1.はじめに
林業や農山村などのビジネスを考えるうえで、地域資源の活用は不可欠である。また、地域資源を活用し、発展させ、持続させていくことが、地域の魅力を高めることにもなる。
地域資源の定義や分類を整理し、活用事例を紹介しながら、地域資源を活用したビジネス戦略の視点とその方法を提案する。
2.地域資源の定義と分類
目瀬守男先生の地域資源論では、地域資源を「地域に固定され、地域の開発に利用可能な資源であり、広義には自然資源、文化的資源、人工施設資源、人的資源等を含む」と定義している。
さらに、「地域に固定されない特産品やその中間生産物としての流動資源」も含めて地域資源としている。すなわち、地域資源とは、地域に固定されたものだけではなく、地域で生産されているものも含め、そこにあるすべての有形、無形のあらゆる要素ということになる。
この他、地域資源の分類はいろいろと行なわれてきたが、それらを整理すると次のようになる。
まず、地域資源は、大きく固定資源と流動資源に区分される。固定資源は、自然資源と人文資源に分けられ、自然資源の中にも気候条件や地理的条件、人口条件などの潜在的自然資源と、生物や鉱物、水、エネルギー、風景などの顕在的自然資源がある。
また、人文資源には、歴史的、社会経済的、人工施設、人的、情報資源がある。流動資源は、農林水産物やその加工品などの特産的資源、その特産資源の途中で生産される間伐材や家畜糞尿、廃棄物などの中間生産物資源に分けられる。
このように、地域資源を幅広く捉え、地域にある様々な資源を見直してみると、ビジネスのアイディアが生まれてくるだろう。
3.地域資源の活用事例から学ぶこと
地域資源を有効に活用している事例を2つ紹介する。
高知県梼原町は、棚田のオーナー制度を全国で初めて行なった地域である。これまで放置されていた棚田を利用して、都市住民が米作りを楽しむという制度で、十年以上経った現在も継続されている。
オーナーの中には、この村に移住した者もいる。
この制度は、町がオーナーを募集して契約を交わし、棚田を持っている農家に委託して管理やサービス提供をしてもらう仕組みになっている。
オーナーになった人は、四万十川にちなんで40,010円の費用を払い、お米を作ることを義務とし、自分で作ったお米の持ち帰りのほか、宿泊施設の利用、特産物が送られてくるなどの特典がある。
梼原町の棚田オーナー制度は、棚田だけではなく、地域にある様々な地域資源を組み合わせることによって、都市住民のニーズに応えることができた。また、行政の介在が重要なポイントになる。
宮崎県諸塚村は人口2500人ほどの林業の村である。
この村は、都市部から遠隔な地であるにもかかわらず、山を活用し、逆に不便さを売りにして、村民総参加型のエコツアーを展開している。
エコツアーは、地元のお年寄りや村人の案内で、お茶摘みや田植えなどの農林業体験や、山菜採りやそば打ちなどの山の幸の食体験を行なっている。また、放棄されていた空き家を利用した宿泊施設もある。
このように、もともと地域にあるものを活用して、住民ができる範囲で、サービスを提供している。
諸塚村のエコツアーは、参加者が1回当たり30人ぐらいの小さな企画であるが、多様なメニューから選んで参加でき、リピーターが多い。毎年、同じ体験が繰り返されるが、同じ営みを繰り返し、積み重ねているのがこの地域の生活であるとし、繰り返しも含めて地域のまるごと体験を提供している。
これらの各地の事例から、活用策における地域資源の素材、仕組みの作り方、技術など様々なことを学ぶことができる。
まず、山にあるもののつながりを活かし、切り身ではなく丸ごとの生の体験を活かすことが重要である。これは、都市住民のニーズでもある。
また、小さな市場でも良く、主催者が出来る範囲で実施し、そのプロセスを楽しめて、自分たちが満足感を持てる事業となることが大切である。
さらに、波及効果のある事業が望ましい。
組織づくりでは、行政の職員がリーダーシップをとり、地元の人と一緒に活動している場合が多い。宣伝には、マスメディアを上手く活用して情報を提供すると、地域外からの注目によって地域内の理解が得られやすいだろう。
4.SWOT分析
新たな事業を展開する場合、ビジネス戦略などの分析的なアプローチが必要である。そのひとつの方法として、SWOT分析がある。SWOT分析は、マーケティングや企業戦略立案で使われ、企業や組織の外部環境分析と内部環境分析から自らの位置付けを総合的に判断するものである。
内部的要因には強みと弱み、外部的要因には機会と脅威があり、それらをマトリックスにして整理する。自分たちの状況や外部の状況、様々な活動が整理され、どのような戦略でいくのかを検討することができる。
地域資源の活用において、地域における様々な森業・山業は相互に連鎖させ、相乗的に発展させることが望ましい。そのため、地域の行政機関やいろいろな企業体が集まり、地域資源のSWOT分析を行うことにより、地域全体のビジネス戦略を策定し、共有することができる。
例えば、地域の山や木への愛着市場を醸成するため、山のエコツーリズムや学校の備品等への木材利用の促進、若い女性に対する森林エステや森林美容などの商品・サービスの提供などが考えられる。このような新たな事業は、市場の間口を広げ、市場拡大につながっていくだろう。
現在、注目すべき新たな市場として、ロハス(L O H A S :Lifestyles of Health and Sustainability)を紹介する。
これは、環境問題に関心があり、環境に配慮した生活を送ると同時に、家族や子供の健康のことを重視したしい価値観とライフスタイルをもった消費者である。このような消費者は増えてきているともいわれ、森業・山業の新たな市場になり得ると考えられる。
また、マーケットを捉えるひとつの理論に、ロジャースの普及理論というものがある。この普及理論は様々な技術革新の普及事例を分析したものである。
ロジャースは、いろいろなことを言っているが、その1つとして、何か新しいものにはイノベーター(革新者)といわれる人々が約2.5%おり、次にイノベーターに追随するアーリー・アドプター(初期採用者)が約13%いるという普及モデルを示している。
これらの初期採用者が15%ぐらいになると、一気に市場が立ち上がりロジスティックの成長曲線になる。
このことから、イノベーターだけをターゲットとする市場とする考え方や、アーリー・アドプターを対象にしてさらに大きな市場を狙うといった考え方があり、それぞれの対象特性にあった、それぞれの戦略が求められることがわかる。
市場や消費者の特性を把握し、何を求めているのか、何に関心があるのかを分析することは、事業を展開する上で重要な作業である。
5.まとめ
地域資源を活用したビジネス戦略を行なう場合、地域の山にある資源のつながりを活かすことが大切である。
また、SWOT分析によって地域の状況と周辺市場の動向分析を行ない、他の人々と一緒に大きなビジネスにしていくという地域全体の戦略を立てることが必要である。
小さなビジネスを戦略的に展開することが、大きなビジネスの市場拡大の布石
となる。
林業や農山村などのビジネスを考えるうえで、地域資源の活用は不可欠である。また、地域資源を活用し、発展させ、持続させていくことが、地域の魅力を高めることにもなる。
地域資源の定義や分類を整理し、活用事例を紹介しながら、地域資源を活用したビジネス戦略の視点とその方法を提案する。
2.地域資源の定義と分類
目瀬守男先生の地域資源論では、地域資源を「地域に固定され、地域の開発に利用可能な資源であり、広義には自然資源、文化的資源、人工施設資源、人的資源等を含む」と定義している。
さらに、「地域に固定されない特産品やその中間生産物としての流動資源」も含めて地域資源としている。すなわち、地域資源とは、地域に固定されたものだけではなく、地域で生産されているものも含め、そこにあるすべての有形、無形のあらゆる要素ということになる。
この他、地域資源の分類はいろいろと行なわれてきたが、それらを整理すると次のようになる。
まず、地域資源は、大きく固定資源と流動資源に区分される。固定資源は、自然資源と人文資源に分けられ、自然資源の中にも気候条件や地理的条件、人口条件などの潜在的自然資源と、生物や鉱物、水、エネルギー、風景などの顕在的自然資源がある。
また、人文資源には、歴史的、社会経済的、人工施設、人的、情報資源がある。流動資源は、農林水産物やその加工品などの特産的資源、その特産資源の途中で生産される間伐材や家畜糞尿、廃棄物などの中間生産物資源に分けられる。
このように、地域資源を幅広く捉え、地域にある様々な資源を見直してみると、ビジネスのアイディアが生まれてくるだろう。
3.地域資源の活用事例から学ぶこと
地域資源を有効に活用している事例を2つ紹介する。
高知県梼原町は、棚田のオーナー制度を全国で初めて行なった地域である。これまで放置されていた棚田を利用して、都市住民が米作りを楽しむという制度で、十年以上経った現在も継続されている。
オーナーの中には、この村に移住した者もいる。
この制度は、町がオーナーを募集して契約を交わし、棚田を持っている農家に委託して管理やサービス提供をしてもらう仕組みになっている。
オーナーになった人は、四万十川にちなんで40,010円の費用を払い、お米を作ることを義務とし、自分で作ったお米の持ち帰りのほか、宿泊施設の利用、特産物が送られてくるなどの特典がある。
梼原町の棚田オーナー制度は、棚田だけではなく、地域にある様々な地域資源を組み合わせることによって、都市住民のニーズに応えることができた。また、行政の介在が重要なポイントになる。
宮崎県諸塚村は人口2500人ほどの林業の村である。
この村は、都市部から遠隔な地であるにもかかわらず、山を活用し、逆に不便さを売りにして、村民総参加型のエコツアーを展開している。
エコツアーは、地元のお年寄りや村人の案内で、お茶摘みや田植えなどの農林業体験や、山菜採りやそば打ちなどの山の幸の食体験を行なっている。また、放棄されていた空き家を利用した宿泊施設もある。
このように、もともと地域にあるものを活用して、住民ができる範囲で、サービスを提供している。
諸塚村のエコツアーは、参加者が1回当たり30人ぐらいの小さな企画であるが、多様なメニューから選んで参加でき、リピーターが多い。毎年、同じ体験が繰り返されるが、同じ営みを繰り返し、積み重ねているのがこの地域の生活であるとし、繰り返しも含めて地域のまるごと体験を提供している。
これらの各地の事例から、活用策における地域資源の素材、仕組みの作り方、技術など様々なことを学ぶことができる。
まず、山にあるもののつながりを活かし、切り身ではなく丸ごとの生の体験を活かすことが重要である。これは、都市住民のニーズでもある。
また、小さな市場でも良く、主催者が出来る範囲で実施し、そのプロセスを楽しめて、自分たちが満足感を持てる事業となることが大切である。
さらに、波及効果のある事業が望ましい。
組織づくりでは、行政の職員がリーダーシップをとり、地元の人と一緒に活動している場合が多い。宣伝には、マスメディアを上手く活用して情報を提供すると、地域外からの注目によって地域内の理解が得られやすいだろう。
4.SWOT分析
新たな事業を展開する場合、ビジネス戦略などの分析的なアプローチが必要である。そのひとつの方法として、SWOT分析がある。SWOT分析は、マーケティングや企業戦略立案で使われ、企業や組織の外部環境分析と内部環境分析から自らの位置付けを総合的に判断するものである。
内部的要因には強みと弱み、外部的要因には機会と脅威があり、それらをマトリックスにして整理する。自分たちの状況や外部の状況、様々な活動が整理され、どのような戦略でいくのかを検討することができる。
地域資源の活用において、地域における様々な森業・山業は相互に連鎖させ、相乗的に発展させることが望ましい。そのため、地域の行政機関やいろいろな企業体が集まり、地域資源のSWOT分析を行うことにより、地域全体のビジネス戦略を策定し、共有することができる。
例えば、地域の山や木への愛着市場を醸成するため、山のエコツーリズムや学校の備品等への木材利用の促進、若い女性に対する森林エステや森林美容などの商品・サービスの提供などが考えられる。このような新たな事業は、市場の間口を広げ、市場拡大につながっていくだろう。
現在、注目すべき新たな市場として、ロハス(L O H A S :Lifestyles of Health and Sustainability)を紹介する。
これは、環境問題に関心があり、環境に配慮した生活を送ると同時に、家族や子供の健康のことを重視したしい価値観とライフスタイルをもった消費者である。このような消費者は増えてきているともいわれ、森業・山業の新たな市場になり得ると考えられる。
また、マーケットを捉えるひとつの理論に、ロジャースの普及理論というものがある。この普及理論は様々な技術革新の普及事例を分析したものである。
ロジャースは、いろいろなことを言っているが、その1つとして、何か新しいものにはイノベーター(革新者)といわれる人々が約2.5%おり、次にイノベーターに追随するアーリー・アドプター(初期採用者)が約13%いるという普及モデルを示している。
これらの初期採用者が15%ぐらいになると、一気に市場が立ち上がりロジスティックの成長曲線になる。
このことから、イノベーターだけをターゲットとする市場とする考え方や、アーリー・アドプターを対象にしてさらに大きな市場を狙うといった考え方があり、それぞれの対象特性にあった、それぞれの戦略が求められることがわかる。
市場や消費者の特性を把握し、何を求めているのか、何に関心があるのかを分析することは、事業を展開する上で重要な作業である。
5.まとめ
地域資源を活用したビジネス戦略を行なう場合、地域の山にある資源のつながりを活かすことが大切である。
また、SWOT分析によって地域の状況と周辺市場の動向分析を行ない、他の人々と一緒に大きなビジネスにしていくという地域全体の戦略を立てることが必要である。
小さなビジネスを戦略的に展開することが、大きなビジネスの市場拡大の布石
となる。