お話

日々思いついた「お話」を思いついたまま書く

コーイチ物語 「秘密のノート」 91

2022年09月19日 | コーイチ物語 1 11) パーティ会場にて 岡島受難  
「西川課長、改めまして、昇進おめでとうございます!」
 岡島が、これ見よがしに言った。それからコーイチの方を見た。やれやれ点数稼いで出世街道驀進か、コーイチは苦笑した。
「コーイチ、ちゃんと食べてるか!」
 西川はコーイチの肩をパンパンと叩いた。岡島はコーイチを睨んだ。睨まれてもなぁ……
「林谷さん、司会、ご苦労様!」
 岡島は林谷に親しげに声をかけた。自分にメリットのある人には、親友的付き合いを示すのが岡島のスタイルだものな。
「コーイチ君、幼なじみの京子ちゃんはどこへ行ったのかな?」
 林谷はきょろきょろしながら言い、それからコーイチの肩をパンパンと叩いた。岡島はまたコーイチを睨んだ。睨まれてもなぁ……
「まあ、コーイチ君、彼女がいたの! 私の予言が当たったじゃないの! もっと早く言ってくれなくちゃ!」
 清水も目を輝かせながらコーイチの肩をパンパンと叩いた。岡島がコーイチを睨む。睨まれてもなぁ……
「今、『アイアイ』、いや、印旛沼さんのお嬢さんと、グラビア撮影を行っています!」
 直立不動のまま名護瀬が清水に言った。
「あら、ありがとう。あなた、なかなか忠実な下僕になれそうね、うふふふふ」
 清水は目が笑っていない笑顔で言った。
「清水さん、こちらは?」
 林谷が名護瀬に会釈しながら言った。
「あ、オレ、いや、ワタクシ、名護瀬って言って、いや、申しまして、本日は西川課長の昇進の宴会、いや、パーティーに呼んでくれて、いや、お招きいただいて、すっげえ、いや、まことにありがとうゴザイマス」
 一気に喋り切った名護瀬は肩を上下させてはあはあと荒い息を繰り返した。
「それは、ありがとうございます」
 西川が頭を下げた。あわてた名護瀬は西川よりも頭を深く下げた。持っていたワインボトルも傾いたが、すでに飲み干していたらしく、こぼれなかった。
「西川課長!」
 岡島が大きな声で割って入って来た。西川だけでなく、林谷も清水も名護瀬もコーイチも一斉に岡島の方に顔を向けた。そして、岡島の次の言葉を待った。
「いえ、そう、特に何を言うわけでは…… ないです……」
 岡島の喋る語尾が次第に弱くなっていった。……また、考えなしに目立とうとしたんだろう。もう少し考えをまとめてから喋ればいいのになぁ、コーイチは思った。
「そうだ、岡島ちゃん、あんな風に勝手にステージに上がってはいけないぞ。こっちはこっちで段取りを考えているんだから。まさか、段取りがキライってわけじゃないよねぇ」
 林谷が言った。これで林谷さん「敵認定」されちゃうかもな。コーイチはむすっとした顔の岡島を見て思った。
「岡島よ、あれはリハーサルだよな。まさか、あれが本番なわけないよな」
 西川が真剣な顔で言った。何事もきっちりを好む西川課長には、あれはキツかったかもな、コーイチはさらにむすっとした岡島を見て思った。
「課長、あれは即興です。自分のその場その場での思いを素直に表現したものです」
 岡島は言った。負けを認める事や恥ずかしかったりする事をイヤがる岡島は、あれこれと手を使い、自分を正当化してみせようとする。また始まったかな、コーイチは溜息をついた。
「即興だって? あれが? お前、本気で言ってるのか?」西川が驚いた顔で言う。「自分中心ではなく、もっと場の雰囲気を考慮しろよ。そうじゃないと、誰も付いて来なくなるぞ」
 岡島が口を開きかけたが、すかさず名護瀬が口を挟んだ。
「こんなヤツにもファンがいるらしいですぜ」
 そう言って、名護瀬は川村静世とその友人たちの一団を指差した。彼女たちは、他の人たちから少し離れた場所に固まっていて、絶えず岡島の方をちらちらと見ていた。
「ふ~ん、なんとなく周りから浮いているようだなぁ。……お前のファンって、ちょっと特殊かもな」
 西川がずばりと言った。林谷もうなずいている。
「イヤイヤイヤ、ボクのような職人的気質のタイプには、普通の人には付いて来れないんですよ」
「と言うよりも、普通の人は付いて行かないんじゃないのか?」
 西川はニヤニヤ笑いながら言って、岡島の肩をパンパンと叩いた。
「は、はぁ……」
 岡島も苦笑いを返すしかなかった。

       つづく

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーイチ物語 「秘密のノー... | トップ | コーイチ物語 「秘密のノー... »

コメントを投稿

コーイチ物語 1 11) パーティ会場にて 岡島受難  」カテゴリの最新記事