情報通信が高度化すると、情報通信を利用することで、どこでも好きなことを行うことができるようになり、場所の持つ意味が薄れる可能性がある。全てがオンラインで代替され、人が集まる場所が無くなるのだろうか。
答えはノー。情報通信では伝えることができない匂いや雰囲気を、リアルな場所(空間)は持っているからである。しかし、リアルな場所(空間)はさらに魅力的であり、そこに行かないと味わえないような固有の価値を持たないと、ますます閑古鳥の鳴く状態になることも確かである。つまり、高度情報化社会では場所の持つ魅力や価値がますますと問われる時代となる。
コミュニティ・ビジネスを創造するリアルな場所(空間)
仙台市で2008年から「お薬師寺さんの手づくり市」がスタートしている。京都・知恩寺や東京・鬼子母神の手づくり市を参考したもので、コンサルタントとライターの2人が企画し、奥羽国分寺跡である薬師寺や境内を管理する仙田市文化財課、町内会と連携して、立ち上げた。
出店できるものは自分で作ったもののみで、仕入れたものや中古品は不可。あくまで手づくりにこだわる。立ち上げた当時の出展者は50くらいだったが、現在では150ぐらいになっている。毎月8日が曜日を問わずに開催日となる。台風等で一度だけ中止したことがあるが、基本的には雨が降っても開催する。1日の来場者は2000人以上、最近では5000人を超えている。
手づくり市の企画は、手づくりのものを売る場所をつくり、「家庭内で小さな仕事をつくりたい」という発想から始まった。その後、企画を温めるなかで、「つながりと出会いを生み出す」ことがコンセプトとなった。つながり、出会う相手は、都市と農村であり、つくり手と食べ手や使い手、地域と地域、つくり手とつくり手である。ここでつながった関係は月1回出会うゆるやかな関係である。しかし、東北震災の際には、被災した出店者に見舞金を出したり、復興枠をつくって、出店を優先している。主催者の一人は「都市の中で強いつながりをつくることは難しいが、ゆるやかな関係ならつくっていける」「何かあったときに助け合える関係が大事」だと言う。
手づくり、小さなビジネス、ゆるやか、つながり・・・、これらが手づくり市の魅力を表すキーワードである。
歴史と現在、未来がつながる心地よい場所(空間)
仙台の手づくり市は、国分寺跡の薬師堂の境内を開催場所としていることも魅力の一つである。文化財である場所が持つ歴史と現在、そこで創造される未来がつながっている。手づくり市の一角では、地区の歴史を案内してくれるボランティアさんも活動している。
伊達正宗が再興したという古い建築物、そして緑があふれ、風が抜ける境内の空間、座ってくつろぐことができる土、オープンスペースに注ぐ太陽が、滞在者を心地よくさせてくれ、リラックスした雰囲気の交流を促してくれる。
歴史を日常の中に活かすこと、リアルな場所の持つトータルな心地よさを大事にしていることも、手づくり市の魅力であり、成功の秘訣である。、高度情報通信の利用が進むからこそ、それでは代替できない、手づくり市のようなリアルな場所(空間)の持つ価値がますます高まると確信した。
参考:お薬師さんの手づくり市 http://www.oyakushisan.com/