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岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

自身の頭で考えず、何となく流れに沿って楽な方を選択すると、地獄を見ます

闇 10(歌舞伎町一番街通り編)

2025年08月18日 18時49分25秒 | 闇シリーズ

2024/07/31 wed

2025/08/18 mon

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『闇 09(己の生き様の矜持編)』

『闇 09(己の生き様の矜持編)』

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岩上智一郎の部屋

 

 

鳴戸との決別。

この表現は適切なのか?

しかしどちらにせよ無職になってしまった俺。

まだ金銭的な余裕はある。

高橋ひろしのおかげで給料以上の金が日々もらえていたのはおいしかった。

だが無職となり、このまま遊んでいる訳にもいかない。

歌舞伎町に来て初めて一緒に働いた人間である世永。

彼は理不尽にもクビを言い渡され、ベガを去ったが知り合いを通じ、さくら通りのリングという店で働いていた。

このまま新宿を去るにしろ、世永にはひと言伝えておこう。

リングへ挨拶しに来た俺に、彼は言う。

「岩上君、勘違いからこの業界に入ったのは分かるけど、君ならうちの系列紹介できるから足突っ込んだついでに、もう少しやってみたら?」

プロレスの道も無くなった。

先日の一件で浅草ビューホテルで再度働く目も無くなった。

次にどうしたらいいか何も決まっていない。

俺は世永の心遣いをありがたく受ける事にした。

俺はあんな死に掛けそうな目に遭ったにも拘わらず、どこかこの街は居心地がいいと感じている。

自分を魚だと例えたら、浅草ビューホテルの水はどこか濁っていて泳ぎにくい。

歌舞伎町の水は本当に泳ぎやすかった。

暴力的なものが通用する場所。

力を持て余していた俺は、そこが気に入ってしまったのだろうと思う。

当時歌舞伎町のゲーム屋業界は三大系列と呼ばれる大きな組織があり、世永のいるワンオン系と呼ばれた組織は、リング、チャンプ、サニー、エースと四店舗もあった。

十円レートのサニーを除けば、あとはすべて一円レートの店。

西武新宿駅前通りのロッテリアのすぐ向かいにある地下一階のチャンプへ配属される。

本当に狭い店で、八畳程度の中には壁際にピッタリ押し付けるような形で十台ポーカーゲーム機があった。

機種はすべてワンオンワン入口すぐの場所にキャッシャー用テーブルがあり、窮屈そうな辛うじてある隙間に責任者が立ち、プリントや紙に状況を記載する。

キッチンも人が二人も入れないほど手狭で、そこに小さい製氷機と洗い場のみ。

こんな手狭な場所に従業員が四人も働く。

前の店ベガのように客も来なくて従業員二人だけの零細な店でない。

遅番のスタッフは責任者の有路、二番手の原、新潟からねずみ講で失敗し自己破産して逃げてきた林、元相撲取り上がりの久保田。

誰かしらが日々休みを取り、基本的に残りの四名で店を回す。

有路はプロレスが好きで妙に馬が合う。

原は仕事は黙々するが、完全なマイペース人間で他人には興味がない。

林はおおらかな性格だがインキンで股が痒いらしく年中指でかいている。

久保田は俺より大きな身体を面倒くさそうにチョコチョコ動く。

客数は常にほぼ満席。

確かにこの忙しさは二人では捌けないだろう。

「入れてー」

そう言いながら千円札を天井に向けて上げる客。

俺ら従業員は金を受け取り、INキーと呼ばれる鍵でゲーム機に捻ってクレジットを入れる。

この作業がIN。

「アウトしてー、オリ二本」

客にそう言われると、機械の横にあるボタンを押してクレジットを0。

例えばクレジットが七千なら一円レートなので、そのまま七千円になる。

一度この状態で金を渡し、また客が二千円INする手間を省くのがオリ。

つまりオリ二本なら、現金五千円渡し、クレジットに二千入れる。

この金をもらう作業がOUT。

一プレイ百円なので、千円なら十回何も出なければクレジットは無くなるという訳だ。

黙って千円札を右手で持ち、上に向かって手を伸ばすオカマの客。

俺がINをしようと近付くと、オカマはワザと金を床に落とす。

この嫌がらせに激高した俺はオカマの頭を叩く。

従業員が駆け寄り大騒ぎとなった。

確かに俺のやった行為はいけないものだと理解している。

ただ客とはいえ金をそんな風にしていいのか?

その一件からオカマは金をワザと下へ落とす事はなくなった。

店では自腹であるが出前も取れる。

年配の女性客がアマンドのカレーを取り、半分ほど残した状態で「もうお腹一杯下げて」と皿を渡してきた。

受け取ろうとすると、林がダッシュで皿を奪うようにして「岩上君、ワイが下げる」と洗い場へ消える。

中々出てこないのでチラッと様子を見ると、林は女性客の食い残しのカレーを「うめえ! うめえよー」とガツガツ食べていた。

新潟で自己破産し、こっちでも近くにあるサウナ、グリーンプラザ新宿で寝泊まりをしていると言っていたが、本当に金に困っているのだろう。

 

チャンプで働きだして二週間が経つ。

夜中になると寝た状態の四歳の娘を両腕で抱えて毎日来る客がいた。

汚いジャンバーをゲーム機の下の床に引き、娘を寝かせたままポーカーを始める。

奥さんに呆れられて出て行かれたのかと思うくらい、五千円から一万円の金を握り締めてポーカー賭博に熱中するオヤジ。

朝方娘が起きて騒ぎ出したので、俺は休憩時間を利用してロッテリアへ連れて行く。

好きなハンバーガのセットを買い与えると、口の周りをケチャップで真っ赤にしたまま嬉しそうに食べている。

そんなある日、前のゲーム屋ベガのオーナーの一人である海野がチャンプに姿を現した。

蘇る鳴戸絡みの死闘やヤクザとの対面。

俺の顔を見るなり時間を作ってほしいと言ってくる。

店の従業員に変な勘繰りされるのも嫌だったので、仕事の終わる時間を告げ、出て行ってもらう。

店長の有路から誰なのか聞かれたので、正直に前の店のオーナーという説明だけした。

仕事を終え外に出ると海野が待っていた。

一緒に歩いているところを系列の人間に見られるのも嫌なので、歌舞伎町交番横にある喫茶店トゥモローへ入るよう促す。

「ここ、コーヒー不味いんだよね」と言いながらコマ劇場方面へ向かう海野。

コマの横にあるロッテリアの自動扉を開けた。

注文はコーヒー二つ頼み、会計の際小銭をゴソゴソしながら中々支払わない。

もどかしいので俺が千円札を出すと「悪いねー」と言いながら席に座った。

要件は何か聞くと、鳴戸が経営から外れ、店の名前も一新してベガからオメガに変わるので、また戻ってきてくれとの事。

こんなしょぼくれた奴の下で働くのは二度とごめんだ。

俺は丁重に断り席を立つと、「鳴戸君から岩上君を絶対引っ張って来いって言われてるんだ」と口を開く。

鳴戸?

さっき経営から外れたとか抜かしたくせに、俺を引っ張る為の嘘だったのか……。

歌舞伎町という街は居心地が良い。

しかしあんな男の下で働くのは二度と嫌だ。

すでにチャンプで働いているのを知られている。

店に迷惑を掛けたくなかった。

あの鳴戸の事だ。

無茶な事を平気でやりそうな気がする。

「あんな目に遭ってまた戻ろうとは思いません。それにチャンプも地元で働くので辞める予定ですから」

俺は海野へ嘘をついて、ロッテリアをあとにした。

一度歌舞伎町から出る必要がある。

鳴戸たちとは絶対にもう関わりたくない。

真実を伝えるのも戸惑いがあり、俺は番頭の佐々木さんに「家がとても固い家で裏稼業で働いているのをバレてしまい地元で仕事しなくてはならない」と嘘をついて辞めた。

従業員の林などは目に涙を溜めながら「岩上君、辞めちゃ駄目だよ」と肩を掴んでくる。

馬鹿だけど悪い人じゃないんだよなと、嘘をついた罪悪感を覚えた。

 

一ヶ月ほどブラブラして過ごす。

坊主さんと裕子さんのところへ泊まりに行ったり、TBB総合整体の先生のところへ行きお茶を飲んだり、家の隣にあるトンカツひろむで岡部さんと話しながら飲んでいると、野原さんがやってくる。

ゲーム屋で働いていた事を恥ずかしく思っていた俺は、周りに会員制のバーで働いていると嘯く。

手持ちの金がだいぶ目減りしてきたので、そろそろまた仕事先を決めなければいけなかった。

また地元で適当にアルバイトしたところで何もならない。

またゲーム屋の佐々木さんへ連絡して、今度は腹を決めてまた働きたいとお願いした。

俺はエースという一番街通りにある店へ配属される。

片番だけで七名はいた。

狭いチャンプとは違い、五倍の広さがあるエースは余裕を持った席スペースに、従業員たちが休憩でくつろげる部屋まである。

この店の店長は所。

俺は遅番に回され、責任者加藤の元で働く。

同僚の体重百キロ超える巨漢の横道。

元ホストだと妙に偉そうな態度の下元。

他に元ホテルマンだという中村。

妙に浅黒い髪型がカールしている三橋。

初日は一人休みで俺を含む六名。

一週間もしない内に、エースは閉店し別の場所へ移る事になっていた。

歌舞伎町一番街通りは家賃が高く、エースのような大箱では採算が取れないようだ。

ほぼエースのメンバープラス新規従業員で構成されたゲーム屋プロ。

場所はチャンプから三軒隣の地下一階。

西武新宿駅からロッテリアのところを入り、コマ劇場へ抜ける道沿いにあった。

プロの店長は同じく所。

前のエースの責任者だった加藤は辞めたらしい。

今回も俺は遅番。

夜十時から十時間か、十二時から十時間勤務。

給料は日払いで一万千円。

そして食事代で千円出る。

早番の責任者はチャラチャラした偉そうな下元。

遅番の責任者は太った横道。

店長の所にはペコペコするが、自分より下の人間には横柄な態度をする彼とうまくやっていけるか一抹の不安が残る。

遅番の従業員は全部で五人。

席数も九台しかない長細い店。

階段降りて左奥にキャッシャー。

壁沿いにくっついた状態でゲーム機が七台。

入口とは逆向きで二台の合計九台。

本当に狭い。

チャンプは正方形の狭さ、プロは横長な狭さ。

休憩する場所は階段の真下のスペースしかなく、天井が斜めなるので非常に窮屈だった。

責任者の横道。

そして二番手に細かい事をブツブツ言う関。

俺は位置的に三番手。

入った順番的なものだろう。

元ホスト上がりで甘いマスクの大川。

アメリカ帰りの英語ペラペラな関口。

オープンしたての店なので、さすがに暇だった。

そんな忙しい店でもないのに、いつも〆をする際金額が合わない。

金が合わなければ、従業員の給料で埋めなければならなかった。

毎日のように合わず、今日は二千円、昨日は千円を日払いから取られる。

客の入りも悪いままで横道は焦りからか常に機嫌が悪い。

ベガでもやった電バリをやる事になった。

「岩上君と関で電バリ行ってきて」

横道に指示され、二人で外へ出る。

五十枚も電信柱に貼り、店に戻っても客はまだいない。

帰り際「もう自分、今日で上がって」と突然関をクビにした。

何故か事情を聞くと、ここ数日の〆で合わない日は必ず関が出勤しているそうだ。

先程俺と関で電バリ行った際、横道は中〆をして金額が合っているのを確認。

遅番終了時間まで数名の客は入るものの、〆でいきなり金額がズレていた。

そこで横道は金を抜いていると関をクビにしたと説明。

そんな事確証もなくと俺が言うと、身体検査したら関のズボンのポケットから一万円札が四つ折りで出てきたらしい。

五人出勤している状況で一万円のマイナスたと、一人二千円ずつ埋める計算になる。

関は被害者ぶって埋めたところで懐には八千円持っているから埋めても痛くないのだと、横道は言う。

ベガの店長だった高橋も、やり方は分からないが金を抜いていた。

ゲーム屋ではこういった手癖の悪い従業員が後を絶たないそうだ。

まだ入って一ヶ月程度の俺が、関のクビにより二番手となった。

 

相変わらず暇なプロ。

チャンプの同僚だった久保田は仕事が終わると、うちの店にゲームを打ちに来てくれた。

俺の仕事が終わるのを待ち、よく食事へ行く。

一度何故相撲へ行ったのか聞くと「親に連れられて相撲を観に行ったら、高見山親方から相撲は好きかいと聞かれ、はいと答えたら入門する感じになったんだ」と答えた。

小さい頃から大きな身体をしていたのだろう。

相撲を廃業して調理の道へ。

そこから裏稼業のゲーム屋業界へ来たらしい。

プロレスからホテル、それからゲーム屋へ来た俺と似たような境遇を感じ、久保田とは妙に馬が合った。

基本不機嫌でいつも怒っている横道であるが、面倒見の良いところもあった。

「自分、仕事終わったらちょっと付き合って」

相手を呼ぶ時よく自分という特殊な言い方をする彼は、俺を焼肉の叙々苑へ連れて行く。

「働いて一ヶ月経った真面目な従業員はここに連れてきてご馳走するって決めているんだ」と横道はご馳走してくれた。

意外な一面もあり、プロレスが好きらしい。

一度コブラツイストを掛けてほしいというので、足を絡ませると「ちゃんとしたコブラツイストってこんな痛いの? 足を入れられた時点でヤバいなと思ったよ」と少し打ち解けた気がする。

少し年下の大川はやたら俺に懐いてきた。

ホスト、ゲーム屋の経験しかない彼は、「岩上さんて本当優しいですよね」と仕事後食事にもよく誘ってくる。

日払いは同じだが俺のほうが年上だからご馳走すると、いつも感謝を述べ頭をペコペコ下げてきた。

一つ年上の関口はボソボソと小声で話すのが特徴的だ。

店に入ったのが数日俺のほうが早いだけで敬語を使ってくる。

クビになった関の代わりに新人で末光という未経験のチビが入ってきた。

 

店長の所が遅番に来る代わりに、俺が早番へ行く事となる。

新たにまた系列店が一番街通りに出きるそうで、所だけ抜けて新店に行き、その為のシフトチェンジだと説明された。

杜撰でチャラチャラした下元と同じ番になるのは憂鬱である。

大川のような柔らかい感じの元ホストならうまく対応できるが、同じ元ホストでも下元は年下にも関わらず常に上から目線で偉そうなのだ。

時間帯は真逆の朝十時か昼十二時から十時間勤務に変わる。

真面目な横道と違い、早番の下元は本当にどうしょうもなかった。

籍を入れたばかりらしく、毎日仕事中に元風俗嬢の嫁と電話をしている。

客がいても大声でお構いなし。

数名の客が「アイツ、うるせえよ」と苦情が出てもまったく気にしない面の皮の厚さ。

キャッシャーで客に聞こえるように電話せず、せめて階段下の隙間でやってくれとどかす。

彼は仕事をまったくせずに日払いだけもらう日々。

それでいて俺は責任者だと偉そうなので、いつも俺と衝突した。

ある日店長の所から外に呼び出される。

「岩上! 下元は俺が認めた責任者なんだ。アイツに文句があるなら辞めろ」と言われた。

俺は辞めても構わないが下元の滅茶苦茶ぶりを正直に伝え、それでも俺をクビにしたいならすればいいと堂々と伝える。

こんな理不尽さがまかり通るなら、辞めても悔いはない。

すると現状を知らない所は、酷く困惑し俺に頭を下げてきた。

この月の電話代の請求が来ると、十数万の金額だったらしく、番頭の佐々木さんは店の電話を使う際ノートに記載するよう伝えてくる。

出前を頼むのもどこへ電話を掛けたのか書かなければならないのか尋ねると、すべて書いてくれと言う。

原因は下元一人のせいなのだ。

毎日十時間以上、嫁と電話していたらこのぐらいの料金はいくだろう。

俺は所へこんなくだらない事をするくらいなら、下元の電話をやめさせればいいとハッキリ伝えた。

この一件もあり、俺と下元の仲は良くない。

ギスギスした空気の早番。

責任者と二番手の俺がいつも言い合いをしていたら、他の従業員たちも働き辛いだろう。

しかし悪いのは下元なのだ。

俺からへりくだる必要もない。

そんなある日、たまたま七名ほどの集団客が来た。

一気に忙しくなる店。

多忙時にさすがに従業員同士争ってもいられない。

集団客は金の使いっぷりが気持ち良かった。

金を使い果たしても、勝っている仲間が次々と金を回す。

綺麗に身支度を整えたサラリーマンのような雰囲気。

何となくホテルマンではないかと思った。

浅草ビューホテル時代の感覚と何か近いのである。

どちらにせよ、このプロにとって大切な核となる客には違わない。

俺は細心の注意を払い、接客に努めた。

タバコは客の自腹で従業員が頼まれたらすぐ買いに行く。

毎日のように来るので何を吸うか銘柄は覚えている。

俺は出勤前に彼らのタバコを自腹で買い揃え「あのー…、タバコいいでしょうか」と申し訳なさそうに言った瞬間、俺は吸う銘柄のタバコを出す。

驚いた表情で俺を見る客。

ホテルのラウンジで丁重に接客するよう心掛け、「いつも鎌田さんの吸うタバコを覚えておいたので、予め買っておきました」と伝える。

金を渡そうとする鎌田さんを手で制しお代は結構ですと言うと、仕切りに深く頭を下げ感謝をしていた。

この行為を気に入られたのか、集団客は毎日のようにプロへ来るようになり、一気に店が活気づく。

客が客を呼び、ようやく流行っていると言われるようになったプロ。

日々忙しさに追われ、従業員同士の歪み合いも無くなる。

あれだけ毛嫌いしていた責任者の下元とも、うまく連携取れている内に関係は良くなった。

裏稼業であるが、別に人を騙して悪い事をしている訳でない。

俺は毎日一生懸命一心不乱に働いた。

 

休みの日金銭的にも余裕あったので、高校時代初めてデートした永井泉に連絡してみる。

高校卒業以来だから七年ぶり。

彼女は快く俺の誘いを受けてくれた。

連れて行く場所は浅草ビューホテルの自分がいたラウンジのベルヴェデール。

以前総支配人の丸山と揉めたが、女連れで客として行く分には問題ないだろう。

当時武蔵浦和駅に住む泉を密かに気に入っていた俺は、夏休みに連絡も約束もせず彼女の駅まで行ってから電話した。

「今、武蔵浦和の駅にいるんだ。良かったら映画でも行かないか?」

携帯電話も無い時代。

公衆電話から勇気を出して誘う。

その時もたまたま暇を持て余していたのか来てくれた。

俺は川越まで連れて行き、実家の目の前の映画館ホームランへ連れて行くのはさすがに恥ずかしく、少し離れたスカラ座へ行きマリリンに会いたいを観た。

クソつまらない内容だったが、隣りに泉がいるので幸せを感じる。

ロッテリアでハンバーガーを食べて、ビリヤードで遊び、再び武蔵浦和まで送っていく。

泉を家まで送るのに格好をつけてタクシーを使う。

おかげで高校二年生だった俺は帰りの電車賃すら無くなり、浦和から川越までの距離を歩いて帰った。

学校が始まると、よく話し掛けてくれた泉に対し、恥ずかしさから避けるようになる。

これが原因か、俺はフラレた。

自衛隊の倶知安時代も、再度告白したが、またフラレた。

二十五歳になって三度目のチャレンジだったのだ。

ベルヴェデールへ連れて行き、これまでを色々語り合う。

帰りにプリント倶楽部で肩を組んで写真を撮るのが精一杯だった。

またフラレるのが怖かったのだ。

大川にプリクラを見せると「高島礼子に似た美人ですねー」と褒めてくれた。

店長の所が新しくオープンする店ワールドワンに移動し、俺は再び遅番へ戻る事になる。

遅番の責任者横道、彼とも日々忙しい時間を過ごす中、大川の退職が決まった。

同棲しているという可愛い彼女まで紹介され、よく食事へ行った彼がいなくなるのは正直淋しい。

俺は近くにあるリカーショップの信濃屋で、デュカスタン別名哺乳瓶と呼ばれるブランデーを彼にプレゼントした。

「辞めてもちょくちょく連絡するんでご飯でも行きましょうね、岩上さん」

こうして大川と笑顔で別れる。

永井泉の誕生日を覚えていた俺は薔薇の花束を注文し、メッセージカードに筆記体の英語で洒落た台詞を書きたかった。

しかし英語が分からないので、従業員の関口に洒落た言葉を教えてくれと頼む。

関口はニヤニヤしながら「この言い方だとイヤラシすぎるなあ…」と、一人でああでもないこうでもないと四苦八苦している。

「普通でいいから!」

あまりにも変な言い回しの英語なんて書かれると最悪なので通常の口説き文句の言葉を書いてもらう。

ポニーテールがとても似合う彼女。

俺は家の近くのバーでメッセージカードに筆記体で書き、薔薇の花束と共に彼女の実家の庭に黙ったまま置いて帰る。

お礼の連絡はあったが、特に仲が進展する事もなく、泉とは現在も会っていない。

おそらく彼女との縁は、俺にとって無いのだろう。

最後に付き合ったのが、二十歳の頃。

零細で胡散臭い社長の平子に都合いいように使われていた時に、祭りで知り合い付き合った初の彼女でもある。

もう五年も一人で日々を過ごしていた。

そろそろ淋しいな。

彼女が欲しかった。

浅草ビューホテル時代、可愛いなと思っていた小川誉志子とは辞める前に連絡先を交換していたので、たまにデートを重ねている。

何度も会っているのに、フラレるのが怖く、いまいち仲は進展しない。

異性に対し、どこか臆病な俺。

一度彼女を連れ、歌舞伎町西武新宿駅のところにある新宿プリンスホテルへ行かないか誘う。

一緒に向かい、地下のイタリアンレストランのアリタリアへ行った。

「いらっしゃいませ」

出迎えるホテルマンの顔を見た瞬間、俺も相手も思わず大声を出して固まる。

出迎えたホテルの支配人は毎日プロへ数名で来る集団客の一人である鎌田さんだったのだ。

彼は俺が女性を連れてアリタリアへ来店したのを快くもてなしてくれ、二人なのに八人掛けテーブルへ通される。

コース料理を頼んだだけなのに、テーブルに置ききれない量の料理や酒をこれでもかと並べた。

大食漢の俺が半分も食べられない量。

他のホテルマンも鎌田さんが報告したのか、俺の席へ笑顔で挨拶に来た。

そのすべてプロに来る人たちである。

帰りにいくら請求されるのか冷や冷やしたが、鎌田さんは「六千円ちょうどでいいですよ」とかなり安くしてもらう。

誉志子に対して本当に格好良く見えるようお膳立てしてくれたのだ。

 

店は順調だったが、責任者の横道には一つ大きな欠点があった。

自分の気に入った以外の客が、ゲームで出すと不機嫌に大声でコールをする。

勝負事なんだから、誰が勝っても問題ないはず。

しかし横道はその融通がまるで利かず、客からクレームが出るほどである。

何度もその行為について話し合うも「自分さー、責任者じゃないんだからさー」と聞く耳を持たない。

店の主役はあくまでも客。

従業員はある程度黒子に徹しないといけないのに……。

この頃から横道と俺ら下の従業員との溝ができ始めた。

ある日新人で毎日のように時間になってもゴミ出しできないのがいたので今回も注意すると、横道が大きな腹を押し付けながら「自分さー、俺と言い争いになったからって、下に八つ当たりはやめろよ!」と怒鳴りだしてくる。

客前なので小声でやめるよう促しても横道は治まらない。

あまりにも体重を掛けてくるので、客の座る椅子までが動いた。

コイツ、人が大人しくしてりゃあずには乗りやがって……。

素人相手に暴力は使いたくない。

しかし向こうから暴力的に来るのなら話は別だ。

俺は「おい、こっちが無抵抗なのにそう来るなら、俺もそう行くからな」と恫喝する。

すると横道は顔色を変えキャッシャーに戻り、番頭の佐々木さんに「岩上が怒って暴れています」と電話をした。

自分から仕掛けておいて、こっちご怒るとそう行動するのか。

俺は客前というのもあり、黙ったまま佐々木さんの到着を待った。

地下から外へ出され、佐々木さんが状況を聞いてくる。

俺は一部始終を説明し、このままでは客もどんどん減るし、下手したら警察へチクられる可能性まであると諭す。

もちろんここまでの事をしたのだから仕事を責任取り辞めるつもりでいるのを言うと「店は責任者の横道君に任せてあるから…、ちょっと待ってね」と佐々木さんはどこかへ連絡をしだした。

「岩上君、所君ところのワールドワンが人手不足で向こうで働いてみないかい?」

俺一人プロを抜けたところで、残りの従業員が神経的に持たず、みんな一ヶ月くらいて全員辞めてしまうと忠告するも、無駄だった。

「岩上君は新しいほうで頑張ってくれればそれでいいから」と言われ、一番街通りにある新店ワールドワンへ移動する事が決まる。

 

歌舞伎町一番街通り。

この時代、サラリーマンなど普通の人間が一番歩く通りだった。

以前あったエースほど大きくはないものの、ワールドワンは通りの真ん中くらいに位置する地下一階の店で、台数も十四台設置してある。

店長の所以外、全員ゲーム屋未経験。

一から従業員を育ててきたのでオープンからまったく休みが取れず、俺が来たのを歓迎してくれた。

俺の配属は所と同じ遅番。

簡単な説明だけされ、明日は休ませてほしいと頼まれる。

従業員は早番五人、遅番六人。

早番の責任者は吉田。

遅番は所、俺、中田、中島、赤井、鎌田。

カチッとした七三分けな所。

女みたいななよっとした仕草をしている中田。

太田プロに所属し、お笑い芸人を目指す中島。

千代大海と同じ中学の同級生だと言う蚊蜻蛉みたいなガリガリな赤井。

太ってだらしない顔をしている鎌田。

これから一緒に働く従業員たちだった。

ワールドワンの置いてあるゲーム機種はダイナミックという台で、歌舞伎町どこのゲーム屋に置いてないものらしい。

十四台中九台がダイナミックで、残り五台はワンオンワンという前から置いてある叩き台。

ここでいう叩き台とは、ポーカーの役を揃えた時ダブルアップでビッグかスモールを叩くので昔からそう呼ばれた。

ちなみに前の店プロは赤ポーカー一色の台。

赤ポーカーはダブルアップの際、叩いて七が出たら純粋に三倍になるだけのシンプルな機種。

それに比べてダイナミックは派手で画期的なシステムだった。

ダブルアップ画面になると、運が良ければ色付きの札が出てくる。

黄色の札で当てれば三倍。

緑で四倍。

赤なら五倍。

また更に運がいいとラブチャンスと呼ばれる叩く前からトランプの札がめくれ、例えばKなら七より大きいのでビックを叩けば絶対に当てる。

付け加え、ストレートフラッシュとロイヤルストレートフラッシュの二大役が出ても、それさえダブルアップができる過激台なのだ。

そのせいか連日客がわんさかやって来る。

新宿プリンスホテルの支配人連中もワールドワンへ一度来てくれたが、赤ポーカーに慣れていたのでどうもダイナミックは受け付けなかったようだ。

顧客の一人に大倉さんというおじいちゃんがいた。

レート一円だと一人当たりの使う相場はだいたい三から五万。

大倉さんは夜中に来ると、朝方まで図っとポーカーをするので一晩で十五から二十万ほどいつも負ける。

それでもまったく怒る気配すら無く温和で余裕のある人だった。

 

俺がワールドワンで働き出して一ヶ月経つ。

その間でプロは横道の性格に耐えられず、末光が辞め、関口まで揉めて辞めると連絡があった。

俺は番頭の佐々木さんに話し、何とかならないかお願いしてみる。

ちょうどこの頃一番街通りから西武新宿駅へ抜ける海老通り沿いにあったサニーで事件が起きた。

ケツモチの千葉連合を名乗るヤクザ者が店に来て、これから警察のガサが入るから金と〆用紙渡して店から出るよう言われたらしい。

サニーの店長も佐々木さんに電話一本すればいいものを焦ってそのヤクザ者の言う通り動き、結局はその情報すら嘘で店の金をすべて持っていかれたようだ。

歌舞伎町内にゲーム屋は百軒ほどある。

新たな店はボウフラのようにどんどん沸き、流行らない店はどんどん潰れていく。

歌舞伎町交番奥にあった潰れた店をうちの系列が買い取り、チャンピオンという新たな系列店が加わる。

俺はそこへ関口を入れられないか頼み、面倒見のいい佐々木さんは彼を配属させてくれた。

コマ劇場の斜め横、セントラル通りからさくら通りへ向かう途中の地下一階にアリーナという系列店もできる。

この店はオープン時、細かい客はすぐ出禁扱いにし初動を失敗した。

世永のいるリングから佐藤が急遽責任者でアリーナへ行き、立て直しをするようになり大変そうだ。

彼とは何度か食事に行く仲だったので、俺も仕事帰りアリーナへ寄り閑古鳥の鳴いた店をどうするかよく話し合った。

俺がワールドワンへ移動して半年もしない内にプロは閉店となる。

原因は遅番の時間帯だけで二週間で五回警察が警告来たらしい。

プロを辞める際、俺は番頭の佐々木さんに忠告した。

横道の横暴な接客スタイルは多くの敵を生み、従業員はついていけず、客から警察にチクられる可能性があると。

正にその通りの結末を迎えたプロ。

早番の責任者だった下元は、金融業界へ行き、十日で五割の利子を取る通称トゴで弱い人間から金を毟り取る仕事を選ぶ。

以前辞めた大川から聞いた話である。

彼はプロを辞めたあと下元に誘われ金融の仕事をしたが、詐欺紛いの内容に疲弊したようだ。

大川が辞めた原因は命令で客へ追い込み掛けている時、目の前で手首を自ら切られ、地獄のような出来事の連続で精神的に参ったらしい。

後日ニュースでも取り上げられたが、テレビに映る形で下元は警察に捕まっている。

俺がワールドワンへ入った当初からいた中田。

途中から来た俺を目の上のたんこぶ的な邪魔に思っている節があった。

ゲーム屋の基本は客が札を出したら素早く走って迅速にINをする事。

中田は所がいない日は必ずキャッシャーから離れず、奥の椅子に腰掛けてメモ帳に何か常に書いている。

俺は動けよと怒ったが、パソコンが少々できる中田は印刷物などを作っては店に持ってきた。

その変の器用さだけ番頭の佐々木さんに買われ、出勤しているのに座ったままの状況が許されている。

ある日所が中田へ「タバコを買ってきてくれ」と言う。

中田は赤井に金を渡し行かせようとすると「俺は中田、おまえに行ってくれと言ったんだ」そう言い半ば強引に買い物へ行かせた。

こういう強引なやり方の所を見た事がないので不思議に思っていると、中田が戻ってくる。

いきなり所は中田の胸倉を掴み、顔に頭突きをし出す。

「所さん! 客前ですよ。一旦落ち着きましょう」

とりあえず止めに入る。

あとで状況を聞くと、中田は毎日のように店の金を抜いていたらしい。

客は一日一度来店した際、始めに新規サービスが入る。

ワールドワンの場合、三千円分のクレジットがサービスで入るので、客が二千円出したとして新規サービス三千円、合計五千円分のクレジットが入る仕組みだ。

その際客には偽名でもいいので出金伝票に名前を書いてもらう。

中田の抜き行為はその新規サービスを狙ったもので、出金伝票に適当な名前を書き、架空の客が来た形にする。

つまり一枚書く毎に三千円の現金を盗める訳だ。

「今までどのくらい抜いたんだ?」

「お、覚えていません……」

また中田を殴る所。

今度は止めない。

少しして番頭の佐々木さんが中田を連れていき、階段を上がる際ゴンと派手な音がした。

こうして抜きがバレた中田はクビになったが、どういう風になったかまでは分からない。

 

ゲーム屋の従業員は本当に入れ替えが激しい。

左手首に数箇所の躊躇い傷のあった赤井は、気付けば店に来なくなった。

「アイツ、飛ぶとは思ったけど、やっぱり飛んだか」

所に飛ぶとは何か聞くと、仕事を無断で辞める事を指すようである。

お笑い芸人を兼業でしている中島も、いつの間にか飛んだ。

何か芸を見せてと頼むと、その場にしゃがみ込み「何をしてるの?」と聞くと「回転寿司を回す人」と寒い芸しか持っていないので、すべて諦め田舎に帰ったのだろう。

辞める時くらい礼節を持てばいいと思うが……。

浅草ビューホテルの同僚であった小川誉志子とは何度か食事へ行くも、あまりにも俺がちゃんとした気持ちを口にしないのごもどかしかったのか、急に連絡がつかなくなった。

情けない俺は彼女からフラレたのだろうと悟る。

全日本プロレスにも行き、ヤクザの前でも自分の信念を押し通した。

それなのに女にはいまいち勇気を出せない俺。

人並みに性欲だってある。

俺はチャンプの久保田に風俗店へ連れてってもらう事にした。

コマ劇場の近くにある十一チャンネルという店へ案内される。

三十分六千円という料金システムで出勤している女の子の写真が壁に数名貼られ、この中から好みのタイプを選ぶらしい。

裕美と書かれたショートカットの子を指名し、金を払って待合室へ通される。

久保田は選ぶが現在プレイ中で時間が掛かると言われ、別の子を探すのに時間が掛かっていた。

今まで知らない女性の前で裸になる行為が恥ずかしく、これが初体験。

妙な味わった事のない緊張が全身を包む。

ソワソワしている中、スタッフから番号を呼ばれ部屋に案内された。

ドアを開けると写真と変わりないショートカットの裕美が立っている。

思わず可愛いと褒めるとキスをされた。

一緒にシャワーを浴び、ベッドへ横たわる。

一生懸命プレイする裕美。

しかし俺は時間になってもいく事ができない。

何度か過去に女性経験あるが、俺は一度もいった事がなかった。

申し訳なさそうに平謝りの裕美に気にしないよう伝え、良かったらプライベートで食事へ誘う。

裕美は名刺に電話番号とメールアドレスを書いてくれ、俺は舞い上がって店をあとにした。

ワールドワンで新人が入る。

この日は千円札が少なく新人に一万円札を渡し、コンビニでジュースでも何でもいいから買って千円札を九枚もらってくるよう指示した。

三十分経っても帰ってこない。

「アイツ、飛んだな」と所は言った。

店内に私服を置いたまま、たった一万円の為に仕事を飛ぶ人間がいる事に驚愕する。

所の話ではそんな新人は過去何人もいたらしい。

その日の新人の日払い分で持っていかれた金を補填できるから問題ないそうだ。

ただ東京スポーツ紙などの三行求人広告をまた載せる費用が掛かるのと、新人が来るまでの間俺らの休みが取れない。

浅草ビューホテル時代調子が良かった競馬をまた始めた。

この年のクラシック戦線はアドマイヤベガ、ナリタトップロード、テイエムオペラオーの3強と呼ばれ、俺はほとんどのレースを外す。

年末の有馬記念はグラスワンダーから当時四歳馬(この頃一歳上にJRAは表記していた)のテイエムオペラオーとナリタトップロードの馬連に十万円ずつ賭けた。

これはチャンプの原が、天皇賞秋とジャパンカップを連勝したスペシャルウィークは有馬記念だと連闘のし過ぎでガレてコケるだろうという予想を参考にしたものだ。

勝負は無情にもグラスワンダー、二着にクビ差でスペシャルウィーク、三着にテイエムオペラオーだった。

この頃からJRAはワイド馬券の発売を始める。

ワイドだったら当たっていたのに十一……。

こうして俺はまた競馬へのめり込んでいく。

それからのレースのほとんどテイエムオペラオー、メイショウドトウのワンツーフィニッシュを嫌った俺は、稼ぎのほとんどを競馬で失った。

十一チャンネルの風俗嬢の裕美から連絡あり、新宿プリンスホテルのアリタリアへ連れて行く。

支配人鎌田さんのもてなしに裕美は驚き、食事のあとすんなりラブホテルへ入れた。

俺は相手の職業など気にせず裕美を口説く。

すると裕美には子供がいて別れた旦那に娘を親権で取られ、取り返す為に風俗を仕事に選んだと自身の生い立ちを話してくれた。

何か自分に協力できないかと真剣に伝えると、裕美は娘の為にこの仕事を始め、今はそれしか考えられないと謝られる。

「あなたは優しい人なんだから、私のような人間でなく、ちゃんとした人を彼女を作って幸せになって」と言われ、俺はフラレた。

 

早番の新人で山下という目の細いチビが入ってくる。

落ち着きのない奴で仕事が終わると毎日他のゲーム屋へ行き、日払いを使い果たし、常に金に困る生活をしていた。

同時期に小さな体格の大倉という四国から出てきた大人しい入るが、山下とコンビでも組んでいるのかと思うほど仲がいい。

ここ数ヶ月の遅番固定メンバーは所、俺に吉田の紹介で入った島村、同じ年の小山、中里で固定されていた。

ゲーム屋基本的に遅番の時間帯が忙しい。

遅番で欠員が出ると、早番である程度使えるようになった従業員を夜に上げ、新人は早番に入れるようにしている。

現在の早番は小さいのが多いので、チビっ子ギャングと仇名し笑いを誘っていた。

この時代、まだ非常に珍しかったパソコンを巧みに使いこなす中里。

俺は彼のスキルを素直に絶賛したが、元々漫画家かパソコン会社に就職する事を目標に働いていた。

漫画も目が出ず、パソコン会社もコネが無いので就職が決まらない。

諦めて田舎へ帰ると行ってきた。

俺の先輩である坊主さんの会社は当たり商品をヒットさせ、かなり上り調子だと聞いている。

そこで俺は坊主さんに中里が入れるよう紹介した。

「智の紹介だから面倒見るけど、ちょっと彼はうちの会社で働くには勉強が足りてないね」

そう坊主さんは言い、自信あって業界に入れたのに壁の厚さで中里は辞めて田舎へ戻ったようだ。

中里の代わりに鈴木という線の細い色男が入ってきた。

彼は不動産の宅地建物取引士、略して宅建の免許を取る目的で金を稼ぎに来ている堅物。

基本的に十時間勤務なのでどうしても一人は残業二時間する形になるが、鈴木は少しでも金を稼ぐ為率先して残った。

小山はトボけた顔をしているが、元ホストだと言う。

格好良さはないが、とても温和で物腰も柔らかい。

彼との会話は何故か心地よく感じた。

確かにこれならホストでも通用するのだろうなと変な納得をする。

こんな形で数年過ぎ、俺は二十七歳になっていた。

 

 

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