スマートシティとは、情報通信技術(ICT)によるエネルギー制御(スマートグリッド)を中核とした都市づくりである。現在、進められているスマートシティは、エネルギー制御が中心でるが、その展開方向は、ICTを活かした環境貢献を多面的に展開する方向として描くことができる。
そもそも、「ICTと環境」に係る議論は、電気通信審議会等で1990年代から継続的に行われてきた。これまでの議論では、ICTを地球温暖化防止等の目的に活用する方法を具体化するとともに、ICTによる環境影響が検討されてきた。筆者もICTによる二酸化炭素排出量の増分と減分の計算結果を整理し、その収支を検討したことがある。
「ICTと環境」との関係はプラスとマイナスの両面がある。
マイナスの面は、ICTによるエネルギーや資源の消費、それにともなう二酸化炭素の排出等である。現在の情報端末は省エネルギー性能を高めてきたとはいえ、クラウドサービス等によって肥大化するサーバーはそれ自体のエネルギー消費とともに、サーバー室の空調管理のためのエネルギー消費が大きい。また、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点からいえば、情報機器・設備の消費段階だけでなく、製造段階、廃棄段階等のライフサイクル全般で発生する。ライフサイクル全般の環境影響のうち、消費段階のウエイトが高いとはいえ、情報機器の生産あるいは廃棄・リサイクルにおいても、エネルギー消費や二酸化炭素の排出はある。
一方、ICTによるプラスの面として6つの側面を整理することができる。1つめは、「エネルギー受給の最適制御」である。スマートグリッドにおける発電と消費、蓄電等の制御はこれにあたる。スマートグリッドの場合では、電力の質の安定化ともに、電力ロスの削減という効果もある。
2つめは、「環境モニタリング・センシング」である。大気の汚染物質、二酸化炭素等の測定のほか、気温や降水の観測がICTにより自動化されている。気象観測ロボットは、気象庁だけでなく、民間通信事業者等も設置している。これを活用することで、ゲリラ豪雨や猛暑等による気候災害時の誘導や対策の準備、すなわち気候変動への適応策を促すことができる。
3つめは、「環境コミュニケーション・環境配慮行動の誘導」である。例えば、商品購入においては、商品の環境情報を“見える化”することで、環境配慮商品の購入を促す。また、スマートハウス内のスマートメーターに表示される太陽光発電の発電量や家電製品等による電力消費量の情報は、生活者の意識を高め、省エネ行動を促す。
4つめは、「人間活動の効率化」である。例えば、物流分野では、情報ネットワークを活用して、在庫管理により在庫や無駄な貨物輸送を削減させれば、倉庫の管理、貨物車の走行による環境負荷を削減することができる。この「活動の効率化」は、活動を達成するための手段である物流や人流、人の活動量、施設の整備量等を最小化するという目的にICTを利用するものであり、その結果としてエネルギー消費量や環境負荷を削減する。
5つめは、「情報による脱物質化」である。脱物質化とは、情報によりモノを代替することで、E-コマースによる店舗削減、ICカードによるチケットレス、電子申請による紙消費量の削減等がこれに相当する。
6つめは、「情報による移動代替・場所制約の解消」である。移動代替とは、情報により移動量を減らすことである。テレビ会議システムの性能が向上し、普及すれば、会議のために出張しなくとも、テレビ会議で済ますことができる。これは、情報により移動を代替させており、その結果、移動によるエネルギー消費量や環境負荷を削減する。在宅勤務や差寺とオフィスによるテレレークも、これに相当する。
このように整理してみると、スマートシティは、ICTによる環境へのプラス面のうち、「エネルギーの最適制御」、「環境モニタリング・センシング」、「環境コミュニケーション・環境配慮行動の誘導」といった一部を活用しているに過ぎない。
これらは、ICTを環境配慮のために直接的に利用するものであるが、さらにICTを社会経済の変革して環境配慮型構造を実現していくような利用(構造変革的利用)にも目を向けることが考えられる。
ICT利用の構造変革的利用とは、ICTによる「人間活動の効率化」、「情報による脱物質化」、「情報による移動代替・場所制約の解消」といった側面である。これらに相当するスマートシティでの取組みメニューとして、テレワーク、マルチハビテーションが考えられる。