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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 10

2022年07月13日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 しんとなった公園に、豆蔵たちは佇んでいる。
 騒ぎが治まったのを見て、浮遊霊たちが戻って来て、地縛霊たちも何事も無かったかのようにしていた。
「……この事は嬢様に話さねぇ方が良いでしょうねぇ」豆蔵がつぶやく。「何しろ、責任感が強いもんでやすからねぇ……」
「そうねぇ」珠子はうなずく。「『わたしがぐずぐずしていたから』なんて言い出して、わあわあ泣いちゃいそうだもんねぇ」
「さとみちゃん、泣き虫だもんねぇ」虎之助が言う。「でもさ、さとみちゃんって、いっつも誰かさんのために泣いているわよね」
「優しいお方です……」みつが言う。「わたしは、さとみ殿が好きですね」
「あら、わたくしより、ですの?」冨美代が素早く反応する。みつは返答に窮している。「……でも、分かりますわ。さとみ様、本当に良い方ですわ」
「何だか、妬けちゃうねぇ」楓が口を尖らせる。「まあ、面白いお嬢ちゃんだよな」
「当分はヤツらも手を出してこないだろう」静が言う。「こっちが手強いと、身を持って分ったろうし、一天王になっちまったからね。ユリアも愚かだよ」
「その時その時の快楽だけで進んでいるのですね」冨が眉間に皺を寄せる。「あまりにも刹那的過ぎだわ…… きっと悲惨な生い立ちなのね」
「それって、さとみちゃんが言いそうだわ」虎之助が笑う。「そして、同情して、えらい目に遭って。それでも懲りずに同情して……」
「まあ、嬢様は、昔っからそうでやした」豆蔵が言う。「だから、余計に、こちらとしちゃ、守ってやりたくなるんでさぁ……」
「とにかく、今日はこれまでだね」珠子が言う。「近いうちに、最後の戦さが待ってそうだ」
 皆はうなずく。
「あっしは、もう少し、ヤツらを探ってみやす」
 豆蔵は言うと姿を消した。
「わたし、竜二ちゃんを失くさないようにしておくわね」
 虎之助は球をしっかりと握って消えた。
「では、わたしも、これにて御免」
「……あっ、お待ちになってぇ」
 先に消えたみつを追いかけるようにして冨美代も消えた。
「あ、あんたはわたしらと一緒だ」静が消えようとする楓に言う。「色々と躾け直さなきゃいけないからね」
「うへぇ……」楓はイヤそうな顔をする。「……ま、それも良いか」
 楓は三人の祖母に囲まれ、そのままで皆が消えた。

 翌朝、ぽうっとしたままの顔でさとみは登校する。
「さとみぃ!」
 元気な声をかけてきたのは麗子だ。美容のためとか言って、麗子は十分な睡眠を摂る(ただし、心霊話を聞いた日の夜は別だ)。
「あ、麗子……」さとみは答えると、大きな欠伸をした。「……おはよう」
「女子高生が道の真ん中で大きな欠伸をするなんて恥ずかしいじゃない!」麗子は叱る。「そんなんだから、彼氏も出来ないのよ。もっと大人にならなきゃ」
「だって、眠いんだもん……」さとみは、昨夜、あれから起きていたのだ。「早く学校へ行って寝なきゃ……」
「何を言ってんだか……」
 麗子はため息をつくが、ふらふらとした足取りのさとみを抱えて歩き出す。
「おはようございますぅぅぅ!」
 突然、背後から大きな声がして、二つの人影が麗子とさとみの前に出てきた。朱音としのぶだ。直角にからだを曲げる。
「……会長、どうかしたんですか?」頭を上げたしのぶが心配そうに麗子に訊く。「会長、ふらふらですけど……?」
「無理して学校へ来たんですか?」朱音も心配そうだ。「最近、色々とあったって聞きましたので……」
「大丈夫よ」さとみが答える。「眠いだけだから……」
「寝ていないんですか?」しのぶの目がきらきらと光る。「心霊モード」に入ったようだ。「と言う事は、さゆり関連で何かあったって事ですか?」
「いえ、大した事じゃないわ」さとみは笑む。「そうそう、麗子もなんだけど、みんなしばらくは屋上には行かないで」
「どうしてよ?」麗子が文句を言う。「これからの季節、昼休みの屋上って良い気分よ」
「麗子先輩」朱音が言う。「会長がおっしゃるのは、屋上のさゆりの絡みからだと思います」
「そう、かねの言う通りです」しのぶはうなずく。「わたしたちが巻き込まれないようにって言う、会長のありがたいお言葉です」
「さとみ、そうなの……?」麗子の顔が青褪める。「そのさゆりって言うヤツ、わたしたちにも何かしてくるの?」
「それは分からないけど……」さとみは眠そうな声で答える。「もしもって事があるかもって思って……」
「そう…… 屋上に行かなきゃ、大丈夫よね?」
「ええ。多分、おそらく、きっと……」
「何よ、はっきりしてよう!」
「麗子先輩、それは難しいですよ」朱音が言う。朱音も「心霊モード」で目がきらきらしている。「浮遊霊だっていますからね」
「そうです」しのぶはじっと麗子を見つめる。「さゆりの部下が、そこいらを跋扈しているかもしれません……」
「わたし、用があるから先に行くわ」麗子が言う。「さとみは、二人で抱えて学校へ行ってちょうだい」
 そう言うと、麗子は朱音としのぶにさとみを渡し、すたすたと行ってしまった。朱音としのぶは両側からさとみを支える。
「麗子先輩、怖がりを隠さなくなったわね」しのぶが言う。「素直で良いと思う」
「わたしもそう思う」朱音が言う。「……じゃあ、会長、行きますよ」
 返事が無い。さとみは穏やかな寝息を立てていた。
「……おい、お前たち、何やってんだ?」
 声をかけてきたのはアイだった。ぐったりしているさとみを見て表情が険しくなる。
「会長! 大丈夫ですか! どこのヤツにやられたんですか!」アイは、さとみが何かされたと思ったようだ。「言って下さい! 絞めてきますから!」
「先輩、そうじゃないです」朱音が答える。「会長、寝ちゃったんです」
「昨日寝てないって言ってました」しのぶが付け足す。「色々と大変そうです」
「……そうか」
 アイは言うと、背を向けてしゃがんだ。
「わたしがおぶって行く」アイは背中で言う。「さあ、会長を背中に乗せろ」
 朱音としのぶはアイの言う通りにする。さとみを背負ってアイは立ち上がる。さとみが後ろに反り返らないように朱音としのぶが支える。さとみはすうすうと穏やかに寝息を立てている。
「ふふ、生身でも良い仲間を持っているねぇ……」
 アイたちの登校姿を見ながら珠子が言う。さとみを見守るために、祖母たちが付いていたのだ。楓も交じっていた。楓も穏やかな表情になっていた。


つづく

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