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ジェシル 危機一発! 54 FINAL

2020年01月14日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
「……なるほど、オムルがな……」
 ビョンドル統括管理官は言うと、大きな溜め息をついた。ビョンドル統括管理官のオフィスでデスクを挟んでトールメン部長が立っていた。
「オムルが言うには、現場の捜査官たちの待遇を向上させないと、自分のような者はいなくならないと言っています」トールメン部長は抑揚のない声で言う。「ですが、悪いヤツはどんな事をしてやっても変わるとは思いませんが」
「そうかも知れない……」ビョンドル統括管理官は立ち上がった。「オムルの供述で、上層部で組織と癒着している者たちは一掃できたが、予備軍がいないとまでは言い切れないな」
「次期宇宙パトロールの最高司令官とお成りになるのですから、そこは監視を強める方向で行くと宜しいのではないでしょうか」
 トールメン部長の言葉にビョンドル統括管理官はうなずく。
「そうだな…… まあ、今回の件で資料室は閉鎖にした。メインコンピューターもオムルが操作していた部分は修正し復帰させた」
「そうですか」
「より深く調べたい時には、上司に申請を出し、それを稟議にかけて許可を出す形にした。閲覧はこの階の会議室で行ない、武装警備員二名の立ち合いで行なわれる」
「そうですか。ですが、それでは実際には閲覧者が出ないことになりませんか? 稟議が通らなければ閲覧できないわけですから」
「それが狙いだよ」ビョンドル統括管理官は言った。「資料室があった時でも、ほぼ誰も行かなかっただろう? 実際には何も困ることはないだろう」
「ジェシルを忘れています」
「ジェシルか……」ビョンドル統括管理官は眉をひそめた。「ジェシルなら、稟議など無視してやって来そうだな……」
「あるいは、親戚筋を使うとか……」
「無いとは言えん。今回の件でも親戚筋の大物たちが騒ぎだそうとしたのを抑え込んだのはジェシルだった。あの様子から察するに、親戚筋をどうにでも扱う事が出来そうだな」
「それに、何故か親戚筋の者たちはジェシルを怖れているようですし」
「そうなのだ。全くもって、ジェシルは厄介者だな……」
「いいえ、ジェシルは優秀な宇宙パトロールの捜査官です」
 ビョンドル統括管理官はじろりとトールメン部長を睨んだ。トールメン部長は無表情で見返している。
「……まあ、良いだろう……」ビョンドル統括管理官は溜め息をついた。「それで、ジェシルはどうしているのだ?」
「先程、オムルから組織名を聞き出して、それから出て行きました。途中で武器庫に寄ったそうですが、どこへ行ったのかは知りません」
「……そうか……」ビョンドル統括管理官はまた大きな溜め息をついた。「明日を思うと、頭が痛いな……」


 ジェシルは宇宙パトロールの正面口から出てきた。通行人がさっとジェシルの周りから離れた。
 制服姿のジェシルは大型カートに、何丁ものハイパーライフルやレーザーバズーカやロケットランチャー、無数のロケット弾と手榴弾、ドクター・ジェレミウスがジェシルのために作った得体のしれない武器の類を積み込んでいたからだ。そのカートを引きながらジェシルは怒りの形相で歩いている。
 不意にジェシルの背後でクラクションが鳴った。ジェシルは怒りの顔のままで振り返る。毒々しいまでに真っ赤に塗られたロボ・タクシーが一台停まっていて、ドアを開けている。ジェシルは不機嫌な顔のままロボ・タクシーに近付いた。
「何よ! 頼んでなんかいないわ!」
「姐さん、忘れたのかい? おいらだよ」ロボ・タクシーが言った。「ほら、姐さんの家のあるノースデン地区で、一緒に爆弾を食らった……」
「……ああ、あの時の!」ジェシルの機嫌が一瞬で直った。「あなた、直ったのね!」
「まあね。おいらのメモリーは壊れていなかったから、車体だけ変えたのさ」
「良かったじゃない」
「また姐さんに会えないかって思ってさ。……ほら、姐さんがおいらに聞いただろう?」
「何か聞いたかしら?」
「覚えてないのかよ…… 姐さんはこう言ったんだ。『あなたのガレージが百台も停まれるようなスペースを持ってたら、嬉しいかしら?』ってさ」
「そうそう! セレブの仲間入りなんて言うからよ」
「それで考えたんだよ。おいらの答えはこうだ。ガレージはおいらともう一台分があればいいさ」
「どう言う事?」
「ははは、彼氏無しの姐さんには思いもつかないだろうな」
「まあ、失礼ね!」
「……そんな事より、姐さん、そんな荷物持ってどこへ行くんだい?」
「ちょっと意趣返しって所かな」
「おいらたちを吹っ飛ばしたヤツにかい?」
「そう言う事になるかな」
「じゃあ、手伝うぜ! 乗ってくれよ!」
「でも、武器乗せられる?」
「大丈夫だよ、見ててくれ」
 ロボ・タクシーの後部トランクのカバーが開き、中からフック付きのアームが伸び出した。ジェシルのカートを持ち上げるとトランクに収納し、カバーを閉じた。
「凄いじゃない!」
「大したこっちゃないさ! さあ、行先を言ってくれよ」
「まずはロンムル街のデュークスの所よ」
「まずはって……」
「そうよ、今日中に六つの組織の屑どもを潰すのよ!  ギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてあげるわ!」
「そりゃあ、いいや!」
 ジェシルを乗せたロボ・タクシーは法定速度を遥かに超えて走り出した。


おしまい


作者註:アメリカの犯罪ドラマ風な展開(筋の運びとか、会話のやり取りとか)を意識したのですが、まだまだ消化不良な感じですね。突っ込みどころも結構あるようでも恥ずかしい限りです。ジェシルの話はまだいくつか考えてはいます。そのうちご披露することもあろうかと思います。


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