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1993年度に作成した2025年展望の検証(山形県新庄市の事例)

2012年01月07日 | 雑感

1993年度に山形県新庄市で、「新庄市長期展望(2025年度の姿)」という報告書をまとめたことがある。市の総合計画を作成するにあたり、10年後の検討をしても、これまでの趨勢の目標設定しかできない。このため、まず30年後の目標を検討し、その過渡期として10年の目標を検討するというものであった。当時の市の企画課長の発案で、私はその考え方に深く共感し、調査を受託したのだった。

この報告書について、かねがね検証をしてみたいと思っていた。検証は2つの側面で行う必要がある。1つは20年近く前に検討した30年後の動向分析がどれだけ当たっているか、分析方法は適切であったかという将来展望等にかかる分析内容の点である。もう1つは、この長期展望の検討後、新庄市のまちづくりがどのように進んできたかという実践評価の点である。ここでは、報告書に示された分析内容の事後評価をしてみたい。

(1)外部環境の将来動向を1つのシナリオでしか検討しない

 報告書では、2025年に向けた当時の将来予測情報を分野毎に束ね、地域を取り巻く将来動向として整理した。これと新庄市の地域特性をすり合わせ、新庄市の課題を抽出、課題を解決した姿として、新庄市の将来像を設定し、その実現シナリオやプログラムを検討した。ロジック的には問題はないと思うが、外部動向を迷いなくひとつのトレンドとして整理していることに問題がある。当時は、シナリオプランニングという方法を知らず、将来動向を規定する要因の抽出や要因によって分解される複数のシナリオを整理するという知恵はなかった。このため、整理した外部動向は結局、差し障りのない最大公約数的、トレンド的なものとなっている。

(2)危機管理意識が不足し、希望観測的な将来動向しか指摘していない

 外部環境の将来動向に示された内容をみると、地球環境問題や国際競争の激化等を示しているが、基本的に成長を前提とする楽観的なものとなっている。金融恐慌やテロ、紛争、自然災害、原発事故等のドラスティックの動きの可能性は何も指摘できていない。ベースにしている経済成長率の予測は1991年の経済企画庁のもので、1990年代後半は1.75~3.75%、2000年代は1.5~2.75%である。実際には、5年平均でみると、1990年代後半で0.97%、2000年代前半で1.30%、後半で0.11%である。人口ピークも2011年と予測しており、日本経済や社会の急激な縮小を何も指摘できていない。

(3)技術や開発を未来志向で捉えすぎている

 交通ネットワークについては、IVHS(自動運行システム)やリニアエクスプレスを2010年頃に導入という資料を利用している。また、海上都市やリゾートオフィス等を掲げている。既にバブル崩壊に頃であったが、発想はバブル期と同じ頭であったように思われる。ただし、予想以上に技術普及が早かったこともある。それが高度情報通信の普及である。当時の予測資料では、B-ISDNの整備が2010年頃、全国の家庭や事業所への普及は2015年頃としている。実際にはインターネットの普及により、末端での映像通信は10年以上早く実現したことになる。

(4)その他予測通りになったこと、ならなかったこと

 ある程度、予測通りになったことは、海外の森林破壊の進展による木材の自給率向上、インフラの新規投資の一巡と更新需要・維持管理費の増大、地球温暖化対策の進展等である。モノからココロヘ、表面的な豊かさから内面的な豊かさへの移行等もトレンド通りという意味では当たっているだろうか。しかし、NPOの台頭、市民社会の流れを何も指摘できていないことは、致命的である。

当時、新庄市長期展望を作成する際、新庄市の将来目標像は外部環境の動向分析をきちんとやれば自ずから見えてくるという方針であった。しかし、上記のように外部環境の動向分析に欠陥があるため、作成したビジョンやプログラムも自ずから不十分なものであると思う。

今、あえて過去の長期展望の検証と反省を記したのは、各所でつくられている長期計画の役に立つのではないかと考えたためである。新庄市長期展望における危機意識の欠如は、当時のあらゆる検討に共通するものと思われる。これからつくる計画等では、危機の想定を避けず、また合意形成を重視した無難なものにならないようにすべきである。

新庄市のまちづくりの検証は機会があれば行ってみたい。なお、1990年代前半という時期に長期展望をつくるという発想をもたれた当時の企画課長には敬意を表したい。そして、その先駆的な発想を十分な形にしきれなったことの力不足を反省し(当時は一生懸命やったのだが)、せめて今後に役立てるようにしたいと思う次第である。

 

 

 

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