korou's Column

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洋楽の新しい「風」

2021-11-18 | 洋楽

2021年に米国で流行った音楽といえば

最初にオリヴィア・ロドリゴが鮮烈なデビューを果たし(「drivers license」)

その後小さいヒットが続いた後

夏場はBTSの独壇場となり(「Butter」)

それから、ヒット曲シーンの常連ジャスティン・ビーバーが

オーストラリア出身のザ・キッド・ラロイをフューチャーした「Stay」が支持を集め

最近では、もう圧倒的にアデルの話題ばかりで

最新シングル「Easy On Me」がどこまでビルボード1位の記録を伸ばすか

という感じである。

オリヴィア・ロドリゴはともかく(彼女にしてもかなり日本向きな分かりやすい歌手だが)

BTS、ジャスティン・ビーバーは世界的な有名人で

アデルにしても、洋楽ファンで知らない人は居ないわけで

その意味では、日本ではほぼ無名のラッパーやR&B歌手が大ヒットを飛ばした2020年とは

対照的な年となったと言える。

 

☆☆☆

 

外国のアーティストの場合

日本での人気と

出身国での人気(というより情報が米国に集中するので米国での人気)とでは

(当たり前ではあるが)多くの場合一致しない。

 

ただし、ビートルズ出現以前は

かなりの確率で一致していたことも事実である。

1960年代半ばまでは

米国の文化が世界をリードしていて

産業面で独自の地位を確立していた西ヨーロッパ以外の地域では

米国で流行ったものを有難がり、そのすべてを享受しようとする姿勢が

世界各国にあったようなのである。

日本でも、そのすべてを受け入れていたわけで

フランク・シナトラ、ペリー・コモ、ナット・キング・コールなどが

米国のヒットチャートで人気を博した時代では

若干の時差を伴いながらも

それらの歌手が日本でも人気歌手となっていった。

エルヴィス・プレスリーの出現は

ある程度の戸惑いをもたらして

いくらか洋楽ファンの間の世代間断絶を生む結果にはなったものの

そのうちにプレスリーの曲も保守的になっていったので

大勢に影響はなかった。

(その反面、黒人系の音楽は日本においては無視され続けてきた。

 米国においても、当時は黒人系の音楽は冷遇されていたが、それ以上に

 当時の日本人の感性のなかに、そういう音楽を理解する土壌がなかったから

 である。例えば、レイ・チャールズは、ビートルズ出現以前にすでに米国では

 有名な歌手だったが、その当時の日本ではマニアしか知らない無名の歌手の

 扱いだった。70年代になって洋楽を聴き始めた自分の記憶では、レイ・チャールズ

 の60年代初頭の大ヒット曲などをラジオで聴いたことはなく、それがいつのまにか

 昔から有名な歌手だったという風に歴史が「改ざん」されていったように思う)

 

ビートルズの出現は

米国自身のヒットチャート及びポピュラー音楽の在り方を

根本的に変えていったのだが

それは日本において

洋楽ファンをロック音楽ファンと非ロック音楽ファンに

二分する結果となった。

そして、圧倒的に人数の多い非ロック音楽ファンのほうが

日本の洋楽ファンの主流となり

そのことが米国でのヒットと日本での洋楽ヒットの食い違いを

大きくすることにもなった。

60年代後半の米国でのヒット曲の中心は

モータウンに代表されるヒット優先の黒人系音楽と

モンキーズのようなものまで含むロック系音楽だったのに対し

同じ時期の日本での洋楽ヒットは

映画音楽、ややロック系も入った甘いポップス系音楽(西欧のアーティストも含む)が中心で

ビートルズでさえ、当初は日本ではヒットした曲が出なかったくらいである。

有名な武道館公演の際、ほとんどの人は

彼等の演奏する曲について数曲しか知らない状態で

知名人の出した感想も、音楽そのものへの言及は皆無に近く

もっぱら会場の熱狂した雰囲気、コンサート自体の短さなどへのコメントばかりだった。

この頃から、洋楽の「ガラパゴス化」が始まっていたのだ。

 

1970年代になって

FMラジオ、深夜放送の普及などにより

音楽を提供する側のレベルが上がったことで

ますます日本独自の感性に基づく音楽番組が増え

その結果、米国と日本とで、ヒット曲が一致しないケースが

普通にみられるようになった。

クイーンやチープ・トリックなどは

日本の音楽ファンが発見したアーティストだし

逆に海外では抜群の名声を誇ったザ・フーとかイエスなどのロック・バンドは

日本ではさっぱり人気が出なかった。

ケニー・ロジャースとかグレン・キャンベルとかは

日本でもそれなりに知名度はあったものの

ビリー・ジョエルとかエルトン・ジョンに比べると

ぐっと人気は落ちることになるのだが

米国でケニー・ロジャースはビリー・ジョエルよりずっと格下なんてことは

まずあり得ない話だろう。

しかし、それが日本での洋楽ファンの評価なのであり

まさに「ガラパゴス」なのだった。

 

そんな様相が変わったのが

1980年代のMTV全盛の時代だった。

80年代になってようやく

それまではあり得なかった全世界同時の洋楽大ヒットという現象が起こり

しかも、音楽だけでなく映像も楽しめる全く新しいエンターテインメントとして

米国発の音楽が全世界を席巻したのである。

その中心的存在がマイケル・ジャクソンであることは言うまでもないが

その他にも、マドンナ、ワム、ホイットニー・ヒューストンなどの

世界的スター歌手が多く出現し

日本においても洋楽の一大ブームが起こった。

この時期だけ、日本と世界とで、ヒット曲の完全一致が実現している。

 

そんな時期が「ウィー・アー・ザ・ワールド」の大ヒットをピークに

徐々に変動を見せ始める。

米国ではヒップホップ音楽が主流になっていき(M・ジャクソンの影響も大きい)

一方のヒットソングの源流である英国ではテクノ系音楽(ユーロビート等)が主流になり

両者は交わることなく、ついに英国系音楽はビルボードから駆逐されていくのである。

米国のヒットチャートは、独自の狭い世界で展開し始め

日本の洋楽ファンはその動きについていけなくなっていく。

90年代の洋楽は、ほぼ進歩のない状態にとどまり

それぞれの国でそれぞれの発展を遂げるという

「全世界ガラパゴス化」の状態になっていく。

日本も例外ではなく

既存の歌謡曲から、洋楽の要素を取り入れたJ-POPが誕生、

隣国韓国でも、やや遅れてK-POPが誕生する。

英国は、ユーロビートから、特に傾向のみられない普遍的なロックバンドの音楽が主流となり

米国は、ラップを中心としたヒップホップと、R&B系音楽が二大主流となっていく。

ヒップヒップとJ-POPには接点がほとんどなく

それよりもR&BとJ-POPのほうが、まだ関係性があるのだが

R&B独自の土着性が、日本独自の土着性ともいえる歌謡曲の世界と混同されがちになり

そのことがJ-POPそのものを一層分かりにくいものにしていくので

今の日本の音楽シーンでは、洋楽はむしろ敬遠されていると言ってもよいかもしれない。

 

2010年代になって

ブルーノ・マーズの出現あたりから

米国の音楽シーンでも

今までの狭い世界での展開から、より広いファン層に訴える音楽に

シフトチェンジしているように見えてきた。

BTSがあれほど支持されるのも

10数年までは考えられない現象だし

当のブルーノ・マーズ自体が

昨年あたりからシルク・ソニックの活動をメインにして

ますます80年代の全世界を相手にした堂々たる音楽を志向し始めているのも

まさにその傾向の象徴だと言えるだろう。

今ヒットチャートを独走しているアデルにしても

90年代以降のイギリス発の音楽のなかでも最も分かりやすく

全世界にアピールできる音楽になっているし

この傾向は今後も強まっていくに違いない。

 

☆☆☆

 

というわけで

今年の春先に全米第1位となったシルク・ソニックのこの曲で

新しい洋楽の「風」を感じてください。

2021年にこんな甘く懐かしい音楽が全米で流行るとは(youtubeで4.3億回再生達成!)

2000年頃には想像もできなかったことです。

 

Bruno Mars, Anderson .Paak, Silk Sonic - Leave the Door Open [Official Video]

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