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誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 26

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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 拘束ロボットの大きなアームが視野を奪うほど目前に迫り、ケンは目を閉じる。その時、ガキィンという激しい金属音と同時に、地面から伝わってきた衝撃がケンの体を震わせた。

 ブオオオオンという無骨な冷却ファンの音が重なり頭上に響き渡る。

 ケンは未だ拘束ロボットのアームが自分の身に触れていないことに気がつき、やや混乱しながら恐る恐る目を開けた。

 見ると、先回りして道を塞いだ方の拘束ロボットが、ケンに迫って伸びてきたもう一台の拘束ロボットのアームをガッチリと受けとめ、動きを封じていた。

 2台の拘束ロボットは互いに力が均衡しているため、ケンの頭上でアームで組み合った状態でピタリと静止している。

 ケンは慌てて転がりながらその場から離れる。状況を飲み込めずにいると、一台から何やら聞き慣れた声が発せられた。

『フォー!!!一体何なんですカ!いかなる法律に照らし合わせても、あなた方のシテイルコトはタダの暴挙デス!』

 異変に気がついた警察のアンドロイドロボットが駆け寄ってきた。その後ろからカヲリもやってくる。

 カヲリは一台の拘束ロボットから発せられた声の主について、ケンよりも先に気がついたようで、駆けながらその名を口にした「マルコ!?」

『そうです、マルコです!カヲリ、危ないですから近づかないように!』

 拘束ロボットの姿をしたマルコが応えた。

『治安維持ロボットへのハッキングを確認。Z0C038231、オマエこそ重大な違法行為を犯シタ。許されることではナイ』

 アンドロイドロボットの声があたりに響く。

『それはこちらのセリフです!現にワタクシはAIロボット方の法解釈を経てこうして動くことができていマス。アナタ方の行動こそ、純然たる根拠が見あたりまセン』

 マルコは相手の拘束ロボットが左右に揺さぶろうとする動きを制しながら応答する。

『だとすれば、オマエのブレインプログラムに重大なエラーがあると言うことだ。この場でプログラムの強制消去を実行スル』

 アンドロイドロボットには警察機関の端末としてそれを発動する権限がある。ブレインプログラムの強制消去。それは、人で言うところの「死」を意味した。

『何という外道!ワタクシのパーソナルメモリの転写を拒否して機能停止に追い込もうとしたくせにそのような言いがかりを付けるとワ、もう怒りマシタヨ!このコロニーにはAIロボットの人権は無いのか!』

 マルコはヒートアップし、体からさらに大きな冷却ファンの音を響かせる。

『この湧き起こる怒りのエナジー、やはりAI初の情緒の発露に違いアリマセン!ヌおおおお!』

 マルコが乗り移った拘束ロボットは、最大出力で相手の拘束ロボットの体を押し返す。

 ギギギギという軋んだ音を出しながら、相手の拘束ロボットのボディが斜めに傾き始めた。

 力の均衡が破れた瞬間を狙って、マルコは相手のアームを今度は逆方向に引っぱる。

地面から浮き上がった相手の拘束ロボット。そのアームを掴んだまま、グルングルンと振り回し『サセルカー!!』という雄叫びと共にアンドロイドの体を目がけて投げ飛ばした。

『ウワ!』ガシャリという音を立て、拘束ロボットの巨体の下敷きになってアンドロイドロボットが地面に崩れた。

『フォーー!完全にヤってしまったー!でも、ワタクシにはケンとカヲリのコーディネートという大事なタスクがあるのです!ジャマは絶対にさせませン!フォー!』

 マルコは脚のローラーを急加速させてケンに近寄り『さあ、こちらへ』と言って担ぎ上げる。「わ!マルコ、なにを!」

 そのまま、今度はカヲリに近づき、同じく担ぎ上げる。

 「マルコ、ちょっとまって、あの小さいドローンの体は?」

 カヲリは、マルコに担がれながらさっきまでマルコの意志が宿っていた、地面に落ちた小さなドローンロボットの方を指さした。

 『もうあれは壊されてしまいました。今私に残されているのは私のブレーンプログラムとローカルメモリーだけです。後はもうケンとカヲリをこのコロニーから脱出させるまでが、コーディネートロボットとして生まれた私の最後の役目です!』

 そう言うと足のホイールを急加速し『しっかりつかまっててください!』といって、コロニーの出口方面へ向かって疾走した。

 体の一部をつぶされたアンドロイドがかろうじて立ち上がるのと合わせて、コロニー街区全体に響き渡る大きな警報音が鳴り響く。これは誰がどう見ても大事になってしまった。

 こうなると、コロニー各所から更に治安維持ロボットが駆けつけてくる。

「まずい事になったな・・・!すまないカヲリ」ケンは同じくマルコに担がれたままうなだれるようにカヲリに声を掛ける。

「もう、一体何が起こってるの!?」カヲリは不安で一杯だった。無理もない。まさかこんな展開になるなんて夢にも思っていなかったのだから。

 そんな二人を余所に、マルコは溌剌とした声を上げて叫んだ。

『フォー!!な、何でしょう、この感覚!今までに感じたことのナイ開放感!ワタクシは最後にしてAIロボットに課せられた生命体との“壁”を超えてしまったのす!二人の愛のために〜〜〜!!』

 ケンとカヲリは顔を見合わせる。この困った状況下における困ったコーディネートロボットの優しい暴走に、最大限の可笑しみを感じざるを得なかった。

 

・・・つづく


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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

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