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岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 66(歌舞伎町への珍客編)

2024年10月14日 11時19分11秒 | 闇シリーズ

2024/10/14 mon

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急な休みを百合子とダラダラ過ごし、あれだけささくれだっていた神経は少しマシになった。

本当にあの二人、何とかならないのか?

無尽蔵に増殖する癌細胞そのもの。

一日店を空けたが、ちゃんと回っているのだろうか?

妙な不安を抱きつつ、新宿歌舞伎町へ向かう。

まあ村川が當真を殴ったほどだから、さすがにもう馬鹿な真似はできないな。

それにしても売上で俺が負けたとか、不利になったから逃げるのかとか、あいつらどういう脳味噌なんだ?

致命的な馬鹿と阿呆。

思い出しただけで、あの苛立ちが蘇る。

暴力とまではいかないが、雑誌をぶつけ、足払いしたのは小気味良かった。

あの有木園の鼻血を出した顔……。

「ブッ……」

電車内で一人吹き出してしまう。

他の乗客は不思議そうに俺を見る。

危ない奴だと思われてしまうな。

新宿へ着くまで、當真と有木園の事を考えるのはやめよう。

今のシステムに沿っているなら、杏子やミミもそこそこ客ついて稼げただろうな。

問題は遅番だ。

通常の料金だとほとんど客が来ていない。

ゆきやまどかの事も、ちゃんと考えなければ……。

ゲーム屋は放っておいても客が向こうから勝手に来た。

裏ビデオ屋も同じだ。

風俗は本当に難しい。

女の子の機嫌もある程度伺うようだし、客がガールズコレクションを選ぶよう考えなくちゃいけないのだ。

苦労の割に全然儲からない。

そもそも出だしから間違っているんだよな。

風俗嬢はミミ一人。

何の努力もせず、ただサクラをつけて終わり。

「……」

やっぱり當真をどうにかして排除しないと、店がどんどんおかしくなる。

 

歌舞伎町に到着し、店のシャッターを開ける。

少しして杏子が入ってくる。

「岩上さーん、おはようございまーす」

「ああ、おはよう」

「昨日岩上さん、休みだったんですか?」

「うん、オーナーから疲れてるだろうからって、急遽休みをもらってね。あ、杏子ちゃん、コーヒー飲むかい?」

「いただきまーす」

顔もそこそこ良くて、性格も明るい。

何でこんな子が風俗なんて選んだのだろうな。

「昨日當真さんだったんで、結構店滅茶苦茶だったんですよ」

「え、また何かあいつしたの?」

「お客さん、何故か指名でもないのに私ばかりにつけて、ミミちゃんほとんど待機で…。私はお金になるからいいんですけど、ミミちゃんが可哀想で」

確かにフリーで入る場合、ミミより杏子をつけたほうが男は喜ぶだろう。

ただあくまでも指名していないのだから、バランスは取らないといけない。

「それに私が帰る時お給料もらうじゃないですか」

「うん」

「杏子ちゃんはいいよね、そんな稼げて。俺なんか店長なのに一万円だよ? たった一万とか、わざわざ私に言ってくるんです」

あの馬鹿…、本当に口を糸で縫ってやろうか。

「そうだったんだ。休んじゃってごめんね」

「ううん、いつも岩上さん、お疲れ様って思っているんで。それじゃ、待機所行きますねー。コーヒーご馳走様でした」

「はい、今日もよろしくお願いね」

「今度ご飯一緒に行きましょうね」

何かほのぼのするなあ。

いや、この空気に慣れちゃいけない。

百合子には内緒で店番をやっているのだ。

必要以上に店の子と仲良くなる必要はない。

 

昼過ぎに當真が来て、新人二人これから来るとだけ簡潔に言って出ていく。

足払い掛けられた恨みを忘れていない感じだ。

俺のいる時間帯に、あの馬鹿が関わらないほうが平和でいい。

三十分ほどして女の子が二人入ってくる。

「今日からここでお世話になる琴美です」

「私はのぞみです」

客もいないのでその場で何ポーズか写真を撮る。

二人共二十代半ば。

琴美はメガネを掛けたぽっちゃりな地味めの子。

のぞみはややぽっちゃりであるが、顔だけはとても可愛い。

裏ビデオ屋メロンがあった通り沿いにあるプチドールという店からの移籍らしい。

ゆきとのぞみは知り合いらしく、ガールズコレクションのほうが客つけてくれるよと言われ、真に受けて来たようだ。

まあ女の子の人数が増えるのは好ましい。

画像データを始さんにメールで送り、ホームページへ付け加えてもらう。

プリントアウトした写真をあとでぴゅあらばへ持っていくか。

少し整理しよう。

女の子がミミ、杏子、ゆき、まどか、そして新人の琴美、のぞみ。

六名か。

情報館のキャンペーンも、三十分五千円でなく、六十分コースにして一万二千円にしたら、少しは店の儲けも出てくるな。

遅番のケースも同じでいいか。

また三千円でなんてやられたら溜まらない。

あとで村川へ報告して、よりいい方向へ持って行くようにしなければ。

 

夕方になり、飛び込みで客が来た。

情報館を介してでないのは非常に珍しい。

鬱陶しいほどのお喋りな客で、先程ギャンブルで勝ってこんなに金を持っていると、わざわざ財布の中身を見せつけてくる。

三十万は持っているのに指名料をケチるので、俺は一番可愛くないミミをあてがう。

それでも男は大喜びで興奮して街並みへ消えていく。

正規料金での案内で一時間コースだから一万六千円はおいしい。

あとはぴゅあらばから来るキャンペーン客をバランス良く杏子、琴美、のぞみへつける。

仕事を終えたミミが、店に顔を出す。

「ん、どうしたの?」

「岩上さん、いい客をありがとうございました」

「いやいや、急な飛び込みだったし、指名無かったからオープン当初から頑張ってくれているミミちゃんにつけようかなと思っただけだよ」

「あの客…、ギャンブルでこんな勝ったってお金見せつけてくるから、一枚ちょうだいよってもらっちゃったの」

中々したたかだな、この女。

リピート客になってくれたらありがたいが。

 

翌日もギャンブル男はやってきて、今度はミミを指名で二時間コースを頼んだ。

本来なら三万二千円、ミミの取り分は半分だからようやく店としての利益になりそう。

「お客さん、ミミを気に入ったんですね?」

「いやー、最高ですよ、あの子。ここだけの話、本番やらせてくれるんですよ!」

「……」

あのアマ…、大ぴらにそんなのやったら警察に捕まるじゃねえか……。

まああとで軽く注意しとけばいいか。

こうやってリピート客がどんどん生まれていけば、ガールズコレクションも少しは軌道に乗るんだけどな。

あれ以来、當真、有木園とは業務上必要最低限な会話しかしていない。

村川の許可を得て、情報館には三十分五千円のキャンペーンに変えて、一時間一万二千円のコースにしてもらう。

それでも相場では安いほうなので、客はやって来た。

最近の問題点は杏子である。

帰りに給料を手渡す際、誰もいないと「岩上さーん、いつもありがとう」と抱きついてくるのだ。

百合子の存在がなければ嬉しいが、現実問題俺には彼女がいる。

この店がオープンする前に子供をおろさせてしまった俺は、他の女性とじゃれつく資格など無い。

 

全日本プロレスでレスラーを志した頃から、今の俺はかなり軌道がズレている。

流れに沿って生きてきたとはいえ、いつからこんなになってしまったのだろう。

どんな事をしていても、常に心の根っこには全日本時代の誇りがあった。

今はどうだ?

いくら店の忙しさにカマ掛けていたとはいえ、ここ最近の俺は色々とブレている。

家と百合子の情報を調べられ、脅迫めいた形で俺はこのガールズコレクションに縛られていた。

辞めるに辞められない状況下の中、闇雲に藻掻いているだけ。

本音を言えば抜けたい。

それを許されない環境で、俺はこのままでいいのだろうか?

出した一つの結果が、店を流行らせ金を掴む。

しかしこれだけ足掻いて人件費がトントン程度なのだ。

隙を見せれば當真と有木園のコンビがすぐ赤字に直結する事をする。

店舗の家賃代に、待機所の家賃、光熱費とまだまだそこまで補えていない。

将棋で例えたら、歩のみの駒だけで相手に勝つような事を俺はしているのだ。

いや、歩のみで将棋など勝てる訳がない。

明るい兆しはリピート客がたくさんついて、正規料金で売上を作る事。

今のメンツでリピート客なんて来るのか?

もし仮に俺が客の立場だとしたら?

杏子とのぞみ…、あとまどかくらいだろう、フリーでこのクラスがついて運がいいと思うのは。

また同じ店行って指名料払ってまでと考えると、実際いるのか?

思い返すと、あのギャンブル男くらいじゃないか。

あれだってミミが本番をやらせていたからだろう。

いけないいけない……。

全日本プロレス時代の誇りをってところから、気づけばガールズコレクションの今後ばかりになっている。

あー…、本当に早く抜け出したい。

 

サクラをつけて無駄な経費を使うくらいなら、安いキャンペーンコースで風俗嬢の経費を賄う。

とりあえず客は来るようになったし、女の子の給料も払えるようにはなった。

しかし男側の人件費や、家賃諸々までは追っつかない。

リピート客が来て正規料金を取れるようにならないと、この店は未来が無い。

俺の時間帯の早番から出勤する子たち、ミミ、杏子、琴美はとても真面目だ。

ただ、真面目な性格の女を求めて風俗へ客が遊びに行くのかと言うと、それは違う。

本当に風俗は難しい。

頭を抱えている中、携帯電話が鳴る。

実家の隣にあるとんかつ屋ひろむで働いていた先輩の岡部さんだ。

今は辞めて自分で店を出す準備をしていると聞いたが……。

「おう、智一郎、久しぶり!」

妙にハイテンションな岡部さん。

酒でも飲んでいるのかな。

「どうしたんですか?」

「もうちょいでよ、歌舞伎町に着くんだよ。ざわちんとかも一緒。どこかいい店紹介してくれよ」

時計を見ると三時半。

あと三十分ほどで俺の仕事時間は終わりだ。

ちょうど當真が店に入ってきたので、急用ができたと店番を強引に代わらせ仕事を上がる。

當真は不満そうにブツブツ言っていたが、普段何の役にも立っていないのだ。

こういう時くらい俺に罪滅ぼしをしろ。

俺も一緒に付き合うようになるだろうから、帰りは遅くなるな。

百合子へメールを打ち、歌舞伎町での待ち合わせ場所へ向かった。

 

数ヶ月ぶりの再会。

岡部さん以外に二人いる。

「おう、智一郎君じゃないか!」

「小沢さん! お久しぶりです」

一人は岡部さんの小学時代からの同級生である小沢さん。

現在JALで本部長をしている。

とんかつ屋ひろむで岡部さんを介して知り合い、目を掛けてもらっている先輩だ。

「あ、智一郎は初めてだよな? 紹介するよ。竹花家の次男の伸」

竹花家自体知らなかったが、愛想のいい人で俺より三つ年上。

「今日はどうしたんですか?」

「原さんいるだろ? 原寿司の」

「はいはい」

「原さんの甥っ子がボクサーでさ、みんなで試合の応援行ってきたんだ」

少し酒の入っている陽気な三人組は、歌舞伎町なら俺がいるだろうと帰り道に寄ったようだ。

「どういう店がいいんですか?」

「酒飲めて楽しい店! ただ普通のキャバクラとかじゃないぞ」

面白い店…、面白い店……。

数回程度しか過去に行った事がないが、あの店なら楽しんでくれるだろう。

「分かりました。案内しますね」

俺は歌舞伎町交番のある花道通りへ向かって歩き出した。

 

東通りを歩いている途中、ワールドワン時代の従業員だった大倉の姿が見える。

ゲーム屋の式典でもやったいるのか、ボーッと立っていた。

俺に気付かないようなので、こっそり背後に回り、いきなりスリーパーホールドをしようと首に腕を回す。

そのまま大倉の身体を持ち上げてグルグル回った。

「岩上さん、やめて下さい!」

俺の顔すら見ていないのに、必死に叫ぶ大倉。

「よく俺だって分かったな?」

大倉は首を手で押さえながら「いきなりこんな事するの、この街で岩上さんしかいないじゃないですか!」と少し不機嫌に言う。

「また今後タダで女つけるからよ」

そう大倉の機嫌を取り、先へ進む。

目的地は微妙なお触りの変なお店。

花道通りを越えた一本向こうの並行する道沿いにあった。

愛本店のある通りと交差する角。

一階が野郎寿司。

その三階にお触りはある。

店名は知らないが、料金は三十分九百八十円。

一時間コースだと何故か四十円値上がる二千円。

システムは焼酎やウイスキーなら飲み放題。

ビールや日本酒などは別途に金が掛かる。

席に女の子が付くわけではない。

特徴的なのが、ウエイトレス代わりに透明なエプロンを着て、ブラジャーも何もつけていない子が酒を運んでくる。

各ウエイトレスはシースルーのエプロンに大きな名札がついており、気に入った客はその子を指名すると、奥のシングルソファーが一つだけあるカーテンで区切られた個室へ行く。

その場所で指名した子の上半身を触る権利とキス、それを十分三千円払って楽しむのだ。

普通に席で酒を飲んでいるだけなら、一時間二千円で済む。

入るなり女の子を指名して狭い個室にいたら、一時間で二万円になるある意味男の心理を突いた恐ろしい店だ。

俺を含めて四人の男。

裸にエプロンをウエイトレスを見て、誰が一番始めに我慢できなくなるか。

そんな酒の飲み方も一興だろう。

 

俺はウイスキー、岡部さんらはビールを注文。

竹花の伸さんはシースルーエプロンのウエイトレスが店内を歩いているのを見て驚いている。

彼女の百合子に対し申し訳ない気持ちもあったが、岡部さんたちがこんな風に歌舞伎町へ来るなんて初めてなのだ。

男同士の付き合いという事で割り切る事にする。

キチンとしたシステムの説明はあえてしていない。

店内にいる客層は、うちらを除けば一人ものの客ばかり。

みな虎視眈々と狙っている女のおっぱいを吸いたいのだ。

「何だか凄い店だな」

岡部さんと小沢さんは大喜び。

隣にいる客が男性店員を呼び、指をさして女の子を指名している。

狭い個室へ消えていくのを見て、みんな何となくシステムを理解したようだ。

入って十分もしない内に伸さんがいきなり立ち上がり、酒を運んできたウエイトレスの手首を掴む。

「て、店員さん! 俺、この子指名する!」

岡部さんと小沢さんはそれを見て大爆笑。

個室へ向かう前に伸さんは振り返り、「俺はこの子を気に入ったんじゃない! この乳首を気に入ったんだ!」と意味不明な言葉を口走り、カーテンの奥に消えた。

結局時間目一杯まで伸さんは指名して、俺たちは一時間で店を出る。

 

次はどこへ連れて行くか……。

岡部さんら一行は大喜びではしゃいでいる。

特に伸さん以外の二人は、ただ酒を飲んだだけなのだ。

そろそろちょっとした刺激は欲しいところだろう。

「智一郎、次は?」

「いやー、面白かったよ。久々に笑った」

早速催促してくるので、考えをまとめる前に花道通りの風林会館斜め前にある焼き鳥屋で、トマトの肉巻き串を四本頼んで各自へ渡す。

「これ、美味いんですよ。食べたら次の店連れて行きますね」

さて、どこにしようか……。

キャバクラでもお触りパブでもなく、何か別の……。

ピンと閃きが来る。

ここからすぐ斜め向かい。

風林会館の細い道を挟んだ隣のビルの地下。

お触りパブのポイントX…、ここなら絶対に喜ぶだろう。

通常お触りパブとは、女の子の上半身から上しか触れない。

だがポイントXは違うのだ。

ここは下半身も触っていいお店。

中々ここまでの店は歌舞伎町でも無い。

しかも男性店員がホール内を歩き回り、「Aでーす」とか「Bでーす」と大声で言う。

何がAてBなのか結構前に行った時確認すると、Aは上半身から上しか触らせていない。

Bは下半身も触らせているというコールらしい。

つまり店の推奨で下半身まで触らせるとんでもない店なのだ。

ここでの先輩方への説明は一つだけ。

「この店…、下も触ってOKな店ですからね」

それだけ伝え!地下への階段を降りた。

 

ポイントXの女の子は、みんな芸能人の源氏名を使う。

岡部さんは牧瀬里穂。

小沢さんは内田春菊。

伸さんは鈴木保奈美。

俺は菊池桃子を指名。

会計は前払いだが、最初の店で上機嫌の伸さんが全員の分を払ってくれた。

「どんな面白くても延長は無しにしましょう。これだけは約束で」

各自別々の席へ案内される。

延長無しの四十分。

タバコに火をつけると、すぐそばで男性店員が「八番Aでーす」と大声を出す。

「はい、八番テーブルAー。八番Aー。Bお願いします、Bお願いします」と場内アナウンスが鳴り響く。

ここで働く女の子も大変だな。

変な同情をしていると、「こんばんわー、菊池桃子でーす」と指名した子がやって来た。

「……」

何だよ…、ちょっとタレ目なだけで全然菊池桃子の欠片もない。

まあお触りパブなんてこんなもの。

ある程度の割り切りはとても大切だ。

「あれ? お兄さん触らないの?」

「ああ…、今日知り合いの付き合いで来ただけだからね」

俺自身まで楽しむのは百合子に対する裏切りだ。

タバコを吸いながら酒を飲む。

「ふーん、何か変わった人……」

近くを通り掛かった男性店員が「Aでーす!」と声を張り上げる。

「ねね、あとで怒られちゃうから、少なくても私の太腿に手ぐらい乗せといてよ」

お触りパブの女も色々と大変である。

 

時間になりとっとと席を立つ。

入口でみんなを待っていると、岡部さん、続いて伸さんが来る。

「あれ? 小沢さん遅いなあ」

ほとんど一緒に入ったので、一人だけ時間がズレる事なんてない。

「ひょっとしたら、ざわちん延長しちゃってんじゃねえの」

岡部さんが笑いながら言う。

「一応俺、確認して来ますよ」

二人を外で待たせ、再度地下へ降りる。

男性店員に連れが延長したか尋ねると、もうとっくに店を出たと言われた。

入口は一つしか無いはず。

まったく姿は見つからない。

小沢さん、下手したら誰かに絡まれたのか?

ポイントXは地下への階段を降りて、少し進んだら左手にある。

向かい右手には別の店。

まさかそこに何も言わず、一人で行くなんて無いよな……。

ポイントX店内と受付の間にあるトイレへ入ってみる。

「あっ、小沢さん!」

ようやくここで小沢さんを見つけた。

だが彼はワイシャツの袖を肩口まで強引に捲り、右腕を剥き出しにして洗面所で洗っている。

「どうしたんですか?」

「いやー、参ったよ……。ついた子が東北出身でさ、下半身責めていたら、いきなり大量の潮吹きやがった」

まさかの展開に思い切り吹き出してしまった。

右腕をゴシゴシ洗い終わった小沢さんと共に外へ出る。

「参ったよー。東北の女でいきなりイグとか言いながら潮吹くんだもん」

全員がその場で大笑い。

「今日のウィナーは小沢さんですね」と俺が言うと、またそれで馬鹿笑い。

近くの寿司屋へ入り、寿司を摘んでから俺たちは歌舞伎町をあとにした。

 

特急小江戸号の中でも、裸でエプロンとポイントXの話で大いに盛り上がった。

「いやー、智一郎君の連れてった店は本当に面白い!」

「俺はね、あの子を気に入ったんじゃなくて、あの乳首がね……」

久しぶりに楽しい酒を飲んだ気がした。

川越に着いても岡部さんたちはまだ飲み足りないらしく、本川越駅斜め向かいにあるキャバクラのシンデレラへ入る。

この流れだと今日百合子と会うのは難しそうだな……。

俺はトイレ行くついでに百合子へ謝罪のメールを送る。

仲のいい先輩たちといる事は伝えてあるので、百合子も快くゆっくり楽しんできてと返事が来た。

シンデレラだけでも飲み足りず、小沢さんの希望で国道十六号沿いにあるフィリピンパブのレインボーへ向かう。

このお店は家の隣のとんかつ屋ひろむのおじさんが経営する店だ。

川越インターの近くでタクシーで行かないといけない距離にある。

伸さんはかなり酒が回りグロッキー状態。

ほとんど寝ている。

小沢さんは指名しているフィリピン人がいて、岡部さんも個々に会話を楽しむ。

俺にはザイラという顔立ちの整った綺麗な女がついた。

「あなた、結婚してる?」

「独身だけど彼女はいる」

そう説明するが、ザイラはかなり熱心に誘ってくる。

彼女が言うには俺がフィリピン人の人気俳優そっくりだと説明してきた。

丁重に断ると、俺のスーツの胸ポケットに入れてある携帯電話を取り、勝手に電話を掛けて「これ、私の番号」と言ってくる。

フィリピン人はかなり情熱的というか強引だ。

この店でお開きになり、個々に帰る。

別れ際、小沢さんはしきりに「今日は本当楽しかった。智一郎君、本当ありがとう」と何度も言ってきた。

こんなに喜んでくれるとは思いもしなかった分、俺も先輩方を満足させられて嬉しい。

 

翌日眠い目を擦りながらも出勤。

この日は特に何事もなく平和に終わる。

本川越駅へ着くと、百合子の車が見える。

昨日は岡部さんたちの付き合いで会えなかったから、今日は俺の部屋に泊まると言っていた。

いくら付き合いとはいえ、お触りパブ、キャバクラ、フィリピンパブと行ってしまったので正直には話せないが、後ろめたい気持ちはある。

「智ちん、お腹は?」

「まだ何も食べてない、百合子は?」

「私も…、どこか食べに行こうか?」

そんな中、携帯電話が鳴る。

岩崎努ことゴリからだった。

タイミング良く食事の誘い。

そういえばあいつにまだ百合子を紹介していなかったな……。

いい機会だし、百合子に同級生を紹介ついでにゴリもいいか尋ねる。

中学時代からの腐れ縁。

俺の全日本プロレスを台無しにした大沢とは縁を切り、他の同級生とも社会人になって徐々に疎遠になっていく中、不思議とゴリだけは定期的に連絡を取り、仲は続いていた。

「智ちんが一番仲良くしている同級生なんでしょ? うん、一緒に食事行こうよ」

百合子も快く返事をしてくれたので、ステーキ宮で待ち合わせをする事になった。

 

本名岩崎努。

あだ名はゴリ。

この男、これまで彼女が一人もできた事が無い。

過去二十代半ばの頃、一度だけ彼女と言い張るプリクラの写真をみせてもらった事があるが、詳しく聞くと相手は人妻だった。

それでも俺の彼女だと言い張るゴリ。

結局一ヶ月持たずに破局。

以来女と縁のない生活を送っている。

「いいなー、岩上は。こんな可愛い彼女と一緒にいてよ」

似たような台詞をダミ声で何度も繰り返す。

百合子はゴリのキャラクターを面白がり、良かったら女性を紹介しようかと悪ノリしている。

「え! どんな子? どんな子?」

目を輝かせるゴリ。

また自分に都合よく妄想を膨らませているだろう。

「ほら、栄子ちゃんっていたでしょ? 病院の時迎えに来てくれた」

「ああ、栄子ちゃんね」

俺と百合子の子供をおろした愛和病院。

手術当日、百合子の送り迎えをしてくれた子だ。

「栄子ちゃん、ママさんバレーやってて、ゴリさんと同じように異性と縁が無い子が一人いるの」

「ママさんバレーって人妻じゃ……」

「違う違う…。ママさんバレーって言葉を使っただけで、その子は独身だよ」

「ふーん、ならいいけど」

「ただね…、大人しくて真面目なんだけど、ちょっとパッとしない子で……」

「え、凄いブサイクなの?」

「いやいや、顔はいい方だと思うよ。女の私から見ても」

俺と百合子の会話を熱心に聞いているゴリ。

「いやー…、もし紹介してもらえるんなら、紹介してもらいたいなー」

ゴリは完全に妄想モード突入。

「栄子ちゃん側の友達だから、あとで聞いてみるね、直子さんって言うんだけど」

「直子さんかー…、岩崎直子…、イヒヒ……」

「ゴリッ! おまえはすぐそうやって暴走する……」

とりあえず明日、百合子の友達である栄子と食事に行く約束をする。

「え、俺は……」

「おまえはそれで直子さんの返事もらってから。まずは栄子ちゃんに状況というか、ゴリの件を話さないとね」

「早く頼むぜ」

もう完全に紹介してもらう気でいるゴリ。

こうして明日栄子と会い、ゴリと直子を会わせる日取りを決める。

何だか仲人みたいだな……。

 

 

闇 67(ゴリ横田ルミ子事件編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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