サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

再生可能エネルギーの特徴:地上資源、地域資源、中間技術、社会転換の道具

2017年04月08日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

「地上資源」、「地域資源」、「中間技術」、「社会転換の道具」という観点から、再生可能エネルギーの特徴を整理する。

 

● 「地上資源」としての再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは地上(にある)資源であり、石炭や石油(さらに天然ガス)というは地下(にある)資源という点で本質的な違いがある。

地上資源は太陽エネルギーという地球外から供給されるエネルギーを源にしているため、太陽がエネルギーを地球に注ぎ続ける限り、再生可能である。薪炭等のバイオマスは太陽エネルギーによる光合成によって生産されたものであり、水力や風力は太陽エネルギーを駆動力とした水の循環(蒸発→降水→流水→蒸発)や大気の循環(温度差、気圧差による空気の移動)の力を借りる。

これに対して、地下資源は、地下に埋蔵された有限な資源であり、やがて枯渇する。そのうえ、地下から掘り出した資源は地上で燃焼すると二酸化炭素として放出され、気候変動をもたらしてきた。地下に封じ込められていた炭素を、地上に持ち出し、酸素と炭素を結合させた二酸化炭素という気体にして、大気中に放出させている。つまり、地下資源の利用は、地下から大気中に炭素を一方向に移動させる作業になっており、それが地球のバランスを損なっている。

地上資源であるバイオマスもまた、燃焼により二酸化炭素を大気中に排出する。しかし、大気中の二酸化炭素を光合成により、自らの体内に有機物として固定したのがバイオマスであり、バイオマスの燃焼によって排出される二酸化炭素は、大気中にあった炭素を大気中に返しているだけである。つまり、大気中の二酸化炭素は循環し、一方向に排出されたことにならない[1]

地下に封じ込まれている枯渇性の地下資源を地上に持ち出すと、地上と大気のバランスのとれた健全な状態を破壊する。一方、地上資源である再生可能エネルギーは、もともと地上にあって、大気と地上の間の自然循環からお借りする資源である。きちんとお借りする限り、自然循環が損なわれることはない。

 

● 「地域資源」としての再生可能エネルギー

再生可能エネルギーは地域資源でもある。地域資源とは地域にあるもので、人間にとって有用なものと言ってしまえばそれまでだが、地域資源の意味を掘り下げて考えると、地域資源としての再生可能エネルギーの特徴が明確になる。

永田(1988)[2] は、「地域資源」と一般的な資源を区別する側面として、「非移転性」、「連鎖性」、「非市場性」の3つをあげた。「非移転性」とは、地域から切り離して動かすことができないことを意味する。山や川のように、人為により物理的に動かすことができないというだけではない。加えて、地域の伝統的な文化や人々の伝統的な暮らし等は、地域の自然システムや社会経済システムとつながっており、切り離せないから、動かせない。

「連鎖性」とは、「非移転性」と裏腹の側面である。地域資源は相互に有機的な連鎖関係がある。地域のシステムの中に位置づけられてはじめて意味を持つものは、地域から切り離して、商品化されたとき、地域資源としての意味を失い、単なる一般的な資源となってしまう。

「非市場性」とは、「非移転性」と「連鎖性」に規定される側面である。非移転性を持つ地域資源は、遠くまで運ぶことができなく、その意味では石油資源のように市場メカニズムになじまない。永田(1988)は、次のよウに指摘した。

「特定の地域資源のみが開発対象にされたときには、地域諸資源が持つ有機的な連鎖性は破壊され、手厳しい復讐を地域住民が被ることになる。」

上記の3つの地域資源としての特徴を持つ再生可能エネルギーは、高度経済成長時代に放棄されてきた。再生可能エネルギーは、太陽、水と大気の循環、森林資源の循環、さらにそれと関わる地域住民の生業といった「連鎖性」の中にあり、発電により電気に転換すれば移出もできたが、発電技術が十分でない時代には「非移転性」が強かった。かろうじて木質バイオマスは固形燃料として、移送ができたが、大量生産・大量消費時代での適正としては安価な石炭や石油に適うものではなく、「非市場性」が強かった。

しかし、技術開発の進展とFIT等の経済的施策により、再生可能エネルギーは市場性のある一般的な資源となり、地域から切り離されて広域に融通される電力として市場メカニズムに組み込まれてきた。そして、「特定の地域資源のみが開発対象にされたときに、地域諸資源が持つ有機的な連鎖性は破壊され、手厳しい復讐を地域住民が被る」ことになった。これが再生可能エネルギーの設置ブームの問題点の本質である。このため、再生可能エネルギー関連条例には、再生可能エネルギーを地域資源として捉え、地域主体との連鎖関係を重視する理念が込められた。

 

● 地域主体にとって身近にあり、制御可能な「中間技術」としての再生可能エネルギー

再生可能エネルギー(を利用する技術)は、高度技術でも伝統的技術でもない中間技術としての特徴も持つ。中間技術について、シューマッハは、著書「スモ-ル・イズ・ビュ-ティフル」の中で、次のように記述している。

「大量生産の技術は、もともと暴力的なものであり、生態系を傷つけ、再生不可能な資源を浪費し、人間を無能にする。一方、民衆による生産は、近代の知識と経験のうち最善のものを生かし、脱中心化に寄与し、生態系の法則にのっとり、希少な資源を消費すること少なく、人を機械の奴隷にするかわりに、人に奉仕するように設計されたものである。そのような技術は、伝統的で素朴な技術よりはるかにすぐれており、一方多額の資金を要する高度技術よりは単純で安価で自由であるがゆえに、私はそれを中間技術と名付けた」

化石燃料といった地下資源、さらには高度な管理を必要とする原子力によるエネルギー供給は、エネルギーにおける生産と消費の関係を切り離し、エネルギーを消費者や地域政策から見えない、知らない、選択できないものとしてしまった。

これに対して、再生可能エネルギーは、大量な安定供給を求める市場経済では扱いにくいが、小規模分散型であり、地域主体にとって身近にあり、制御可能なエネルギーである。こうした特性は、経済至上主義や中央集権、大企業主導ではない地域づくりを目標とすることで、活かされる。

もっとも、再生可能エネルギーであっても、技術進歩やFITにより大規模化し、大資本の商売道具と化してしまった面もある。一方で、中間技術として地域・市民主導で活用されてきている。再生可能エネルギー=中間技術ではなく、再生可能エネルギーは中間技術にもなり得る(地下資源や原子力は中間技術になり得ない)と捉えることが正確である。

ここでは、中間技術という表現を利用したが、適正技術[3]、代替技術(オルターナティブテクノロジー)[4]、ソフトエネルギー[5]という表現もある。

 

● 「社会転換の(代替的な)道具」としての再生可能エネルギー

以上に示したように、再生可能エネルギーは地上資源、地域資源であり、その利用技術は中間技術としての特徴を持つ。この特徴ゆえに、再生可能エネルギーは万能の処方箋ではない。地下資源を利用し、地域資源を放棄してきた大量生産・大量消費型社会の延命のためでなく、その根本的な問題である「依存・疎外」の構造を改め、「自立・共生」の構造への社会転換を図る意志を持って利用するとき、その技術の普及は円滑なものとなり、社会転換を図るための道具として、有用性が発揮される。

ウルリヒ・ベック[6]は、これまでの産業と科学技術の発展による「近代化」が思わぬリスクを生み出し、「再帰的近代化」として我々に襲いかかってくるというリスク社会の構造を指摘した。このことは、近代化に起因する危機は、「外からの危機」のようにみえて、実は「内なる危機」であることを示している。今日の危機は社会経済システムのあり様に要因があるが、そのあり様を変えないままに、対処療法的な対策が取られがちなことに、リスクを解消しきれないわけがある。

「社会延命の道具」として再生可能エネルギーを組み込む矛盾が「再帰的」に我々に襲いかかってくる将来を想像しなければならない。再生可能エネルギーは、「社会転換の道具」の条件を備えており、それを活かした導入が望ましい。



[1]  これを「カーボンニュートラル」という。

[2]  永田恵十郎(1988)「地域資源の国民的利用」、社団法人農村漁村文化協会

[3]  適正技術は、主に開発途上国に対して、先進国の技術を無修正に持ち込むこへの批判から生まれた考え方。中間技術や代替技術を含む考え方であるが、地域や時代の状況に対して適正なものを選択する必要性を強調する。

[4]  ディビット・ディクソン(1980)「オルターナティブ・テクノロジー」時事通信社を参照。原著は1970年代に、近代科学技術の問題に対して、オルターナティブの必要性をいち早く指摘した。

[5]  エイモリー・ロビンス(1979)「ソフト・エネルギーパス-永続平和への道」時事通信社を参照。ハードに対するソフトなエネルギーとして再生可能エネルギーを意味づけた。

[6]  ウルリヒ・ベック(1986)「世界リスク社会」法政大学出版局を参照。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 被災地におけるエネルギー自... | トップ | 主なマイワークの見取り図 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

再生可能エネルギーによる地域づくり」カテゴリの最新記事