環境省が試案として取りまとめた「生物多様性保全のための国土区分」では、日本の国土を地理的、生物的観点から、10地域に区分している。10地域とは、①北海道東部、②北海道西部、③本州中北部太平洋側、④本州中北部日本海側、⑤北陸・山陰、⑥本州中部太平洋側、⑦瀬戸内海周辺、⑧紀伊半島・四国・九州、⑨琉球列島、⑩小笠原諸島である。島嶼における地理的隔離と、動物地理区の境界線の他は、植生に大きく影響を及ぼすと言われる温量指数と降水量で区分している。
■「生物多様性保全のための国土区分」の基準
○地史的成立過程から見た島嶼の特性
海洋島である小笠原諸島は、その成立過程から特異な生物相を有しているため、海洋島(小笠原諸島)と大陸島(それ以外の島嶼)を区分の第一の指標とした。
○動物地理区上の境界線
日本列島は大陸から分離して成立したが、奄美諸島以南の島々は大陸島の中で最も古くから独立した島であるため、動物相の固有性が高い。また、北海道は大陸とのつながりが長く続いたため北方要素の強い独自の動物相が見られる。
このため屋久島・種子島と奄美諸島との間に引かれた渡瀬線及び本州と北海道の間に引かれたブラキストン線の2つの生物地理学上の境界線を区分の指標として用いた。
渡瀬線……屋久島・種子島と奄美諸島との間、七島灘(トカラ列島)に東西に引いた生物地理上の境界線
ブラキストン線…本州及び北海道の間に引かれた生物境界線)
○気温
気温は、緯度及び標高が高くなるほど低下し、植生帯を規定している。このことから、温量指数(吉良竜夫(1945)の考案による積算温度の一種で、月平均気温5℃を越える期間内の個々の月平均気温から5℃を減じて加算した値)を区分の指標とした。植生や生物相の概略的な水平的差異を示すため、北海道では便宜的に温量指数55 、本州では常緑広葉樹と落葉広葉樹の分布を境界付ける85 を境界線とした。
○降水量
脊梁山脈を境とする冬季の降水量(最深積雪深50cm )により、植生タイプが分かれることから、これを区分の指標とした。また、気候(降雨量の少ない瀬戸内海型気候)及び植物相の特性から、瀬戸内海周辺と、紀伊半島・四国・九州をそれぞれ独立の区域とした。
■「生物多様性保全のための国土区分」10地域の特徴
○第1区域:北海道東部
わが国で最も寒冷な地域で、亜寒帯に属し、年降水量は少ない。北方針葉樹林が発達し、然別湖周辺や知床半島等にはエゾマツ・トドマツ林等からなる大規模な針葉樹林が広がっている。ヒグマの生息密度が高く多数のエゾシカが生息する。また、タンチョウやシマフクロウ等、他の区域では見られない生物が生息する。
○第2区域:北海道西部
冷温帯の中で亜寒帯へ移行する地域であり、年降水量は少ないが日本海側で多雪である。南西部・黒松内低地帯でブナ林の北限に達し、それを越えた地域ではエゾイタヤ、ミズナラなどの夏緑樹林や針広混交林が発達する。エゾマツ・トドマツ林等の亜高山帯針葉樹林は、支笏洞爺国立公園等に比較的広く残されている。生物相は第1区域と類似しており、ヒグマやエゾシカも生息するが、第1区域ほど生息密度は高くない。
○第3区域:本州中北部太平洋側
冷温帯に属し、年降水量は中位である。本州の中では寒冷であるが冬期の積雪は少なく、イヌブナ等の夏緑樹林が発達している。荒川源流域のブナ・イヌブナ林や赤石山脈のブナ林等は、この区域におけるまとまった夏緑樹林である。本州、四国、九州の他地域と共通して動物相の固有性が高い。ニホンイノシシやホンシュウジカが分布するが、これらは本州中北部日本海側にはほとんど見られない。
○第4区域:本州中北部日本海側
冬期の多雪によって特徴付けられる区域である。本州の中ではもっとも寒冷で、冷温帯に属し、年降水量は中位である。夏緑樹林が発達し、特にブナ林はこの区域を特徴付ける植生である。白神山地、十和田湖・八甲田山や飯豊山地、白山等には大面積のブナ林が広がっている。動物相は本州、四国、九州の他区域と共通して動物相の固有性が高く、カモシカ、ツキノワグマ等が生息する。
○第5区域:北陸・山陰
暖温帯に属し、年降水量は中位だが冬期の積雪が多い。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイやウラジロガシ等からなる照葉樹林であるが、現在では隠岐島等にわずかに見られるのみである。標高の高い芦生や氷ノ山、大山等にはブナ林が見られ、区域を特徴付ける植物としてユキツバキ等が挙げられる。動物相は本州、四国、九州の他区域と共通して動物相の固有性が高く、ツキノワグマ等が生息する。
○第6区域:本州中部太平洋側
暖温帯に属し、年降水量は中位で冬期の積雪は少ない。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイ、タブノキ等の照葉樹林であるが、現在では伊豆諸島や房総半島等にわずかに見られるのみである。伊豆半島や鈴鹿山脈等にはわずかにブナ林も見られる。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンザル等の生息により特徴付けられる。
○第7区域:瀬戸内海周辺
暖温帯に属し、年降水量が少ないことが特徴である。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイ、タブノキ等の照葉樹林であるが現在では香川県の金比羅宮や愛媛県の高月山等にわずかに見られるのみである。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンザル、ホンシュウジカ等が生息する。
○第8区域:紀伊半島・四国・九州
暖温帯に属し、年降水量は比較的多い。この区域の生物学的特性を示す植生はイスノキやウバメガシ等の照葉樹林で、熊野川流域や屋久島にはまとまった照葉樹林が分布する。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンイノシシ、ホンシュウジカ等が生息する。
○第9区域:琉球列島
亜熱帯に属し、年降水量が多い。亜熱帯林が発達し、マングローブなど南方要素の強い植物が見られる。奄美大島や沖縄本島北部のやんばる地域、西表島にはまとまった照葉樹林が分布する。動物相は極めて固有性が高く、ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコ等の生息により特徴付けられる。
○第10区域:小笠原諸島
亜熱帯に属し、年降水量は中位である。ヒメツバキ等に特徴付けられる海洋島型の亜熱帯林が見られ、父島や母島にはシマイスノキが優占する亜熱帯林が分布する。動物相は極めて固有性が高く、オガサワラオオコウモリ等の生息により特徴付けられる。
出典)環境庁「平成10年版環境白書」1998年、
環境庁「生物多様性国家戦略」2002年
■「生物多様性保全のための国土区分」の基準
○地史的成立過程から見た島嶼の特性
海洋島である小笠原諸島は、その成立過程から特異な生物相を有しているため、海洋島(小笠原諸島)と大陸島(それ以外の島嶼)を区分の第一の指標とした。
○動物地理区上の境界線
日本列島は大陸から分離して成立したが、奄美諸島以南の島々は大陸島の中で最も古くから独立した島であるため、動物相の固有性が高い。また、北海道は大陸とのつながりが長く続いたため北方要素の強い独自の動物相が見られる。
このため屋久島・種子島と奄美諸島との間に引かれた渡瀬線及び本州と北海道の間に引かれたブラキストン線の2つの生物地理学上の境界線を区分の指標として用いた。
渡瀬線……屋久島・種子島と奄美諸島との間、七島灘(トカラ列島)に東西に引いた生物地理上の境界線
ブラキストン線…本州及び北海道の間に引かれた生物境界線)
○気温
気温は、緯度及び標高が高くなるほど低下し、植生帯を規定している。このことから、温量指数(吉良竜夫(1945)の考案による積算温度の一種で、月平均気温5℃を越える期間内の個々の月平均気温から5℃を減じて加算した値)を区分の指標とした。植生や生物相の概略的な水平的差異を示すため、北海道では便宜的に温量指数55 、本州では常緑広葉樹と落葉広葉樹の分布を境界付ける85 を境界線とした。
○降水量
脊梁山脈を境とする冬季の降水量(最深積雪深50cm )により、植生タイプが分かれることから、これを区分の指標とした。また、気候(降雨量の少ない瀬戸内海型気候)及び植物相の特性から、瀬戸内海周辺と、紀伊半島・四国・九州をそれぞれ独立の区域とした。
■「生物多様性保全のための国土区分」10地域の特徴
○第1区域:北海道東部
わが国で最も寒冷な地域で、亜寒帯に属し、年降水量は少ない。北方針葉樹林が発達し、然別湖周辺や知床半島等にはエゾマツ・トドマツ林等からなる大規模な針葉樹林が広がっている。ヒグマの生息密度が高く多数のエゾシカが生息する。また、タンチョウやシマフクロウ等、他の区域では見られない生物が生息する。
○第2区域:北海道西部
冷温帯の中で亜寒帯へ移行する地域であり、年降水量は少ないが日本海側で多雪である。南西部・黒松内低地帯でブナ林の北限に達し、それを越えた地域ではエゾイタヤ、ミズナラなどの夏緑樹林や針広混交林が発達する。エゾマツ・トドマツ林等の亜高山帯針葉樹林は、支笏洞爺国立公園等に比較的広く残されている。生物相は第1区域と類似しており、ヒグマやエゾシカも生息するが、第1区域ほど生息密度は高くない。
○第3区域:本州中北部太平洋側
冷温帯に属し、年降水量は中位である。本州の中では寒冷であるが冬期の積雪は少なく、イヌブナ等の夏緑樹林が発達している。荒川源流域のブナ・イヌブナ林や赤石山脈のブナ林等は、この区域におけるまとまった夏緑樹林である。本州、四国、九州の他地域と共通して動物相の固有性が高い。ニホンイノシシやホンシュウジカが分布するが、これらは本州中北部日本海側にはほとんど見られない。
○第4区域:本州中北部日本海側
冬期の多雪によって特徴付けられる区域である。本州の中ではもっとも寒冷で、冷温帯に属し、年降水量は中位である。夏緑樹林が発達し、特にブナ林はこの区域を特徴付ける植生である。白神山地、十和田湖・八甲田山や飯豊山地、白山等には大面積のブナ林が広がっている。動物相は本州、四国、九州の他区域と共通して動物相の固有性が高く、カモシカ、ツキノワグマ等が生息する。
○第5区域:北陸・山陰
暖温帯に属し、年降水量は中位だが冬期の積雪が多い。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイやウラジロガシ等からなる照葉樹林であるが、現在では隠岐島等にわずかに見られるのみである。標高の高い芦生や氷ノ山、大山等にはブナ林が見られ、区域を特徴付ける植物としてユキツバキ等が挙げられる。動物相は本州、四国、九州の他区域と共通して動物相の固有性が高く、ツキノワグマ等が生息する。
○第6区域:本州中部太平洋側
暖温帯に属し、年降水量は中位で冬期の積雪は少ない。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイ、タブノキ等の照葉樹林であるが、現在では伊豆諸島や房総半島等にわずかに見られるのみである。伊豆半島や鈴鹿山脈等にはわずかにブナ林も見られる。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンザル等の生息により特徴付けられる。
○第7区域:瀬戸内海周辺
暖温帯に属し、年降水量が少ないことが特徴である。この区域の生物学的特性を示す植生はスダジイ、タブノキ等の照葉樹林であるが現在では香川県の金比羅宮や愛媛県の高月山等にわずかに見られるのみである。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンザル、ホンシュウジカ等が生息する。
○第8区域:紀伊半島・四国・九州
暖温帯に属し、年降水量は比較的多い。この区域の生物学的特性を示す植生はイスノキやウバメガシ等の照葉樹林で、熊野川流域や屋久島にはまとまった照葉樹林が分布する。本州、四国、九州と共通して動物相の固有性が高く、ニホンイノシシ、ホンシュウジカ等が生息する。
○第9区域:琉球列島
亜熱帯に属し、年降水量が多い。亜熱帯林が発達し、マングローブなど南方要素の強い植物が見られる。奄美大島や沖縄本島北部のやんばる地域、西表島にはまとまった照葉樹林が分布する。動物相は極めて固有性が高く、ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコ等の生息により特徴付けられる。
○第10区域:小笠原諸島
亜熱帯に属し、年降水量は中位である。ヒメツバキ等に特徴付けられる海洋島型の亜熱帯林が見られ、父島や母島にはシマイスノキが優占する亜熱帯林が分布する。動物相は極めて固有性が高く、オガサワラオオコウモリ等の生息により特徴付けられる。
出典)環境庁「平成10年版環境白書」1998年、
環境庁「生物多様性国家戦略」2002年