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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 11

2022年07月14日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 アイに背負われ、朱音としのぶが付き添ったまま、さとみは教室へと行き、自分の席に座らされた。さとみは机に突っ伏して、すうすうと寝息を立てている。
「いいか、会長はお疲れだ。邪魔するんじゃねぇぞ。邪魔したヤツは後で絞めるからな」
 アイは周囲の生徒たちに言ってぎろりと睨む。皆、全力でうなずいている。
「じゃあ、先輩、行きましょう」朱音がアイに言う。「午後には回復すると思います」
 と、そこへ麗子が来た。気持ちを落ち着かせるために少し寄り道でもしていたのだろう。麗子は驚いた顔をしながら、寝ているさとみとアイたちとを見比べている。
「麗子」アイが言う。「会長を頼んだよ」
「……分かった」麗子は答える。朝の事から想像はつく。「寝かせておけばいいんでしょ?」
「まあ、そう言う事」
「あれれぇ? アイ先輩、麗子先輩には口調が優しいですねぇ……」しのぶが、にやにやししながら言う。「そこの所、詳しく!」
「うるせぇ!」アイは顔を赤くしながら怒鳴る。「お前たちも教室へ行け!」
 きゃあきゃあ言いながら朱音としのぶはさとみの教室を出て行った。
「じゃあ、頼んだ。昼休みに様子を見に来るから」
 アイは麗子に言うと教室を出て行った。
「……やれやれ……」
 麗子は、寝ているさとみの後ろ頭を右の人差し指で軽くつつく。突然さとみが上半身を起こした。
「きゃっ!」麗子は小さな悲鳴を上げる。「さとみ…… 起こしちゃった?」
 しかし、さとみは返事をしない。上半身を起こし、正面を見たまま動かない。麗子はさとみの目の前に手をかざし、左右に振った。さとみは反応しない。
「……寝てる……」
 麗子は呆れたようにつぶやいた。さとみは得意の『目を開けたまま眠る』を実行中だった。

 アイは教室へと向かう。ふと廊下の壁の窓越しに外を見た。良い天気だった。
「……絶好のさぼり日和だ」
 アイはつぶやくとにやりと笑い、階段を上へと上って行く。
 屋上は危険だとさとみは言っていたが、アイには伝えていなかった。アイは、屋上でさゆりからひどい目に遭わされてはいたが、そのような事で怯む訳はなかった。むしろ、今度会ったら絞めてやるくらいのつもりでいる。だから、さとみから注意されていても聞きはしなかっただろう。さぼり日和は言い訳で、闘志は抑え切れなかった。……屈辱は一度だけだぜ。アイは階段を一段一段踏みしめる。
 屋上の出入り口の扉の前まで来た。
 アイは深呼吸をする。それなりに緊張はする。……あの時は油断していたからだ。今度はあいつの思い通りにはさせないぜ。アイは自分に言い聞かせる。
 アイは扉を開けた。相変わらず軋み音がうるさい。
 抜けるような青空、爽やかに吹く風、高い空を囀りながら飛ぶ鳥、遠くに聞こえる車の音、誰もいない屋上には、ベンチが一つ。
 アイはベンチを見つめる。一瞬ためらったが、ベンチに向かって歩き出した。ベンチの前で立ち止まる。
「ふん!」アイは鼻を鳴らすと、どっかりとベンチに座り込み、腕を組んだ。「さあ、出てくるんなら、出てきやがれ!」
 アイは言うと、脚も組んだ。目を閉じた。空気が変わるのを感じ取るためだった。
 不意に、首筋に冷たいものが触れた気がした。
「うわっ!」
 アイは驚いて立ち上がる。首を押さえながらベンチへ振り返った。
 ベンチの後ろに艶然と微笑むさゆりが立っていた。前に見た時より、その姿は、よりはっきりとしている。碌で無しどもの気を十分に蓄えているようだ。
「お前、綾部さとみの仲間だってねぇ?」さゆりは微笑んだままで言う。「ここに来るなんて、いい度胸だね」
「うるせぇや!」アイが怒鳴る。「それは関係ないね! わたしは、やられっぱなしって言うのが気に入らないだけさ」
「そうなんだ、立派だねぇ……」さゆりがわざとらしく感心した顔をする。「それで? どうするんだい? お前には何も出来ないんだけど?」
「わたしに触れるんだから、わたしだって、ぶん殴るくらい出来るだろうさ!」
 アイは言うと、ベンチの腰かける所を足で踏みつけて飛び上がり、さゆり目がけて握った右拳を撃ち込んだ。が、アイはさゆりをすり抜け、コンクリートの床に転がった。素早く体勢を立て直し、アイはさゆりに振り返る。しかし、さゆりはいなかった。
「良い拳ね」アイの背後でさゆりの声がした。「でもさ……」
 アイは振り向きざまにさゆりの顔面に拳を放った。しかし、これもさゆりの顔をすり抜けてしまった。アイは体勢を崩し、また床に転がった。
「話を最後まで聞きなよ」さゆりが苦笑しながら、転がったアイを見下ろして言う。「わたしが生身だったら、今のでイチコロだったわ。でも、生身じゃないからねぇ……」
「だって、お前はわたしに触れたじゃないか!」アイは悔しそうな顔をさゆりに向ける。「その逆が通じないなんて、おかしいじゃないか!」
「おかしいって言ったって、仕方ないだろう? そうなんだからさ」
「うるせぇ!」
 アイは再びさゆりに飛び掛かった。さゆりは右の手の平をアイに向けた。衝撃波が放たれ、アイは飛ばされた。床に倒れたアイは動かない。
「あら、やり過ぎた?」さゆりは衝撃波を放った手の平を見つめる。「いつもと変わってないつもりだけどね?」
「……それは、前よりも力が付いたって事よ」そう言いながらユリアが現われた。「ほら、色んな連中が集まって来ているじゃない? 『塵も積もれば山となる』って感じよ」
「わたしの力は塵の塊かい?」さゆりは言うと、楽しそうに笑った。「たしかに、碌で無しどもって言う塵芥だもんねぇ」
 ユリアは倒れているアイに近づく。
「ふ~ん……」ユリアはしゃがみ込んでアイを見る。「……なかなか鍛えてそうじゃない? それに、憑きやすそうだわ……」
「憑くって?」
「こうやるのよ」
 ユリアは言うと、倒れて居るアイにからだを重ねた。ユリアのからだが消え、アイは起き上がった。さゆりに向かって笑む。
「こう言う事よ」
 アイは言う。しかし、声はユリアのものだった。


つづく


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