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ジェシル 危機一発! 52

2020年01月12日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 激痛に苦しむジェシルに笑顔を見せているオムルは胸倉をつかんでいる右手を縮めた。ぐったりしているジェシルは目の前となったオムルに顔を上げることも出来ない。
「ははは、さすがのジェシルもぼろぼろだな……」
 オムルは再び腕を伸ばし、ジェシルを天井近くまで持ち上げた。ジェシルは為すがままだった。だがメルカトリーム熱線銃を手放さない。
「さすが、優秀な捜査官だな……」オムルは笑う。「その銃で自分自身を撃ち抜いても良いんだぜ」
「……ふざけないでよ……」ジェシルが顔を上げた。その目は怒りに燃えてる。「あなたは現役のクェーガーまで巻き込んだ、屑野郎じゃない! そんなヤツの言うままになんか、するわけないわ!」
「何とでも言えよ」オムルはジェシルを睨みつける。「クェーガーか…… あいつは爆弾に熱心でな。この資料室へ来て爆弾の製造法やら過去の爆弾絡みの事件を検索していたな」
「それは一歩間違えば危険じゃない?」
「最初に来た時から、危険そうなヤツだったよ。だからヤツの閲覧履歴は削除してやった。ヤツは爆弾の知識は半端なくてな。それを誉めてやったら嬉しそうだったぜ。爆弾処理班でも目立たない存在だったらしくて、愚痴を言っていた。オレはこれは取り込めると確信して、法で裁けない悪人を倒す手伝いをしないかと持ちかけた。ヤツはすぐに乗ってきた」
「どうして……」
「言っただろう? 誰もがお前のような活躍は出来ないんだよ。でもな、本当は正義のために活躍したいんだ。その機会に恵まれず、辛い思いをしている連中は結構いるんだぜ。そんなヤツはプライドをくすぐってやれば、簡単になびくものさ」
「その言い方じゃ、他にも屑仲間が居そうね」
「屑仲間、か……」オムルの左拳がジェシルの腹を捉えた。ジェシルの表情が歪む。「調子に乗った言い方をするなよ、ジェシル。お前はそんな屑に命を奪われるのさ。表向きは正義のため、裏の真実は組織の殺し屋稼業の、屑野郎にな……」
「クェーガーを殺したのは、何故?」
「あいつは失敗ばかりでな」オムルは苦々しげな表情になる。「お前の乗ったロボ・タクシー、気体毒の小型爆弾、カルースの車の襲撃…… 全部失敗だった。そこで、クェーガーには殺しはできないと判断した。それに、パトロールもクェーガーを探し始めていた。モーリー同様、捕まりでもしたらオレの事を話すだろうと思った。だったら、処分するしかないだろう?」
「一番の屑野郎は、オムル、あなたね!」
 オムルの右手が伸びた。胸倉をつかまれたままのジェシルは天井に背中を激しくぶつけた。鈍い音がした。ジェシルは歯を食いしばった。オムルはそれを幾度か繰り返す。  
「ジェシル! お前が今置かれている立場を知ることだな。そんなにオレを怒らせると、寿命が縮むぞ」
「ふん! もう良いわ! さっさと殺しなさいよ!」
「可愛い顔しているくせに、性格は可愛くは無いんだな。悲鳴一つ上げないとはな……」
「あなたに聞かせる悲鳴はないわ!」
「ははは……」オムルは笑いながら、再びジェシルに背中を天井に叩きつけた。そして、左拳を伸ばしてジェシルの腹に食い込ませる。「カルースの車に乗り込む際に爆発があったろう? あれは何故だと思う?」
 ジェシルは答える代りに、オムルを睨みつけた。
「まだ、そんな目をしてやがる。命乞いでもすれば可愛いものを……」オムルは呆れたように言う。「……まあ、良いさ。あれはな、お前にやったペンダントだ。雲隠れするって言った時にやったペンダントだよ。あれは発信器になっていたのさ。お前はオレに同情的だったから、きっと持ち歩くと思ったのさ。しかし、雲隠れした途端に発信器の電波が届かなくなった。どこに行っちまったのか、気になってたよ」
「……未開の辺境惑星の地球に行っていたのよ……」
「まあどこでも良いさ。どこに行ったか分からなきゃ、分かる所に呼び出せば良いだけの事だ。そこで、クェーガーに命じて、お前の屋敷を吹っ飛ばした。きっと戻って来ると踏んでな。お前はのこのこと戻って来た。発信器が作動を始めた。律儀に持ち歩いてくれていて、助かったよ」
「……もう誰からも何も貰わないことにするわ」
「それが良いだろうな」オムルはうなずいてみせた。「後は簡単だった。発信される電波を追うだけだ。オレはクェーガーを呼んだ。オレにかかれば、指名手配のクェーガーを正面ゲートから入れる事は簡単な事だ。電波を追うと、思った通りパトロールに来たことが分かった。さらに追うと、駐車場に行くのが分かった。クェーガーに駐車場で待機させ、無線で指示を与えた。カルースの車に乗ると踏んで、オレはクェーガーに爆弾を仕掛けさせた。手動で爆発させたんだが、カルースはぴんぴんしているし、お前も軽い怪我で済んだ。クェーガーのヤツ、またしくじりやがった……」
「それは違うわ。カルースがわたしをかばってくれたのよ」
「だがカルースは無傷だったぞ」
「治りが早いんだそうよ。『不気味なカルース』とかなんとか自分で言ってたわ」
「そうなのかい。まあ、良いさ。どうせ、クェーガーを始末するつもりだったからな。……それにしても、お前は悪運の強いヤツだな」
「言ったでしょ、わたしは幸運なのよ」
「じゃあ、その幸運を使って、どうだ、お前も殺し屋にならないか?」
「あなた、屑の上に馬鹿なのね。わたしが、うんと言うと思う?」
「言わないだろうな……」
 オムルの左の拳が今までよりも強くジェシルの腹に食い込んだ。大きくうめきながらも、ジェシルは渾身の力を振り絞り、右手に持っているメルカトリーム熱線銃をオムルに向けた。
「撃っても効かないぜ」オムルが笑う。「それでも撃つのか?」
 ジェシルは引き金を引いた。しかし、撃つ瞬間に力が抜けたのか、熱線は大きく逸れてオムルの背後の壁に当たった。ジェシルはそのまま気を失ったように頭を垂れ、動かなくなった。銃がジェシルの右手から落ち、床に転がった。
「ははは、哀れなジェシルか…… もう良いだろう、モーリーやクェーガーのように、首を千切れるくらい締めてやるぜ……」
 オムルの左手が伸び、ジェシルの細い首を鷲掴みにした。


つづく

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