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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 34

2022年08月06日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
 楓を包んだ光が薄れて行く。
「あはは! わたしから離れたヤツなんだから、消えて無くなれば良いのさ!」さゆりは嘲笑う。「いや、離れていなくても、気に入らなかったら、消しちゃうか、あははは!」
「楓……」さとみは悲しそうにつぶやく。「……あなた、良い人になったのね……」
 青白い光が消えた。朱音としのぶの前に立ちはだかった楓の姿は無かった。さとみは涙を流す。が、屋上の床に蠢くものがあった。さとみは目を凝らす。
「楓!」
 さとみが思わず叫ぶ。
 楓は消えたのではなく、床に倒れていたのだ。もぞもぞと動くと身を起こし、その場に座り込んだ。
 さゆりが不審そうな表情をする。それは、さとみも同じだ。楓が何か言っている。それを聞いてさゆりが物凄く不機嫌な顔をした。さとみは百合恵を見る。
「楓がね……」さとみの意図に気づいた百合恵が言う。「『何だい、思ったより効かないじゃないか。ユリアはこんなのにやられたのかい。軟弱な娘だったんだねぇ。怖がって損したよ』だって……」
「え?」さとみは混乱している。「どう言う事……?」
 珠子が、百合恵に何かを言っている。百合恵はうなずく。
「さとみちゃん、珠子さんが言ってるわ。『勾玉がさゆりの衝撃波を受けながら、それを弱めて行く力を発揮したんじゃないか』って」百合恵が言う。珠子がうなずく。「さゆりの力が弱まっているって事よ!」
 百合恵の最後の言葉に、みつは刀を抜き、冨美代は薙刀を構え、虎之助は腰を落とし、豆蔵は石礫を手に持ち、立ち上がった楓も手に長煙管を持つ。三人の祖母たちも並んで、じっとさゆりを見つめる。
「……何だよ! わたしが弱くなったって分かった途端に、攻めようってのかい? それも寄って集って! 卑怯じゃないかよう!」
 さゆりが叫ぶ。不利である事は分かっているようだ。珠子がさゆりに何か言っている。さとみは百合恵を見る。
「『お前の力が弱まったのは、一時のものかもしれない。だから、情けはかけないよ』だって」
「畜生……」 
 さゆりは、眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せ、唇を強く噛み締め、悔しそうなに言う。と、不意にさゆりの表情が変わった。いや、表情が無くなったのだ。無表情になった顔をさとみに向ける。
「綾部…… さとみ……」押し殺したような声がさゆりの口から洩れる。この声は、黒い影のものだった。「邪魔をするな……」
「あなたって、消えたんじゃなかったの?」さとみは驚く。「……どうして……?」
「さゆりも操られてたって事のようよ」百合恵が言う。「……って、珠子さんが言っているわ」
「でも、校長室で倒したはず……」
「あれは見せかけたんだって、珠子さんが」
「じゃあ、さゆりを倒しても、影が逃げ出したら……」
「また、どこの誰かを利用するんじゃないかしら……」
「それじゃ、終わらない……」
 さゆりの周りに邪悪な気がうねりを伴いながら集まり始めていた。黒い影が、弱まったさゆりの気を強めるために集めているのだ。その勢いに、みつたちも手が出せないでいる。
「……どうしよう……」さとみはつぶやく。「片岡さんも動けないままだし……」
 さとみは目を閉じ、ぺちぺちとおでこを叩き始めた。……さゆりの衝撃波はわたしが受ければ何とかなるけど、どんどん邪悪な気が集まっているから、いずれは勾玉の効き目が無くなるかもしれないわ。それに、みんなに向かって打ち出されたら、守りようが無いし。さとみは考え続ける。
「綾部さとみ!」不意に大きな声で名前を呼ばれ、さとみは目を開けた。その声は、影の声とさゆりの声とが重なったものだった。「邪魔をするなぁ!」
 さゆりの両手の平が、さとみに向けられた。
「気が満ち続けている」重なった声がさとみに言う。「いくらでもお前を打つ事が出来る。お前が倒れ、動かなくなるまで打ち続けてやる」
 さとみは困惑の表情でさゆりを見つめる。
 と、声が聞こえてきた。
「……ぶっせつまかはんにゃはらみたしんぎょうかんじーざいぼーさー……」
 さとみが声のする方を見た。しのぶだった。立ち上がって『般若心経』を諳んじていた。
 しのぶの声がゆっくりと広がって行く。すると、うねりを伴って集まる邪悪な気に変化が現われた。動きが遅くなってきたのだ。
「しのぶちゃん!」さとみはしのぶに振り返る。「良い感じ!」
 しのぶはうなずいて、『般若心経』を続ける。隣でしゃがみ込んでいた朱音も立ち上がった。しのぶと手をつないだ。
「ふーしょーふーめつふーくうふーじょうふーぞーふーげんぜーこーくーちゅう……」
 朱音がしのぶの『般若心経』に重ねてきた。しのぶと朱音の諳んじる『般若心経』が、屋上に広がって行く。朱音は練習をしたのだろう。目を閉じ、一生懸命に諳んじている。
 二人の若い娘たちの経は、邪悪なうねりをさらに弱めて行った。邪悪な気は、次第に霊体の姿へと変わって行った。碌で無しどもの霊体自体が邪悪な気となってさゆりに注ぎ込まれていたのだ。その動きが緩慢になって来ている。
 しばらくすると、空間に金色の裂け目が生じた。それを見た霊体たちは、穏やかな顔付きになって、その裂け目へと入って行く。さゆりへ入ろうとした者たちも向きを変え、裂け目へと向かう。
「……じゃあ、後は……」
 さとみは麗子を見た。麗子はアイにしがみついたまま、目を閉じて、震えている。


つづく

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