているのは状況的に明らかだった。

「ユリさん、どいてくれ!そいつをぶっ壊してやる!」

 立ち止まり固唾を飲むユリに、コウタは言った。

「コウタくん!何言ってるのやめなさい!」

 目が吊り上がったコウタは、怒りに巻かれていた。

 伸びた髪の毛を後ろで束ねて団子にしている。その小さな身体は小刻みに震えている。

 静止するユリの脇を小さな体ですり抜けてコウタはマルコに向かって突進し、その手に持つ鉄パイプを振り上げた。

『ワワワッ!』

 鋭く振り下ろされた鉄パイプはそのまま床に打ち付けられ、鋭く鈍い音をラボ内に響き渡らせた。

「きゃあ!」

 ケンに遅れて部屋から出てきたカヲリは思わず手で耳を覆う。

 反重力装置で格段に高い空中動作性能を獲得したマルコはかろうじてその一撃をかわしていた。そして、天井ギリギリまで高度を上げて退避する。

 自分の背丈では鉄パイプを振るったところで届かないと見たコウタは、手に握る鉄パイプを投げる槍のように構えて放とうとしていた。

 

「こら!お前何してんだ!」

 

 部屋から出てきたケンがその様子を見て飛び出し、すぐさまコウタの手と鉄パイプを抑え、クリンと腕をひねったと思ったら、あっという間にコウタの手から鉄パイプが奪われ、ケンの手に渡っていた。

「なにしやがる!」

 興奮した少年は鉄パイプを奪ったケンに掴みかかったが、ケンはさっと身をかわして少年の横に回り込み、鉄パイプを握る手とは反対の手でコウタの手首をとり、そのままコウタの背中側に回して関節を締めるように身動きを封じた。

「いててて!」

 手を後ろに取られて壁に寄せられ動けなくなったコウタがたまらず声を出すと同時に、後ろから追いかけてきた居た村の男たちが3人ほど駆け込んできた。

「・・・おい、コウタ!やめろ、なにやってんだ!」

 状況を見て男たちはケンに代わって身動ぎするコウタを二人がかりで両側から抑えた。

「放せよ!おい、おっさんらなんで俺の邪魔をするんだ!」

 

「ええかげんにせえ!コヲタ!!」

 3人の男たちの中でも一番年上と見える白髪交じりで大柄な恰幅のいい短髪の男が、他の二人に身体を抑えられたコウタの正面に立ち、野太い雷のような声を上げた。

 まるで空気がビリビリと震えるような大きな声だった。

 まさに雷に打たれたかのように、コウタは動きを止めた。それまでつり上がっていた目が一瞬呆けたように丸くなった。

 そして、うなだれ下を向き、身体がまた小刻みに震えだした。

 コウタと呼ばれたその少年は、力なく泣いていた。

 コウタに雷を落として叱りつけた恰幅のいい男は、泣き出したコウタの垂れた頭をじっと凝視しながら腕を組み仁王立ちしていた。

 しばらくそうしていて、コウタから完全に殺気がしおれていることを見た男は、ユリとケンを交互に見て「すまなかった」と小さな声をだした。とても丸くて穏やかな、やさしい声だった。これがこの男の普段の声なのだろう。

 

 まるで閻魔大王のような形相でコウタを一喝した男の目尻には、笑みで刻まれた笑い皺が刻まれている。普段はよほど気の優しい人に違いない。

「ユリさん、ごめんな。あなたも大丈夫ですか?」

 鉄パイプを手にしたケンに向かって男は問いかける。

 大丈夫だとうなずくケンに、男もうなずくと、天井ギリギリに制したままのマルコを見上げて言った。

「おまえさんも大丈夫か?すまんかった」

 

 すっかりしょげて力なく泣くコウタは男たち二人に両脇を抱えられながら、ラボのエントランスの方に向かって離れていった。

 その状況を見てスルスルとマルコは天井から大人たちの目線の高さまで降りてきた。同じく部屋から出てきていた博士とカオリの間に静止する。

『ビックリしました〜、突然のことでナニがナニやら・・・』

「素晴らしい身のこなしだったぞ。反重力装置を開発したワシに感謝するんじゃな」

 

ユリが恰幅のいい男に向かって話した。

「大さん、コウタくん、大丈夫かしら・・・」

 

 ゆりに大と呼ばれたその男は、軽くため息をつくとエントランスのロビーに置かれたソファに大人二人に挟まれて腰掛けるコウタを見てうなずくと、事情を知らないケンとカヲリにむかって説明した。

「コウタはAIに両親を奪われてから、AIと聞くもの全てを恨んでいるんだ」

 

・・・つづく

 


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主題歌 『Quiet World』

うたのほし

作詞・作曲 : shishy

唄:はな 

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