岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

著書:新宿クレッシェンド

小説、各記事にしても、生涯懸けても読み切れないくらいの量があるように作っていきます

闇 05(新潟、浅草ビューホテル編)

2024年07月24日 11時38分53秒 | 闇シリーズ

2024/07/24 wed

 

 

闇 04 - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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左足親指の爪粉砕による負傷

歩く事もままならない

あと一週間でどこまで回復できるか

プロテストは前回と同じなら、左足首を右ふくらはぎに乗せれば腕立て伏せは可能だ

去年は大沢の乱闘で警察に捕まり、入門はパー

今年はプロテスト手前で足の怪我

あまりの運の悪さが嫌になってくる

 

全日本プロレスプロテスト前日

同じく場所は戸田スポーツセンター

足の爪はまったく生え揃わない

歩いてつま先に体重が掛かると激痛が走る

しかしそんな不安をよそに、レスラーの渕さんは笑顔で迎え入れてくれた

体力は去年の分っているから特別なテストもなかった

この点は本当に助かる

この一年で体重10kg上がっていた

身体も大きくなったなと気付けてもらう

 

 

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渕さんとこれまでの事を簡単に話していると、背後から声を掛けられる

「あんたね? 一回フェイドアウトした人間は……」

小柄なメガネを掛けたおばさんが立って俺を睨んでいた

グッズなどを売る売店の人間か?

「うちはね…、一度フェイドアウトが務まるほど甘くないよ!」

その台詞で一気に頭へ血が上る

どれだけ罵倒され屈辱を受けながら不遇の一年間を過ごしてきたのだ

「ふざけんじゃねぇ、ババァ! 男の世界に女が口挟んでんじゃねえよ!」

怒鳴りつけた瞬間、後頭部を強く叩かれた

 

「おまえ、誰に向かってそんな口利いてんだ!」

真っ赤な鬼の形相の渕さん

他のレスラーも駆け付け、殴られ地面へ押さえつけられる

「謝れ、このクソガキが!」

売店のおばさんだと思った相手は、ジャイアント馬場社長の奥さんだったようだ

それでも簡単に俺のこの一年を軽く見られた事には納得できなかった

意地でも謝るものか

身動き取れない状況でも、俺は顔を上げて睨みつける

 

騒ぎの中、一人の大男が近付いてきた

あの三沢光晴さんだった

渕さんが三沢さんに状況を説明している

俺を押さえつけていたレスラーたちをどかし、肩を貸して起こしてくれる三沢さん

「まだ若いんだから、おいおい教えていけばいいじゃない」

その一言でみんな黙るしかなかった

ニコッと微笑む三沢さんを見て、俺は一発で陶酔してしまう

強さだけ求めるのでなく、男として生まれたからにはこうなりたい

偉大な背中を見せつけられた

 

足の具合は本調子とはいかないものの、また合宿所まで辿り着ける

鶴田師匠は去年より身体を大きくしてくれた事を褒めてくれ、マンツーマンでよくトレーニングを見てもらう

体力の消耗は激しいが、充実した日々を送れた

「いいかい? レスラーってのはどんな攻撃も避けちゃいけないし、何を喰らっても壊れちゃいけないんだよ」

だからこそ日々鍛錬し、強靭な肉体を作り上げるのだ

ここには強くなる環境だけがすべて揃っている

 

一度、以前編み出した自身の必殺打撃技の打突の事を話した

鶴田師匠の形相が変わり、「おまえは相手を殺すつもりでやっているのか!」と酷い怒られ方をした

馬場社長の伝えるプロレスは、どんな攻撃をも受ける気構えで構える

そこへ相手は全力で攻撃を叩き込む

俺の打突は、仁義に外れた卑劣な技でしかなかったのだ

異様に発達した握力と親指

全日本プロレスの中に入れば俺は背も大きくない

バックボーンも無い

力だって飛び抜けたものがあるわけでもない

だからこそ編み出したのが打突だったのである

確かに卑劣な強さを得たいわけではなかった

しかし何の取り柄も無い俺が、この先どうすればいいのか

一心不乱に練習して身体を大きくするくらいしか思いつけないでいた

 

とある先輩レスラーの一人が妙にネチネチ絡んでくる

おそらく俺が鶴田師匠に可愛がられているのが面白くないのだろう

練習で着ているTシャツ一つにいちゃもんをつけ、何かしら絡んできた

日々ちょっとした事でストレスが溜まる

スパーリングの際、正面から両腕ごとクラッチしてそのまま沿って顔面をマットに叩きつけた

鼻血を出しながら怒る先輩レスラー

身体はこっちの方が小さいが、技術では負けてない

関節を取っても相手を動けなくしたところで、口元に笑みを浮かべながら手を離す

リングの上なら何をやってもいい

先輩後輩関係ないのだ

油断した瞬間だった

相手は体重を活かし上に乗られ、左腕関節を取られていた

相当これまでやられたのが悔しかったのだろう

先輩レスラーは「タップせいや、オラッ」と凄んでくる

底意地の悪さから本当にこいつが嫌いだった

俺は顔面目掛けて唾を吐き掛けた

その瞬間左腕があり得ない形に曲がり、左肘の骨が変な方向に突き出した

まだデビューもしていない俺のプロレス生活は、これで終わりを告げた

最初は警察

次は怪我

自分自身にも問題があったとはいえ、何故俺は何をしてもうまくいかないんだろう

リングの上で戦う為にずっと鍛えてきた

身長180cm体重92kg

ジュニアヘビー級程度の大きさにはなれたのだ

しかしすべてが何の意味も無くなった

もう生きている価値すら無い

 

状況を知って、先輩の坊主さんは俺の部屋に一週間寝泊まりした

ふさぎ込む俺に対し、とにかく自棄になるな

どうあっても生きろと説いた

どんな恥を掻いても、死にたくても、生きていれば腹は減る

金だって元々持ってない

腕の怪我がマシになった頃、また一般社会で働く必要があった

 

地元の知り合いから、人にかなり気を使う性格だから接客業をやってみたらとアドバイスを受ける

当初川越の氷川会館式場で働くつもりが、いきなり新潟のホテルへ行ってほしいとと頼まれた

場所は新潟県にある上越国際スキー場にあるグリーンプラザ上越というホテルらしい

新幹線のチケットも用意され、俺は23歳の冬、新天地へ向かう

 

北海道倶知安時代と同じ辺り一面銀世界に包まれた空間

違うのはスキー目的で来る客の数

そして雪質の違いだった

北海道の雪は服について、手で叩いても中々落ちない

新潟の雪は関東でたまに降る雪質とそう変わりはなかった

二千人は集客できるスペースの大型ホテル

俺は初日社員寮へ案内され、配属はアルプスというレストランになった

 

誰から聞いたのか全日本プロレスにいたという事を知ったホテルの従業員たちは、俺のところへ色々聞きに来る

またはどんな奴が来たのだろうと眺めに来る人間もいた

厳しく性格が悪いと言われる他のスタッフたちから評判の悪い支配人

彼は熱烈なプロレスファンらしく、俺のいるレストランアルプスへ来た

俺などレスラーでも何でもない

ただ短い期間、全日本プロレスに練習生としていただけなのに、「握手してもらえませんか?」と立場も気にせず物凄く畏まっている

こんな形で俺の新たな生活は始まった

 

アルプスはかなり大型のレストランで席数500あった

スキー場のリフト乗り放題、宿泊もタダという条件で釣られた大学生集団が大量にいるので、彼らアルバイト込みで一日辺り70名前後のスタッフを使う

昼のランチタイム時は客が自分で好きな料理を取りに来るカフェテリア形式

夜は食べ放題のブッフェ形式

サービス業自体このようなホテルでは初めてだったので、何もかもが新鮮だった

 

500席もあるのにそれでも行列ができるレストランアルプス

ランチはミートソースのところに立ち、並ぶ客へパスタを盛ってソースを掛ける

先にあるレジまで行って会計するので、手間はそう掛からない

アルバイトたちは空いた席の食器をひらすら片付け、次へと回す

70名いても追いつかないくらいの忙しさであった

 

米と言えば新潟魚沼産

密かに楽しみにしていたが、社員食堂までアルバイトを使い作らせていたので、賄は酷い出来だった

米も古米どころか古古古米でも使っているのかと感じるくらい潰れた不味い米

責任者という立ち位置を使って、厨房のシェフたちからレストランの料理をもらう事はできたが、常に飢えているアルバイトたちを前にそれはできなかった

他に食事をするところと言えば、リフトでスキー場の下まで降り、それから街に繰り出さねばならない

一度試みた事があるが、下り途中でリフトが止まり、凍え死にそうになってさすがに懲りた

そんな状況も手伝い俺の体重は一か月ちょっとで13kg落ち、79kgになってしまう

あれだけ体重を上げる為必死だったのに、落ちるのはこんな簡単に落ちてしまう現実

歪に突き出た左肘横の骨を眺める

もう必要以上身体を大きくする事もないか……

 

二ヶ月も経たない内に、俺は別の場所へ移るようお願いされる

せっかく新潟にも馴染んできたところなのに後ろ髪を引かれる思いだ

新たな場所とは浅草ビューホテルだった

全日本プロレスを駄目になりずっと塞ぎ込んでいた俺にとって、仕事とはいえここまで多くの人間たちと触れ合い、話をしたのはいい転換期となっていたわけである

18歳で朝霞駐屯地

19歳で北海道倶知安駐屯地

20歳で川越へ戻り

21歳で横浜

また地元へ戻り、全日本プロレスへの挑戦が始まった

現時点で23歳、今度は浅草か……

 

 

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浅草寺の近くの国際通りを向かい側に浅草ビューホテルはそびえ立っていた

配属先は最上階スカイラウンジのベルヴェデール。28階だった

ぞわっとするような高い景色が見える状態での職場

昼はスカイラウンジブッフェ、夕方からラウンジに変わる

店内にはショーステージが設置され、一日に四回外国人歌手のステージがあった

同じ接客業でも新潟とはまるで違う環境はとても勉強になる

気取った映画のワンシーンに出ているのかと錯覚するような空間

色とりどりの綺麗なカクテルを飲みつつ夜景を楽しむ客

ずっと彷徨っていた俺であるが、ここで根を張りしばらく真剣に頑張ってみよう

そう心に固く誓った

 

ビューホテル当初は新潟のグリーンプラザ同様色々な従業員が俺を見物に来た

まだこの時代、プロレスはかなり人気があったのでとても珍しかったのだろう

酒というものは非常に奥が深い

醸造酒でビール、ワイン、酒

蒸留酒でブランデー、ウイスキー、ジン、ウォッカ、ラム、テキーラ、焼酎

混成酒がリキュール、ビターと大きく三つに大別される

ウイスキーの五大生産国といえば、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本

仕事が終わるとベルヴェデール内のカウンターで一杯飲みながら、上司から酒の知識を教わり、細かい接客術を学ぶ

たくさんの酒が置いてある中、俺が一番気に入った酒は、スコッチウイスキーのグレンリベット12年だった

 

覚える事は多かったが、毎日が充実していた

好きなウイスキーから深く掘り下げて勉強をしていく

スコッチウイスキーはモルト、グレーン、ブレンデットと三つに大別し、俺の好きなグレンリベットはモルトウイスキーになる

モルトは主に四つの地域に分類され、スペイサイド、ハイランド、ローランド、アイラと地方別になっていた

リベットはスペイサイド地方の酒

いつかこの地へ行ってみたいと思う自分がいた

 

続き ↓

闇 06(浅草ビューホテル編) - 岩上智一郎の作品部屋(小説・絵・漫画・料理等)

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