岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド
とりあえず過去執筆した作品、未完成も含めてここへ残しておく

1 コードネーム殺し屋

2019年07月19日 13時10分00秒 | コードネーム殺し屋/初めて書かされたホラー小説


コードネーム殺し屋



―つぶし屋の章―

 一人の女が、ドアを恐る恐る開けて入ってくる。三十後半、いや、四十ぐらいか?黒のシックなワンピースが非常に似合っている。俺は思わずニヤリとした。
「まあ、そこに座んなさいよ」
「は、はい……」
 その女は用心深そうに、辺りをキョロキョロしてから座った。非常に落ち着きがない。何度もまぶたを閉じたり開いたりしている。下をうつむき、足をこれでもかというぐらいギュッと閉じていた。まあそうなるのも無理はない。俺の事務所は壁も床もすべて真っ暗だからな。普通の奴はこの部屋に入っただけで、相当ビビるだろう。その驚いた顔をじっくり観察するのも、俺の楽しみの一つだ。
 容姿はかなり俺好み。まずは第一段階合格と……。
 この女を抱く姿を想像する。リアルに想像できた。どんな事をさせてやろうか?俺は空想を巡らせる。
「あ、あのー……」
「なんだい?」
 空想を邪魔された俺は、少し不機嫌になる。
「お店の件は……」
「それは俺がやるかどうかを決める。いくら金を積まれたって、俺がやらないと言ったらやらないんだ。その点、あんたはラッキーだぜ」
「えっ……」
 不思議そうな目で俺を見つめる女。俺はペロリと舌なめずりをした。
「金は用意できたのかい?」
「は、はい…。ここに用意してあります」
 女はバックから、封筒をテーブルの上に置く。俺は中の金を手に取り数えてみる。確かに百万ある。確認してからテーブルに放り投げた。
「よし」
「では、引き受けていただけるのですか?」
 女は立ち上がりすがるような表情で、俺に聞いてきた。

「まだだ」
「え……」
「引き受けるには、金と…、もう一つ、条件があると言ったはずだ」
「はぁ…、一体、何でしょうか?」
「あんたは非常に俺の好みだ」
「……」
「俺に抱かれろ。それが条件だ」
 俺は組んでいた足をほどき、顔を前に突き出した。いい女だ。俺の目を見ながら震え、子犬のように困った目をしている。
「勘弁して下さい。私には主人がいるんです」
「知ってるよ、そんな事ぐらい」
 二人の間に沈黙が流れる。俺はしばらくその間を楽しんだ。
「ずっと、主人と二人で頑張ってきたんです」
「でも、その頑張ってきた店が、なくなるかもしれないんだぜ?」
「そ、それはそうですけど……」
 俺に抱かれれば店は続けられ、断れば店はつぶれる。それだけの話だ。女は必死に考えている。考えろ、どんどん考えればいい。迷った女の表情が、俺は堪らなく好きだった。
 決めた。この女の依頼を絶対に受けてやる。この女を見た時から腹は決まっていた。でもその前に困らせてやる。もっと迷え。たっぷり俺を楽しませろ。
「それ以外に何か方法はないのですか?」
「ああ、そんなものはないね」
 俺は少しニヤけながら言った。
「どうしても抱かれなくてはなりませんか?」
「ああ、さっきも、そう言ったはずだ」
「では、お断りいたします。主人を裏切る訳にはいきません」
 女は封筒をバックにしまいながら毅然に言うと、席を立ちドアへ向かった。
「待ちなよ。奥さん……」
 声のトーンをわざと低くして声を掛ける。俺の楽しみを簡単に壊しやがって…。逃がしはしねえ。
「用件はもう何もないはずです」
 毅然とした表情。見ていてそそる。次第に興奮してくるのが自分でも分かった。
「旦那はこの事、知っているのかい?」
「……」
 俺は引き出しを開け、カセットテープを取り出す。テーブルの上に置いてあるレコーダーへカセットテープをセットして、再生ボタンをゆっくり押した。

 ザザーという雑音が聞こえてくる。その状態で二十秒ほど時間が過ぎた。
「つ、つぶし屋さんですか?」
「水村茂子だな?」
「……」
「何で私の名前をって、思ってるだろ?」
「すみません、掛け間違えました」
「嘘をつくな。嘘を……」
「……」
「あんたの電話番号も何もかも、こっちは知ってるんだ」
「す、すみません……」
「ああ、分かりゃいいんだ。名刺を見て、連絡してきたのかい?」
「はい……」
「サービス業?」
「は、はい…。化粧品屋を営んでいます」
「俺に頼むって事は、うまく言ってないんだろ?」
「はい…、実はすぐ近くに、大手の化粧品屋ができてしまいまして……」
「資金力じゃ、到底敵わないと?」
「ええ、それでお客さんが徐々にとられているのが、正直な現状です」
「仲良く共存共栄はできないのかい?」
「ええ、向こうが私のお店を邪魔に思っているらしく、それは期待できません」
「そっちは何か企業努力はしたのかい?」
「もちろんです。でも、資金力の差があり過ぎまして……」
「向こうはどんな感じでやってんの?」
「例えば同じ商品を半額で客に提供したりです」
「もっとそっちが、それより安く提供するとかは?」
「さすがに無理です。赤字になります」
「向こうには扱っていない、別の目玉商品を仕入れるとかは?」
「当然、しました。でも、すぐに向こうも同じものを仕入れて、さらに安くされます」
「うーん、それは困ったもんだねー」
「はい、うちもこの状態では、店を閉めざるおえなくなるので……」
「一度、赤字覚悟で安くして、客を取り戻したら?」
「悪循環になるだけです。それにそれをやられては、うちはとてもじゃないですけど、向こうに資金力で対抗できません」
「そうかい。それで俺に依頼をって訳か」
「は、はい……」
「向こうの店をつぶしても構わないのだな?」
「は、はい…。ただ、私がこうして裏で手引きをしたとか、そういうのは……」
「当たり前だ。そのぐらいのエチケットは、ちゃんと心得ているつもりだ。つぶしのプロだからな」
「はぁ……」
「敵の店の扱うメーカーは?」
「オネボウです」
「そうか」
「ええ」
「まず先に言っておく事がある。いいかい?」
「はい」
「金は百万掛かる。それと条件は電話じゃ言えないが、もう一つある。これをクリアできるなら、依頼は受けてやる。一ヶ月もしない内に、近所の化粧品屋は撤退を余儀なくされるはずだ」
「はい、よろしくお願いします」
「おたくの住所や連絡先を詳しく教えてくれ。もちろん、あんたの名前もな」

 俺はそこで再生をやめた。女はその場で固まったように、レコーダーを見つめている。カセットテープを取り出し、手のひらで弄ぶ。
「ちゃんと録音とっといてあるんだな、実は……」
「ひ、卑怯です……」
「ああ、卑怯だよ。それで?」
 覗き込むように女の顔を眺めた。
「これを主人に聞かせてもいい。それとも近所の化粧品屋へタレこんでもいい」
「や、やめて下さい、そんな事……」
「だったら、俺に抱かれるしかねえだろ?」
「……」
 俺はズボンのチャックを開き、一物を取り出した。女の顔が歪む。興奮で俺の一物は、ギンギンにいきり立っていた。
「まずは、くわえろ。依頼の話はそれからだ」
「い、嫌…。いやー……」
「無理強いはせんよ」
 俺は、先ほどのカセットテープを放り投げる。緩やかな弧を描きながら落ちるテープを事務員の千夏が片手でキャッチした。
「社長、このテープをどちらかに、聞かせてくればいいのですね?」
 千夏は妖しげに微笑みながら業務的に言った。黒い部屋の中、赤いスーツを着た千夏は、とても鮮やかに映って見える。
「や、やめて下さい」
 女は泣きながら懇願した。俺は意地悪そうに笑い、目を細めた。
「じゃあ、答えは一つだ」
 女は俺の前で、力なく崩れるようにひざまずく。俺は髪の毛を乱暴に掴み、一物に女の顔を引き寄せた。

 時間は少し戻る。俺の名は柴木大介。三十歳だ。つぶし屋というものを営んでいる。仕事内容を簡単に言えば、依頼されたサービス業中心の店舗をつぶすって事だ。
 俺は黒をひたすら愛している。格好は黒いスーツしか着ない。中も黒のティーシャツのみで、寒くなると黒いコートを羽織るぐらいだ。もっと寒けりゃ、黒いマフラーを首に巻けばいいだけである。従業員は、俺と事務員の本庄千夏。この二人だけ。
 千夏は誰が見ても、いい女に見えると思う。スタイルはもちろん顔も頭の中身もすべて一級品だ。それにしたって何でまた、こんな俺みたいな男の下で働いているのか不思議でしょうがない。自分の意思でかどうかは、未だ俺も分からない。世界の七不思議の一つに、入るような気がする。年はハッキリ聞いた事はないが、見た目と肌の艶でだいたい二十五歳ぐらいってとこかな。
 今、俺の一物をくわえているこの女。名前は水村茂子。親から代々受け継いだ化粧品屋を経営している。旦那は会社員をやりながら、空いた時間店も手伝っているらしい。物好きな旦那だ。
 以前は化粧品屋の収入だけで、楽に食っていけたようだ。旦那もサラリーマンなんざ、やる必要もなかったんだな。近所にできた大手の化粧品屋ができたおかげで、経営が苦しくなったらしい。そりゃそうだ。あいつらときたら、自分たちの金儲けしか考えられない連中だ。
 昔はいい時代だった。商売に仁義があった。人情もあった。パン屋があったら、すぐそばでパン屋をやろうだなんて奴はいなかった。問屋制度もちゃんとしていた。肉屋なんか、多いところだと、八次問屋まであったらしいからな。
 それが今の世の中ときたら何だ?一次問屋だったところがディスカウントショップと謳い、一般消費者相手に商売を始めやがった。町の商店街なんざそんな事をやられたら、ひと溜りもねえだろうが……。
 コンビニがあるのに真向かいに違うコンビニを立ててみたり、ラーメン屋の真横にラーメン屋を立てたり、挙句の果てには同じビル内に美容室ばかり。見ていて呆れてしまう。それは民主主義だから何をしても自由だと、言い訳する連中がいるが、俺に言わせればそんなもんはクソだ。そんなもんがもし民主主義だと言うなら、なくなってしまえばいいんだ。俺は商売の仁義を無視した連中は嫌いだ。
 世の為人の為と格好いい事の一つは言いたいが、そんなんじゃ自分が馬鹿を見るだけである。だから俺は、女からの依頼しか受けない事にしていた。
 金は確かに信用できる。ただしそんなもんばかりが大事な訳じゃない。俺にとってはリアリティこそ大事なのだ。
 例えばだ。キャバクラに遊びに言ったにしよう。いくら金を使おうが、何をしようが、真実は一つしかねえ。出勤前の同伴だとか、店が終ったあとのアフター。そんなもんをしてどうなるんだ?真実とはセックスだ。やらしてくれた女だけが、俺にとっての真実だ。

 誰に訴えていたのか分からないが、急に頭の中が真っ白になり思考回路が止まる。俺は水村茂子にフェラチオされ、いっていた。茂子の顔に俺の精液が大量に掛かる。
「いい…、すごくいい…。あんたは俺にとって真実だ」
 茂子は顔をティッシュで拭いていた。表情はぐったりとしている。俺はかまわずソファに押し倒し、パンツを剥ぎ取った。必死に抵抗する茂子。しょせんは女の力だ。俺はろくな前戯もせず、一物をぶち込んだ。
「ひぃ…。や、やめ…、て……」
 必死に両手で口を押さえ、声を出さないようにしていた茂子は、小さな悲鳴を漏らした。ざまあねえ。俺は素早く小刻みに腰を動かした。しわだらけの茂子の顔が歪む。
「だ、め…。あっ…。ああ…。や、や、やめ…、て……」
 俺のピストン運動に合わせて、声を出す茂子。嫌だと言いながら感じていやがる。さらに大きく腰を豪快に振る。茂子の声は徐々に大きくなっていく。
「もう、やっちまってるんだ。嫌がるんなら、楽しめ。どっちにしても一緒だ」
 俺は一旦動きを止め、一物を入れた状態で言った。茂子は捲し上げられたワンピースを懸命に戻している。そんな事をやっても何も変わらないのに。
「もう、か、勘弁して下さい」
「うーん…、駄目だな。そりゃっ」
 掛け声と共に、再度、深く一物を突き刺した。茂子の体が上に突き出す。
「あ、ああっ……」
 俺は、腰を再度振り出した。茂子は声を張り上げる。女っていうのは、突然の動きに敏感なものだ。リズミカルになんて言う馬鹿な女がいるが、一旦俺のセックスを味わっちませば、みんな考え直す。
 一物を浅く浅く深くと、リズミカルに腰を動かす。女がそのリズムに合わせ、腰を動かしだすと、逆に浅く浅く浅くを繰り返す。体の反応は正直だ。女の体はもっと奥へと無言で訴えてくる。頭の中でいつ奥に激しくきているのと思っているのだろう。そんなに思い通りになるほど、世の中は甘くない。
「はっ、はっ、はぁ……」
 茂子の口から小刻みに喘ぎ声が漏れる。浅く浅くという動きも、まんざらではないらしし。体が動きに慣れてきたところを激しく突き刺す。
「あぁ~―……」
 激しく激しく浅く、ゆっくり深く、浅く激しくと不規則な動きをする。
「あああぁー……」
 茂子はいっていた。頬が朱色に染まり、体が細かく痙攣している。それでも俺は攻撃の手を緩めない。激しく激しく激しく…。ひたすら腰を大きくスライドさせる。
「あっ、あっ、ああっ、あぁ…。はぁ……」
 一度いった女は敏感だ。俺は男だから分からないが、多分、俺の百倍は気持ちいいのだろう。その敏感なところへ、激しくぶち込む。何度も何度もお構いなしにぶち込む。
 至福の世界の中にいるのだろう。自分が何度いかされたかすら、覚えていないはずだ。茂子は口許からよだれをだらしなく流し、半分白目の状態で大きな喘ぎ声を出していた。体がたまに大きく跳ね上がる。胸は上に突き出し乳首はピンピンに張り詰めて立っていた。旦那とはこんなセックスした事がないんだろう。
 女の様子を確認してから一物を抜き、顔面にまた精子をぶっ掛けた。

 水村茂子は黒いソファの上で、破廉恥な格好をして失神していた。あれだけ嫌がって抵抗していた人妻が、今ではこのざまだ。俺は横を向き千夏を見た。
「ターゲットの店は、確認できているのか?」
「はい、もちろんですわ」
「そうか」
「すぐに、つぶしにかかりますか?」
「そうだなあ、約束してしまったからな……」
 独り言のようにつぶやく俺を見て、千夏は嬉しそうに微笑んだ。
「これが成功したら、私を抱いてくれますか?」
 俺は千夏のボンッ、キュッ、ボンッ、と見事に突き出した体をゆっくり眺める。残念ながら、こういう女は俺の対象外なのだ。俺はこいつを一度も抱いた事がない。
「うーん、終ってから考えてみる」
「また、そんあ言い方をしてー……」
「しょうがないだろ?嘘はつけない性分だ」
「フフ…、そこがまた魅力的なんですけどね。じゃあ、終ったらちゃんと考えて下さいよ。もちろん、前向きに……」
「はいはい」
 千夏は真っ赤なスーツをひるがえし、元気よく黒い部屋を出て行った。俺はこいつを全面的に信用している。俺以外の男なら、千夏に誘われたら絶対に断ったりしないだろう。そのぐらいの魅力は持っている奴だ。
 こいつに任せておけば問題ない。俺はソファの上で失神している茂子の醜い裸体を手で色々まさぐった。何でこんなババアにしか立たないんだろうな。自分の息子が不憫に思えて仕方がない。
 歪んだ性格の持ち主。歪んだ性的対象。これが柴木大介なんだなと、自分自身で悟っている。俺は茂子のヴィトンのバックから、百万円の入った封筒を取り出した。
 本当はこんな金はいらない。俺は封筒をゴミ箱に放り投げた。依頼に来る人間の覚悟が見たいだけだった。

 これまで何件の店をつぶしてきたのだろう。俺と千夏の名コンビ。思えば、俺と千夏の出会いは、些細なところから始まった。
 いきつけの喫茶店。クラシカルなジャズが、静かに流れるお気に入りの店だった。毎日のように俺はここへ来て、うまいコーヒーを飲んでいた。嵐で大雨の日に、客は俺一人だった。その時、派手な音を鳴らしながらドアを開けて入ってきた一人の女がいた。それが千夏だった。
 傘を差さなかったのか、千夏はずぶ濡れだった。白いワンピースが雨でビチョビチョに濡れ、ブラジャーが透けていた。俺はそれだけ見ると興味を失ったようにコーヒーを飲む。
 ここのマスターは俺のコーヒーの好みを熟知している。キリマンジャロが八の、モカが二の割合で炒った豆をその場でひき、軽く混ぜ合わせ、ブルーマウンテンを軽く上に振りかける。本当に少量のお湯を上から少しずつ注ぎ、一杯作るのに一時間の時間を掛けていた。俺はそのコーヒーに一杯五千円の値段を勝手につけて金を払っていた。それでも安いぐらいだと思っている。
 ある日俺の目の前の空席に、千夏は突然座ってきた。髪の毛の先から雨が滴り落ちている。俺は無視してコーヒーを一口飲んだ。コーヒーをテーブルの上に置くと、千夏は無言で手を伸ばして勝手に飲みだした。
「何の用だ?」
「やっと運命の人に出会えた」
「はぁ?」
「やっと私、運命の人に出会えた」
 そう言って、千夏はニッコリ微笑んだ。
「何だ、そりゃ?」
「あ、申し遅れました、本庄千夏と言います。うん、結果通りの答えだ」
 千夏は腹を抱えて大笑いし出した。不思議な女だと感じたのが、第一印象だ。
「占いか何かに凝ってるのか?」
「うん」
 俺はこの女に少し興味を覚えた。
「それで?」
「色々占ったら、今日買い物中に大雨が来る。その時、目に付いた喫茶店に入れ。そこに客が一人だけなら、その人があなたにとって運命の人だって、出たの」
「一人ったって、それが女の客ならどうしてたんだ?」
「分かんない。でも、こうしてこの店に客は、あなた一人しかいないじゃない」
「まー。そうだな」
「私と一緒になる運命だったのよ。この喫茶店から」
「ロマンチストだな」
「女はみんな、ロマンチストにできてるのよ」
「それはそうだな」
「だから私、あなたと一緒になる運命なのよ」
「いきなり無茶言うな」
「だって、しょうがないじゃない。こうして出会ってしまったんですもの」
「……」
 こいつは頭がおかしいのか?占いを勝手に信じ込み、人まで巻き込もうとしている。
「黙ってないで、何か話してよ」
「あいうえお」
「アハハ…、ほんと、何から何までシュミレーション通りだ」
「その通りって何だよ?」
 千夏は一枚の黄緑の紙切れをテーブルの上に置いた。黙って俺は手に取った。俺は一瞬、血がひく感じを覚えた。その紙には、俺がさっき話した台詞が、何点か書かれていた。
「ば、馬鹿な……」
 俺は、クレッシェンド占いと、書かれた紙切れをちゃんと読み出した。

《第七回 クレッシェンド占い その一》
 とうとうあなたにとって、運命の日がやってきました。これを逃したら、あなたは理想の人との出会いはなくなります。本日、あなたは外へ買い物に行きなさい。そこで運命的な出会いがあります。怖がらないで、自信を持って堂々と出掛けましょう。そんなあなたに雨が降ります。大雨です。傘は持たずに出掛けて下さい。濡れるのを恐れずに…。その時、近くに見える喫茶店に行けば、運命の人に出会えるはずです。さあ、勇気を持って話しかけましょう。
・初対面の相手は「何だ、そりゃ?」と、あなたに、そう答えるでしょう。
・あなたが相手に運命の人と話しかけると「ロマンチストだな。」と、答えるでしょう。
・薄気味悪く思う相手は黙り、あなたは何か言ってよと、催促すると「あいうえお。」と、答えてくるでしょう。
・この印刷をした紙を見せると、相手は「馬鹿な……」と、答えるでしょう。
・相手は最後に、この紙を乱暴につき返し「ふざけるな。」と、答えるでしょう。
 この条件にすべて当てはまる方だとしたら、それが運命の人です。迷わずについていきなさい。その人がどんな道に行こうとも、迷わず行かなくてはなりません。ついて行かなければ、破滅が待つばかりになります。

 

 

2 コードネーム殺し屋 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

俺は、薄気味悪い黄緑の紙切れを乱暴につき返した。何だ、これは?見ていて次第に恐怖を感じていた。ワープロの字で、丁寧に印刷された一枚の紙切れ。いくら考えても悪戯と...

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