サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、25回目:被災地における再生可能エネルギーへの取組み

2018年09月06日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

東日本大震災の被災地においては、再生可能エネルギー事業をどのように位置づけ、どのように成果を得てきているのだろうか.

とりわけ、被災地では、再生可能エネルギーに係る国家事業が持ち込まれた。これらは中央政府による被災地への傾斜配分であり、被災地の復興を支援する意図のものであったが、果たして被災地の復興(ひいては地域再生)に本当に役立つものとなっているのだろうか。一方、被災地の地方自治体や市民活動団体は、地域事業として再生可能エネルギーをどのように位置づけ、取組みを展開してきたのか。これらの複層的な動きは、住民意識に見合うものとなっているのだろうか。

 

●3県の関連計画

岩手県、宮城県、福島県における復興関連計画及びエネルギー関連計画をみると、原子力災害の被害があった福島県と他の2県において、再生可能エネルギーの位置づけや取組み方針が異なることがわかる。主な2点を示す。

第1に、東日本大震災直後に作成された震災復興計画における再生可能エネルギーに係る施策の位置づけは、岩手県と宮城県の両県に対して、福島県は構造的な意味での「脱原発」を強調している点が異なる。

岩手県東日本大震災津波復興計画(2011年)では、防災まちづくりとして、再生可能エネルギーの最大限の活用と防災拠点や住宅・事業所等における非常時のエネルギー調達システムの導入、自立・分散型のエネルギー供給体制によるエコタウンと産業振興の形成が示されている。宮城県震災復興計画(2011年)も同様で、非常時のエネルギー確保や産業振興の観点から再生可能エネルギーを扱っている。

これに対して、福島県復興ビジョン(2011年)では、原子力災害の直接的な被害を受けた地として、「脱原発」を強く打ち出している。復興の基本理念では、原子力発電所という巨大システムの制御の困難性、事故時の被害の甚大さが明らかになったことを記し、原子力に依存しない社会として、再生可能エネルギーの飛躍的な推進を強力に推進することを示している。また、一極集中型の国土政策やエネルギー政策の問題点を指摘し、地域でエネルギー自立を図る多極分散型のモデルを目指すことを示している。

福島県においても、再生可能エネルギーによる産業振興を打ち出しているものの、原子力に依存する社会の構造的な問題点を指摘し、その解消を明確な理念としている点に、岩手県と宮城県の復興計画との大きな違いがある。

第2に、福島県では、再生可能エネルギーの計画として、福島県再生可能エネルギービジョン(2012年)、再生可能エネルギー先駆けの地アクションプラン(2013年)、同第2期アクションプラン(2016年)を作成している。最初のアクションプランに示されるように、福島県では、「2040年頃を目途に県内エネルギー需要の100%に相当する再生可能エネルギーを生み出す」とした目標を掲げ、①地域主導(多くの県民の参加を得ながら、地域主導で再生可能エネルギーの導入を推進)、②産業集積(再生可能エネルギー関連産業を集積し、雇用を創出)とともに、③復興を牽引(再生可能エネルギーで東日本大震災からの復興を牽引)を取組みの三本柱としている。

つまり、福島県では、復興政策における再生可能エネルギーの取り組みの重視度や目標水準が異なる。「再生可能エネルギー関連産業や医療・福祉関連産業など、これからの時代を牽引する新たな産業の集積・研究開発により、経済的な活力と環境との共生が両立するモデルを世界に先駆けて提示していく」、「21 世紀が人類にとって環境問題を真剣に考えなければならない時代であるという原点に立ち返り、真に持続可能な社会モデルを国内はもとより世界に対して発信する先進地とならなければならない」、「再生可能エネルギーに係る最先端技術やスマートグリッドなど、再生可能エネルギーや関連部門の世界レベルの研究拠点の整備を図る」といったアクションプランの記述に示されるように、復興前の水準の回復ではなく、世界の最先端を目指すものとなっている。

 

●5つの目標側面

筆者は、再生可能エネルギーによる地域づくりの目標には、5つの側面があると考えている。本連載の9回目にも示したが、5つの側面とは、(1)エネルギーの自治、(2)対話とネットワーク、(3)地域経済の自立、(4)公正と安全・環境共生、(5)地域主体の自立共生、である。

「エネルギーの自治」とは、自分たちの大事なエネルギーを自分たちで治める、そしてエネルギーと自分たちの関わり方を自分たちで律しようという側面である。「対話とネットワーク」は、再エネ導入を通じて、地域の主体間の関係の形成と主体の学習を促すという側面である。「地域経済の自立」とは、エネルギー消費において地域外にお金が漏れる経済を、再エネを導入することで、地域内での連鎖的な生産と消費を図り、地域内でお金が循環する経済に変えるということである。「公正と安全・環境共生」とは、再エネによって、地域内の弱者支援、自然災害への備え、気候変動(地球温暖化)対策等を促進するという側面である。「地域主体の自立共生」は、再エネを作ることや使うことに対する自由な参加、それを通じて、人や環境との共生による悦びのある生き方を再生していくという側面である。

この5つの側面に対応して、3県の復興関連計画及びエネルギー関連計画における記述内容を表に整理した。3県の違いは明確である。次回は、福島県に着目し、特に同県内における地域主導の再生可能エネルギー事業の状況を紹介する。

 

表 再生可能エネルギーに関する記述の整理(5つの目標側面毎)

構造的再生の側面

岩手県

宮城県

福島県

エネルギー自治

 

 

県民総参加、脱原発

対話とネットワーク

 

 

推進組織、NPO支援

地域経済の自立

関連産業との連携

関連産業との連携

関連産業と雇用の創出

公正安全と環境共生

防災、気候変動緩和

防災、気候変動緩和

気候変動緩和

主体の自立共生

 

 

 

 

 

 

 

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