見出し画像

誰も知らない、ものがたり。

短編小説「The Phantom City」 25

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


一つ前の話を読む


 

 アンドロイドロボのその声は冷たくて事務的だった。

 ケンはカヲリの手を離してじっとアンドロイドと、いかつい治安維持ロボ達の様子を伺う。

 ノア・メンバーであるケンには、この2メートルほどある大きなロボットは人間の速やかな拘束を得意とする事をよく知っていた。コロニー内にまれに現れる犯罪者は彼らの手に掛かればものの1分と持たずに身動きがとれない状態になってしまう。彼らは必ず2体でセットでターゲットを拘束するよう動く。

 ケンは慎重に、なるべく落ち着いた様子を装ってアンドロイドロボに問い返す。 

「確かに俺は葉山ケンだ。一般家屋の不法侵入だって?そんなことはしていない」

 ケンの言葉にアンドロイドはすかさず反応する。

『否認。ソレはこのコロニーでは意味をナサナイことをご存じなハズ。我々には揺るぎない"記録”がアリマス。葉山ケン、アナタは3日前に日高トオル、マミ夫妻の自宅ヘ不法侵入を行いました』

 このやりとりを聞いていたマルコが横から口をはさむ。

『待ってクダサイ。確かに3日前、ケンが日高夫妻の家に行ったことは事実ですが、不法侵入ではありません。この私が実際にケンと日高マミさんとの間をつないで同意の下で訪問していマス』

 アンドロイドは割って入ってきたマルコに顔を向けると、にべもなく冷たく言う。『Z0C038231。アナタの言うソノヨウナ記録は、こちらにアリマセン。』

『エッ?マザーAIのネットワークサーバにその記録が存在しないというのですか?では、ワタクシのローカルメモリーからの転写の際に不具合があったのでしょうか。では、幸い3日前の記録ですから、まだワタクシのローカルメモリーに残っていますので、再度マザーネットにアップロードしましょうか・・・』

 そう言って、コロニー内の全ての情報をメモリーしているマザーAIのネットワークサーバにアクセスしようとしたその瞬間、マルコに異変が起きた。

『ガ、ガがッ!!ピピピー』

 異音を発すると同時に顔を表示した液晶モニターが激しく点滅する。

『ア!ナ、ナニヲ!??ガがッ、ピピー、ピピー』

「どうしたの!?」明らかにおかしいマルコの様子を見てカヲリが叫ぶ。

『ピー・・・ブツ』

 マルコは強制シャットダウンされたように表情を消し、ドローンの羽の回転も止まり、飛んでいた小さな体が地面に落ちてガシャリという音を立てた。

「マルコ!!」カヲリは慌ててマルコの体を抱き上げる。

 停止したドローンの羽を持つボディと消えた液晶画面。その機体からは無機質な冷たさしか感じられない。

その様子を見てケンはアンドロイドに向かって叫ぶ。「一体何をした!」

『サテ?壊レテシマッタノデショウカ。イズレニシロ、ワタシの責任外の出来事デス』

 拘束ロボットのボディの中から、ブオオオオンという冷却ファンの駆動音の高まりが聞こえる。いつでもこちらに飛びかかる準備は出来ているということだろうか。

『さア、オトナシク着いてくるか、拘束サレルカの二択デス』

 アンドロイドの冷たい声が発せられると同時に、肩に付けられた警告ランプが点灯した。

 このランプが点灯しているという事は、すでにこの場では拘束ロボットによる威圧・制圧行為が法的に認められた事になる。

 ここで捕まれば、おそらくトオルの二の舞だ。精神疾患患者としてではなく、まずは不法侵入の容疑者として拘束される。

 そして、この様子だと、その後さらに根拠の無い嘘の事実をでっちあげられ、なすすべもなく投獄されるのがオチだ。

 陰謀論として頭のおかしな連中の戯れ言として片付けられてた数々の噂。今、目の前に純然たる事実として証明されてしまった。

 しかし、自分がここで捕まれば、それは明日からもくだらない"陰謀論”として片付けられて終わってしまうのだ。

「マルコ!・・・マルコ!」カヲリは依然動かないマルコの機体を抱えて必死に呼びかけている。

 拘束ロボは2体セットで一人を拘束する。ということは、カヲリは今のところは拘束の対象外だ。自分がどうなったとしても、直ぐには危害を加えられないだろう。そう考えたケンは、とにかくカヲリがいるこの場から、少しでも離れようと意を決した。

 その瞬間、地面を蹴って走り出すケン。

ウオオオオーーンというけたたましいサイレン音がアンドロイドロボットから発せられると同時に『確保!』の声が発せられる。その瞬間、高速ロボットが2体とも動きだす。周りにいる人々は騒然となってそばを離れ、遠くから成り行きをやじ馬のごとく見守っている。

 ギュイイインという高周波のモーター駆動音が響き渡ると、足に付けられたローラーが煙を上げて急回転しながら地を滑るように走り出す。そして、背を向け駆け出したケンに向かって一気に近づいていく。

 初速が着いたところで拘束ロボットの内の一台が更にスピードを上げて、走っているケンの前へと回り込む。後ろから追うもう一台とで挟むつもりだ。

 生身の人間と拘束に特化したロボット。そのスピードの差は歴然だった。

 あっというまに前に回り込まれ、ケンは行く手を阻まれ、足をとめる。

 そして、後ろから迫るもう一台の拘束ロボット。 

「ちくしょう!」カヲリからまだ30メートルも離れないうちに、早くも絶望的な状況へと追い込まれ、そのやりきれなさに思わず叫ぶケン。

 後ろからやってきた拘束ロボットの長い腕がグインと目の前に伸びてくる。ケンは膝から崩れて思わず身をかがめる。

「うわあああ!」

 

・・・つづく


次の話を読む



主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy  

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ものがたり」カテゴリーもっと見る