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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 38

2022年08月10日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「アイちゃん……」
 百合恵がアイに声をかける。声が苦しそうだ。アイが振り返ると、百合恵はまだ起き上れずにいた。
「姐さん……」アイは動こうとするが、麗子がしがみついていて、思うように動けない。「おい、麗子。手を放せよ。百合恵姐さんが呼んでんだ」
「イヤっ! 行かないでぇ……」麗子は泣き出す。すっかり怯え込んでしまっている。「アイがいなくなったら、わたし、どうして良いか分からない!」
「麗子……」
 麗子はアイを涙でぐちゃぐちゃになった顔で見上げた。
 と、アイは右手を高く上げたかと思うと、素早く振り下ろした。凄い音がした。麗子が左頬を押さえて床に倒れていた。アイが麗子の頬を張ったのだ。麗子の手が離れたアイは動けない百合恵の所へと向かった。
「……アイちゃん、良いの?」しゃがみ込んで自分を覗くアイに、百合恵が訊く。「麗子ちゃん、固まっちゃっているけど……?」
「良いんですよ」アイは事も無げに言う。「舎弟は姐さんが絶対なんですから」
「でも……」
「それが分からねぇ麗子じゃないです」アイは、頬を押さえて動かない麗子を見る。「……それより、何です? 会長は倒れたまま動かないですし、片岡さんも動かない……」
 強がってはいるものの、アイは不安な様だった。さゆりの放つ気がさゆりのすぐ前で留まっているのも、見ていて薄気味悪い(さとみが食い止めているが、それはアイには見えなかった)。
「その辺に筒が転がっているでしょう?」
「筒、ですか……?」
 アイが周囲を見回す。しかし、見つけられない。百合恵には場所が分かっているが、指し示そうにも、からだが動かなかった。
「……分かりません」アイが申し訳なさそうに言う。「もっと向こうですか?」
「そう、屋上フェンスの近く…… きらっと光ると思うけど……」
 アイは身を低くして目を凝らす。生憎、雲が濃くなってしまって、見分けがつかない。
「……とにかく、探してみます」
 アイは立ち上がってフェンスの方へと動いた。
 碌で無しの霊がアイの前に立った。にやにや笑った痩せた男の霊体だった。ふわりと浮き上がると両手をアイに向かって伸ばし、目を覆った。
「なんだ! 真っ暗になっちまった!」
 アイは立ち止まって叫ぶ。霊体の手が邪魔をしているようだ。霊体はさらににやにやと笑う。
「天誅!」
 鋭い語気と共に裂帛に気合が響いた。
 みつがアイの元に駈け寄り、碌で無しの霊を真っ二つに切り裂いたのだ。
 それをきっかけに、碌で無しの霊体が次々と現れ始めた。みつを取り囲む。更に現われた霊体が、再びアイの目を塞ごうとしていた。
「おのれ!」みつは刀を握り直す。「さゆりなどに忠義立てしたところで、さゆりの負けは確実! 無駄な事だぞ!」
「へへへ、そんなのはどうでも良いんだ」みつを取り囲む霊体の一人が笑う。「オレたちは楽しいからやってんだ。さゆりは関係がねぇんだよ」
「……屑どもめ……」みつは眉間に縦皺を寄せる。「ならば、掛かって来い! 皆きれいさっぱり消してやろう!」
 話しかけてきた霊体が、いきなり消えた。
「みつ様! ご加勢いたします!」  
 冨美代が薙刀を待って立っていた。
「あっしもいますぜ!」
 豆蔵が言うと石礫を放つ。
「わたしだっているのよ!」虎之助が強烈な蹴りを霊体に放った。「わたしね、暴れたくって仕方がないの!」
「そりゃあ、あっしも同じですぜ」豆蔵が言って、にやりとする。「嬢様の戦いを見ていると、もう居ても立ってもいられねぇ!」
「同感ですわ!」冨美代が薙刀を頭上で旋回させた。「このような輩は、わたくしどもで始末いたしましょう!」
「ならば、皆はアイ殿をお守りしてください!」みつが言う。「この者たちはわたしで十分!」
 みつたちは攻めに出た。 
 みつは次々に湧いて出て来る碌で無しどもを縦横に斬り捨てて行く。豆蔵、冨美代、虎之助たちはアイに覆いかぶさろうとする連中を倒して行く。
 アイは行く手を阻まれては進んだ。直感的に、何者かが行く手を切り開いてくれていると感じていた。フェンス傍まで来た。しゃがみ込んで筒を探す。アイは、一瞬見えたと思った筒がすぐに見えなくなった。霊体たちが先に見つけ、その上に倒れ込んで、アイに見えなくしていたのだ。冨美代の薙刀の先がその霊体の背を貫く。霊体は霧散する。
「あった!」
 幅一センチで長さ十センチ程の銀色に光る金属製の棒の表面が光った。アイが駈け寄る。豆蔵たちは筒を真ん中にして、表を霊体どもに向けて囲む。これで霊体どもは手が出せない。それでも跳びかかって来る霊体を石礫と薙刀と強力な突き蹴りとで薙ぎ払う。
 アイは筒を手にした。素早く百合恵の元へ駈け戻る。
「姐さん!」アイが百合恵に言う。「取って来ました!」
「……じゃあ、それの蓋を麗子ちゃんに開けてもらって」
「分かりました!」
 アイは麗子の元へと戻る。その間も、アイに襲い掛かろうとする霊体をみつたちが討ち取って行く。
「頼もしい事……」その様子を見ながら、百合恵はつぶやく。「あと少しね……」


つづく


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