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霊感少女 さとみ 2  学校七不思議の怪  第八章 さとみVSさゆり 最後の怪 39

2022年08月11日 | 霊感少女 さとみ 2 第八章 さとみVSさゆり 最後の怪
「麗子!」
 アイは麗子の元に戻ると、手にした筒を差し出した。麗子は左頬を押さえたまま動かない。目だけが、筒を見ている。
「分かるだろう? この筒の蓋を開けるんだ」アイは言う。「そうすりゃ、この筒にさゆりが吸い込まれておしまいだぜ!」
 麗子は筒を見たまま返事をせず、手も動かさない。
「おい! 麗子!」アイが麗子も右首を握る、無理矢理引っ張る。「受け取って、蓋を開けるんだ!」
 しかし、麗子は右手に力を入れてアイが引っ張るのに抵抗している。
「どうしたんだよ?」アイは怪訝な表情だ。「蓋を取ってさゆりに向けるだけだぜ? ……お前、さゆりが見えないのか?」
 麗子は無言で首を左右に振る。と言う事は、見えていると言う事だ。
「じゃあ、受け取れよ。なんだかヤバそうだから、とっとと済ましちまおう!」
 麗子は無言で首を左右に振る。右手にさらに力がこもる。
「おい、何をガキんちょみたいな事やってんだ」アイが険しい表情になって行く。「手を出せよ!」
「イヤっ!」麗子は叫ぶ。「もう、イヤ! もうイヤなのよう!」
 麗子は泣き出した。麗子はすっかり萎縮してしまったようだ。
「麗子……」
 アイは困惑しながらも、泣いている麗子を抱きしめ、その頭を優しく撫でた。麗子はその胸に頭を預け、さらに泣き出した。
 百合恵はさとみを見る。
 さゆりの気の放出を抑え込もうと耐えている。三人の祖母たちがそわそわし始めている。……さとみちゃん、そろそろ限界なのかしら。百合恵は不安になる。
 みつたちは次々と湧いて出て来る碌で無しどもにかかりきりになっている。
 朱音としのぶは目を閉じ、涙を流しながらも『般若心経』を唱え続けている。
 松原先生も片岡を抱えたまま身動きが取れない。碌で無しどもの一部がこの二人に向かっている。みつたちも気がついているが手が回らないようだ。
 三人の祖母たちもさとみを助けようとしているので、こちらに気がついていない。百合恵は呼び掛けようとしたが、思うような声が出せない。……やっぱり、ここは麗子ちゃんに頑張ってもらうしかなさそうね、でも…… 百合恵はため息をつく。
「麗子」アイが静かな声で言う。麗子の泣き声が鎮まって行く。「……少し落ち着いたようだな」
 麗子は返事をしない。アイにしがみついたままだ。
「分かった。蓋はわたしが開けてみる。お前はそこにそうしていると良い」
 アイは言うと、筒を左手に持ち替えた。右手で蓋の部分をつかむ。
「お前がそうやっていると、力が伝わりそうだ」アイはしがみついている麗子に笑いかける。「きっと、蓋は取れるさ」
 アイは言うと、つかんだ右手で蓋を引っ張った。蓋は動かない。次第に力が入り、手が震えはじめる。それでも動かない。
「麗子、もっと強くしがみつけ!」
 アイが言う。麗子は言われるままに強くしがみつく。だが、蓋はびくともしなかった。
「……ダメだ」アイは右手を放し、左手で筒を握りしめ、深いため息をつく。「やっぱり、これは、麗子じゃなきゃ、開かないぞ……」
 麗子はアイにしがみついたまま、顔を上げようとしない。
「……麗子」アイが穏やかな声で言う。「お前じゃなきゃダメだ。わたしじゃダメなんだ……」
 麗子は首を左右に振る。
「麗子……」アイは麗子の頭を撫でる。「分かった、もう良いよ。このままで…… みんな、このままで一緒にやられちまおう」
 麗子は黙ったままだ。アイは麗子の頭を撫で続ける。
「でもなぁ、そうなるとなぁ……」アイの手が止まる。「来週の二人っきりの旅行も出来なくなるな……」
 麗子は首を左右に振る。
「仕方ねぇだろう。ここでみんなやられちまうんだから」
「……ダメよ!」
 麗子は語気強く言うと、顔を上げた。涙の跡のある顔だったが、目付きは厳しい。
「二人で計画を立てたんじゃない! それを無しになんて出来ないわ!」
「だからさ、ここでやられちまうんだから、無理だって」
「やられなきゃ、良いんでしょ?」
「そうだけどさ……」アイは戸惑ってしまった。「さゆりをどうにかしないと無理なんだ。でも、お前はイヤがっているし……」
「背に腹は代えられないわ!」麗子はきっぱりと言う。「その筒を貸してよ!」
「いや、でも……」
「なによう! いつもはてきぱきと決めるくせにぃ!」
 麗子は言うと、アイの手から筒をもぎ取った。
「これの蓋を取って、あのさゆりに向ければ良いのね!」
「そうなんだけどさ……」
「何よ、その態度」麗子はアイを睨む。「まるで、ここで終わりにした方が良いって顔よ! わたしと旅行に行きたくないって顔よ!」
「そんな事はねぇよ……」
「じゃ、もっと嬉しそうにしなさいよ! 楽しみにしてるって言っていたじゃないのよう!」
「ああ、楽しみさ」アイはうなずくと優しく笑む。「じゃあよ、とっとと終わらせようぜ」
「ええ」
 麗子は振り返り、さゆりを見る。その顔はもう「弱虫麗子」ではなかった。麗子は左手で筒を持ち、右手で蓋をつかんだ。右手をゆっくりと動かす。それに連れて蓋が抜けて行く。
 蓋はするっと外れた。
 麗子は筒をさゆりに向ける。
「朱音! しのぶ!」アイが叫ぶ。「『般若心経』をもっと景気よく唱えるんだ!」
 朱音としのぶは一段と声を張り上げて『般若心経』を唱え始めた。


つづく

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