サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

建築様式の分布

2008年03月04日 | 環境の地理
(1)関連研究の動向

 日本の民家の分布圏については、杉本尚次が、1969年に明らかにしたものがある。これは、民間を主屋、付属建物、屋敷林等の構成要素に分解し、各要素の自然あるいは生活様式との関係等に留意しながら、整理している。

 さらに、藤島亥治郎は、1981年に、家居の系譜や住の源流について、生活機能が全て主屋一棟に集まった単棟型と、居住棟と炊事棟が別棟になった分棟型の2つのタイプについて取り上げている。

 前者を朝鮮半島や中国北部等の北方系の家、後者を黒潮にのって北上し、主屋と炊事棟が合体(退化)していった南方系の家と推測している。太田博太郎や川島宙次も、このような見解をとっている。

 建築様式の分布に関する研究では、(民家以外に)城郭に関するものがある。中世城郭の地域性に着目した研究は、村田修三が『図説中世城郭辞典』を1987年に編纂したことから始まり、松岡進、千田嘉博らによって整理されつつある。


(2)関連研究から得られる知見

●日本民家の地理学的研究

 杉本尚次の研究では、①屋根を中心とした外部構造、②間取りを中心とした内部構造、③付属建物・屋敷林・屋敷における建物配置といった3つの観点から民家を大別し、民家を指標とした地域区分を提示している。

 民家の要素別の分類及びその地域分布の傾向は次の通りである。

・屋根材料

 草類(茅、麦わら等)、板、瓦、トタン、スレート、石等に大別される。瓦葺きは愛知、大阪、京都、福岡等の大都市地域をはじめ、近畿以西の西日本や北陸で広く普及している。逆に北海道、青森、秋田では瓦葺きがほとんど見られず、トタン葺きが多く見られる。わら・板・草葺きは青森、秋田、山形、茨城、佐賀で多く見られる。

・屋根型

 草葺き屋根の基本構造は、寄棟、入母屋、切妻の3つである(図1-3-1参照)。その他、切妻から発達した大和棟、寄棟と関連深い円錐屋根、各種要素の変形や組合せとしての鍵屋、中門造、曲家、二つ家、Lコ字型屋根、片入母屋等がある。

・住宅規模

 民家の畳数に着目すると、都市地域、工業地域の住宅は小規模であり、農山漁村との生活様式の相違を示している。

 これに対し、東北、北陸、中央高地地域の住宅は大規模である。これらの地域は、積雪・寒冷地域であるほか、営農方法が単作である等共通項が多い。

 関東、東海から西日本の地域の住宅は一般に小規模である。特に西日本太平洋側諸県は極めて小規模であり、戸外労働の多い漁業的性格や林業的性格、あるいは経済的貧困性を示すようである。

・間取り型

 居住部分の間仕切りは、間仕切りが田字型になっている四間取り(田字型、四つ目)と、広い部屋を基本としてその奥や周囲に部屋を配置する広間型が基本形である。四間取りは関東、東海から西日本全域、広間型は東北、北陸、中央高地に多い。

・屋敷建物配置

 屋敷内の建物配置方式は、大きく閉鎖型と開放型に分けられる。

 閉鎖型は、蔵その他の付属建物や土塀で宅地の四角を囲み中庭を持つ形式で、畿内地域をはじめとした中部以西の太平洋側諸平野に多く見られる。

 開放型は、宅地の周囲が屋敷林等で囲まれるか、2~3の付属建物が配される形式で、全国的に見られる。一般には、主屋を中心として周囲に屋敷林や付属建物が配置されるものが多い。


杉本尚次は、上記の他、外囲、付属建物、防風等、民家の地域的特色をもとに、民家を指標とした地域区分を示している。全国を15の大地域、さらに43の地域に区分している。

15の大地域区分は次の通り。

○第1区域:北海道

 北海道は明治以後の開拓地域であること、欧米様式の導入が顕著であること、自然条件が厳しいこと等、内地とは異なった特徴を持っている。屋根材料は、気候的制約によって、トタン、柾葺きが多く、西海岸では雪囲い等の防雪施設が著しい。付属建物も多く、農業生産機能の多くは付属する舎に移ったと考えられる。アイヌ民家は、地床住居・屋根の骨組み等に北方系と見られる要素を含んでいる。

○第2区域:東北日本太平洋側

 奥羽山脈の東側、東北地方の太平洋側から北関東の栃木、茨城の北部を含む。屋根材料は瓦葺きの普及が進んでいるものの、北部ではトタン、板葺きが卓越している。屋根型は寄棟地域であるが、曲家が一大特色となっている。また、全般的に住宅規模が大きい。

○第3区域:東北日本日本海側

 津軽、秋田、庄内、越後平野から横手、新庄、山形、米沢、会津及び北信の飯山盆地を含む。日本海側斜面のいわゆる積雪地域であり、根雪期間も長い。屋根材料はトタン、柾葺きが多いが、瓦葺きの増えつつある。屋根型は寄棟が主体である。住宅規模は大きく、広間型の代表的分布地域である。中門造(母屋から出入り口が飛び出た構造)が全域に見られることも特色である。

○第4区域:北陸

 富山、石川、福井の北陸3県と湖北(滋賀県北部)から成る。東北日本日本海側と自然的条件や農業経営形態が類似しているものの、屋根型が寄棟とともに入母屋の分布が著しいこと、中門造の分布外にあること、住宅規模が極大であり全国一の多室地域であること、防風垣・屋敷林の発達が著しいこと等の特色がある。

○第5区域:中央高地

 中央日本の高地地帯から関東北西部及び西部山地にかけての地域。盆地や河谷が多く、養蚕業の核心地域にあることから、蚕室があるなど養蚕の影響を受けた家屋形態となっている。

○第6区域:南関東

 瓦葺き、トタン葺きが多く、屋根型は寄棟が一般型である。四間取りが中心であり、住宅規模は中~小で都市近郊型を示す。季節風が強いことから屋敷林が発達しており、屋敷内建物配置にも防風の配慮が見られる。

○第7区域:東海

 静岡、愛知県下の平野部と岐阜県南部(濃尾平野)からなる。瓦葺きが著しく普及し、草葺きでは岡崎以東が寄棟、以西が入母屋となる。住宅規模は中~小であり、四間取りが主体である。冬の颪や夏の台風に備え、防風林が顕著である。

○第8区域:近畿中央低地

 敦賀、和歌山、伊勢を結ぶ三角形の地域。瓦葺き化が進んでおり、古い村落では本瓦葺きが見られる。屋根型は入母屋と切妻が主体だが、寄棟、片入母屋も見られるなど多様である。住宅規模は小規模で四間取りが一般的、屋敷建物配置も閉鎖型が比較的多い。

○第9区域:瀬戸内海沿岸

 瀬戸内海島嶼を含めた瀬戸内海沿岸(山陽・北四国)地域。瓦葺き化が進み、本瓦葺きも見られる。草葺き屋根は入母屋と寄棟が多く、住宅規模は中~小、四間取りが共通した間取りである。瀬戸内海の一部島嶼を除き、防風林や石垣の存在は希薄である。閉鎖型屋敷配置も見られる。

○第10 区域:山陰
 山口県から福井県大飯郡に至る山陰海岸から若狭湾岸を含む地域で、隠岐島も入る。瓦葺きが多いが、釉薬を用いた赤瓦が顕著に分布している。雪止め瓦や雪囲いを作るなど日本海側的な特色を示す。草屋根では東部が入母屋、鳥取県中部以西が寄棟、島根半島、出雲平野から山間部にかけて入母屋がわずかに混在する。住宅規模はやや大きく、東部では広間型から四間取りへの変化が比較的新しい。山間部では広間または板間部分を拡大した広間的間取りとなっている。

○第11 区域:中国山地及び延長地域

 中国山地を主体とし、その延長上にある播但山地、丹波高原が含まれる。草葺きが多く茅葺きも残存する。屋根型は東部に入母屋、西部が寄棟で、混在する地域もある。栗の角材を使った棟飾がほぼ共通的である。台所に相当する部分が拡大した広間的間取りが多く、四間取りも多いが広間型からの進展と見られる。

○第12 区域:北九州

 長崎、佐賀、福岡、大分と熊本県八代平野、球磨川上流人吉盆地以北、天草及び長崎県の五島、壱岐、対馬等の離島を含む。瓦葺きの普及が著しく、草葺きも小麦わらが多い。屋根型は寄棟圏であるが、コ・L字型など諸変形が特色である。間取りは四間取りが主である。

○第13 区域:外帯山地地域

 紀伊山地、四国山地、九州山地が含まれる。屋根材料は草葺き(茅)・板葺きが中心であるが、トタン・瓦葺き化も進みつつある。草屋根型は寄棟で、葺おろしの軒の深い民家が多く、板壁も多い。間取りは併列型が多いが、近年多室化の傾向を見せており、四間取りとなったものもある。イロリの存在もこの地域の生活には重要性を持つ。宅地はいずれも狭長、併列建物配置をとる。

○第14 区域:太平洋沿岸地域(紀伊半島、南四国、南九州)

 志摩半島から紀伊半島沿岸にかけてと南四国、南九州が含まれる。瓦葺きが大半を占め、白漆喰・古網の利用など耐風構造が見られる。寄棟が多く、風雨よけの尾垂・破風板の分布が著しい。防風林や石垣の分布が顕著で、岬端ほど典型的であり、台風地域の特色を示している。

○第15 区域:南島地域

 伊豆諸島、トカラ列島、奄美諸島、琉球列島が含まれる。いわゆる離島地域であるが、様式伝播の上で重要な地域と考えられる。屋根材料は瓦やトタンが増加しているものの、草葺きがかなり優勢である。草屋根は寄棟で、棟の短い方形に近いものが多く、中には円錐屋根も見られる。住宅規模は極めて小さい。四間取りが多く、主屋に土間を欠くものや主屋と釜屋が別棟となっている二棟造が顕著である。高倉の分布が特色である。


【参考文献】

杉本尚次「日本民家の研究-その地理学的考察-」1969年、ミネルヴァ書房
杉本尚次編「日本の住まいの源流-日本基層文化の探求-」1984年、文化出版局
杉本尚次「住まいのエスノロジー」1987年、住まいの図書館出版局

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