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ジェシル 危機一発! ㊼

2020年01月05日 | ジェシル 危機一発!(全54話完結)
 そそくさと部屋を出て行くタルメリック叔父の後ろ姿を冷ややかに見つめるジェシルだった。扉が閉まり、完全に叔父の姿が見えなくなると、ビョンドル統括管理官は大きな溜め息をつきながら椅子に座り込んだ。
「タルメリック評議員が突然やってきて、直系のジェシルになんて事をしてくれたと相当に御立腹でな……」ビョンドル統括管理官は扉を見つめながら言う。戻って来るのではと心配しているようだ。「いくら怪我は大したことがないと言っても聞かず、午後に退院して仕事に戻っていると言うと、すぐに呼べと大騒ぎでな」
「そうだったんですか……」ジェシルはビョンドル統括管理官を見ながら答える。「結局は、なんだかんだ言って、保身なんです。わたしの一族って、貴族の精神を忘れた腰抜けどもばっかりだわ!」
「ジェシル、自分の一族を、そう悪く言うものでは無いぞ」
「わたしだって言いたくはありませんが、ああ露骨だと腹も立ちます」ジェシルはむっとした顔になる。「特に、自分の権力や権威を振りかざすヤツは、身内だろうが上司だろうが許せません!」
「……ところで」ビョンドル統括管理官はジェシルを見ながら、話題を変えた。「君の報告によると、病室で襲われたとのことだが……」
「そうです。モーリーもクェーガーも死んだとなれば、次はニンジャ野郎が襲ってくると思っていました」
「病室で襲われると思っていたのかね?」
「看護士に頼んで睡眠薬を持って来てもらいました。激務の宇宙パトロール捜査官だからと気を利かせて効き目の強いものを持って来てくれました」
「服用したのかね?」
「しません。した振りをしました。パトロール内でのわたしの動向が察知されているのですから、病院も同じと考えました」
「では、罠を張ったと言う事か?」
「そうです。パトロールの駐車場でも襲ってきたヤツらですから、病院でも襲ってくると思ったんです。しかも強めの睡眠薬を服用したことにしていましたし」
「そうか……」ビョンドル統括管理官は背凭れを軋らせた。「襲った者をサイボーグだと、君は言っているが?」
「黒の防御マスクで顔は見えませんでしたが、呼吸音がしていましたので、アンドロイドではありません。それに、メルカトリーム熱線銃を撃った際に機械片が剥がれ落ちましたから」
「分析ができなかったと聞いているが……」
「至近距離過ぎたんです」ジェシルは嘘を言った。「そんな事より、窓をぶち破った時には驚きました」
「病室は二十三階だったな」
「そうです。わたしは襲撃に失敗したニンジャ野郎が身元を知られなくするために自らを葬るのかと思いました。しかし、地上に降り立ってわたしをじっと見上げ、そのまま夜の闇にまぎれてしまいました」
「そうか。では、また襲われる可能性があるな」
「そうですね。あの時は防御マスクを着けていましたが、素顔で来られたら、分からないですね」
「それで、これからどうするつもりだ?」
「とりあえず、資料室でサイボーグたちやサイボーグ手術医たちを調べてみます。ニンジャ野郎は未登録だとは思いますが、関連のあるサイボーグや医者が見つかるかもしれません」
「闇医者もいるそうだな」
「そうですね、そっちは情報屋に当たってみます」
「ではそうしてもらいたい」ビョンドル統括管理官は言うと、安堵したように深く息を吐いた。「手間を取らせてしまったな、ジェシル」
「良いんです。特にタルメリック叔父は一族の繁栄しか念頭にないような人物です。あんな人は失脚すれば良いんです!」
「そうは言うが、タルメリック評議員は立派な方だと思うがな」
「外面が良いだけです」
「……まあ、良い。とにかくこの場が収まって良かったよ」
「そうですか、それは良かったです」ジェシルは立ち去りかけて、足を止めた。「……統括管理官、お願いがあります」
「なんだね?」
「トールメン部長にも言ったんですけど、資料室に行かなきゃ重要事項が調べられないって言うシステムを何とかしていただけませんか?」
「どう言う事だ?」
「とっても不便なんです。命も狙われましたし。なによりも、オムルが辛そうで……」
「そうか…… だがな、一度決められている事を変えるのは、思っているより面倒なのだよ」
「でも、変えた方が円滑になると思いますけど……」
「では、次の幹部会議で議題として提出してみよう。決定しなければならないことが色々あるから、重要度は低くなるとは思がな」
「じゃあ、議題にならないかもしれないって事ですか?」
「だがな、それが決まると、オムルには辞めてもらわなければならない」
「管理なら、他の部署のだってできるんじゃないですか?」
「そんな部署は存在しない。元々、オムルの業務は無くても良いものだ。オムル自身もそれが分かっているはずだ」
「……分かりました。提案は取り下げます」
 ジェシルは言って、ビョンドル統括管理官の部屋を出た。
「……どうしたんだい? さっきは評議員がむっとした顔をして出て行ったけど、今度は君か」
 扉前に立っていた警備員は、むっとした顔で出てきたジェシルに話しかけた。
「効率化を図ると、犠牲が出るのよね」
「そうかもしれないな……」警備員はジェシルに銃を返しながらうなずいた。「オレたち警備員も、武装品のグレードが上がるたびに人員は削減されていった。近い内に全てが機械化されて警備員自体が不要になるかもな」
「捜査官もそうなるかもね」
「そうなったら、機械を操作できるヤツらの天下だな……」
「いいえ」ジェシルはにやりと笑った。「そうなったら、そいつらをギッタンギッタンにグッチャングッチャンにしてやるわ」


つづく

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