サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

根本的なライフスタイル転換のための「自己の成長」プロセスの解明に関する研究

2018年05月25日 | 環境と教育・人づくり

(1)研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」

 気候変動問題等のように、生活者に起因する環境・エネルギー負荷が問題となるなか、1990年代よりライフスタイルの見直しが研究テーマとされてきた。このための研究は、環境に配慮した行動の普及を促すという行動主義的な立場から、環境心理学や行動経済学等における行動意図や行動の実施を目的変数とする研究として、進められてきた。例えば、Schwartz(1977)の規範活性化理論、Ajzen(1991)の計画的行動理論、それらを応用した日本国内の研究等がある。規範活性化理論は行動の重要性認知、自分の責任感、道徳意識の形成といった3つの規範活性化過程を、計画的行動理論では態度、主観的な規範、行動の実施可能性により規定される行動意図の形成過程を説明する。これらの研究は短期的で漸進的な行動変化を促すうえで有用な成果を得ているが、根本的なライフスタイル転換を促すためには、転換学習による「自己の成長」プロセスに踏み込んだ研究が必要である。

 「自己の成長」については、持続可能な社会のための教育(ESD)に係る実践的研究が関連する。ESDではグローバルな諸問題に取り組むために、個人の変容(=「自己の成長」)と社会の変容を目指しており、国内外で多くの実践が行われ、その理論的枠組みやプログラム効果の検証に関する研究が行われてきた。そして、二ノ宮・阿部(2017)が指摘するように、「公害教育・自然保護教育の中で既に地域の複合的な開発的課題に向き合う営みが積み重ねられていたが、持続可能性を総合的に実現する地域づくりへの参画を通じその主体を形成する教育・学習の意義に関する議論と実践」が広がり進展してきた。しかしながら、持続可能な地域づくり(としてのESD)における「自己の成長」に関する実証的な研究が不十分である。また、東日本大震災・福島原発事故は国民の意識を大きくゆさぶる機会となり、地域主導の再生可能エネルギーへの取組み等が活発化してきたが、そのような実践における「自己の成長」プロセスの研究は今後の課題となっている。

 以上を踏まえ、本研究の対象範囲を図1に整理した。本研究は、(漸進的なライフスタイル革新のための認知や規範形成を促す普及啓発施策ではなく)根本的なライフスタイル転換のための「自己の成長」を促すESDのあり方に資することを出口とし、「自己の成長」プロセス及びその促進要因と阻害要因を明らかにする。 

(2)研究の目的および学術的独自性と創造性

 本研究は、環境・エネルギー等に係る地域づくりの実践(地域主導の再生可能エネルギーへの取組等)を通じた「自己の成長」プロセスを明らかにし、根本的なライフスタイル転換のグランドデザインと持続可能な地域づくり(としてのESD)、とりわけ転換学習に関する行政施策を検討する知見を得ることを目的とする。

 また、「自己の成長」には段階・類型があり、段階・類型に応じて「自己の成長」プロセスが異なることから、プロセスの解明に用いるとともに、段階・類型に応じた施策の実践に使う道具となるよう、「自己の成長」段階・類型を判定するチェック項目の開発を行う。

 本研究の学術的意義は3点である。第1に、ライフストーリーに関する半構造化インタビュー調査(質的調査)を積み重ね、「自己の成長」プロセスモデルを設定し、アンケート調査による同モデルの定量的検証により、根本的なライフスタイル転換を促す「自己の成長」プロセスと要因構造を解明する、これまでにない研究である。第2に、「自己の成長」段階・類型を判定するチェック項目を道具として開発することで、成長プロセスの研究や施策に貢献する。第3に、持続可能な地域づくり(としてのESD)における人づくりの側面を掘り下げ、地域づくりと人づくりの相互作用を高める施策(転換学習)に関する研究の足掛かりを得る。

(3)研究の方法と成果

①「自己の成長」プロセスモデル及び「自己の成長」段階のチェック項目の初期設定

 既往研究をもとにして、「自己の成長」プロセスモデル及び「自己の成長」段階・類型のチェック項目を設定する。「自己の成長」は、“以前の自己”→“内的な攪乱と再結合”→“成長した自己”という流れで設定できる(図2)。“転機となる出会いと根っこの気づき”が “以前の自己”の持つ認知や価値観等のアンラーニングを伴う転換学習となり、“内的な攪乱と再結合”をおこし、“脱慣習化”という行動変化を起こす。さらに、“次の体験や深い学びの追加”が“成長した自己”を確立させていく。

 ここで、「自己の成長」を社会的な視野と自己同化の対象の範囲を広げる内面の拡張とともに、内面の深化という2つの方向で捉える。内面の深化は自己実現や自己超越の方向であり、身体、無意識等を包含する自己と意識下にある自我の乖離を解消する方向である。

②持続可能な地域づくりキーパーソンへのライフストーリー調査によるモデル等の修正

 ①で設定した「自己の成長」プロセスモデルと「自己の成長」段階・類型のチェック項目を基にして、地域主導の再生可能エネルギーへの取組み等を担うキーパーソン10名程度に対して、ライフストーリーに関する半構造化インタビュー調査と「自己の成長」段階・類型のチェックを実施し、各個人の成長構造を把握し、モデルとチェック項目の精緻化と修正を行う。また、「自己の成長」の促進要因と阻害要因を明らかにする。

③自己の成長に関するWEBモニターによるアンケート調査によるモデル等の検証

 ②で修正・追加した結果をもとに、WEBモニターへのアンケート調査を行い、変数間の相関分析や共分散構造分析により、定量的に「自己の成長」プロセスモデルの検証を行う。この際、「自己の成長」段階・類型のチェック項目により成長段階・類型別に層化して、回答者を抽出し、成長段階・類型によって経験の蓄積状況、気づきや学びの状況、行動の実施状況、さらにはそれらの促進要因・阻害要因が異なることを明らかにする。

④自己の成長プロセスモデル(成長段階別)及び自己の成長段階の判定手法の活用方策

 ③の結果を基に、成長段階・類型に応じた転換学習を支援する行政施策のあり方、行政施策における「自己の成長」段階・類型のチェック項目の活用方法等を考察する。成果は学術論文とするほか、関連学会に発表し、この研究テーマへの関心喚起に貢献する。

 

【参考文献】

Schwartz,S.H.(1977)Normative influences on altruism.;Advances in experimental social psychology, vol.14, 222-280.

Ajzen,I.(1991)The Theory of planned behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes 50, 179-211.

二ノ宮リムさち・阿部治(2015):国連・持続可能な開発のための教育の10年(DESD)を通じた国内の環境教育研究・実践における成果と今後の課題,環境教育24(3),18-31.

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