『ボクには世界がこう見えていた 総合失調症闘病記』
(小林和彦 新潮文庫)
面白かった。
わたしより丁度10歳年上の男性の話。
たまたま本屋さんで手に取って、ぱっと開いたところに
「時々脳圧が亢進(こうしん)して聴覚が異常に鋭くなる発作に襲われる」
という文章があり、あっと思い、
総合失調症については興味も知識もないけれど読んでみることにした。
「脳圧が亢進」の意味は知らなかったのだが、
わたしも時々、聴覚が異常に鋭くなる、というか
周りのほんの些細な物音までもが異様に大きく聞こえる時がある。
どういう原因でそういう状態になるのか分からないが、
小さい頃からなので、そうなっても「あ、またか」と思うだけで
別になんの心配もなく、じっとしていれば数分で通常の状態に戻る。
自分でちょっと声を出したり、ヘッドフォンで音楽を聴いたりすると
戻るのはもっと早い。
ネットでちょっと検索してみたら、よくあることみたいで
若い時のほうが多くて、歳を取ってくるとその症状は出なくなることが多いみたい。
確かに考えてみたら、この症状はここ数年は全くないかも。
そんな症状が時々あったこと自体すっかり忘れていた。
さて、総合失調症がどういう病気か、
この1冊を読んだだけではとても理解できたとは言えないが、
所々大変興味をひかれる個所があり、
附箋をつけながらすぐ読み終えた。
躁鬱、多幸感、一転して絶望、ここまで激しくなくても
誰でもある精神の状態が、この病気になると、
通常なら働くはずの脳のストッパーが上手く機能しなくなってしまって、
自動的に取捨選択されるはずの外からの情報がドバッと直接頭の中に入ってきて
アウトプットも今の世間の物差しに適応するような形で出来なくなってしまう。
そんな感じ?全然違うかな?
何にしろ、色々考えさせられた。
また後で読み返そう。
『戦争を取材する 子どもたちは何を体験したのか』(山本美香 著 講談社)
を読んだ。
良書。
小学生向けの本で、わかりやすく書かれており、
写真や地図も沢山載っていて、短時間で読める。
でも、内容は非常に濃くて大切なことだ。
山本美香さんは、今年8月シリアで亡くなったジャーナリストだ。
あの報道直後、彼女について沢山ニュースを見たが、
映像の中の彼女は、とても聡明で芯の強そうなイメージだった。
でも、女性なのに、なんで戦地で取材する危険な大変な仕事を選んだのか。
ある報道の中で、彼女の本が紹介されていたので、
ぜひ読みたいと思い、アマゾンで検索したら、
同じ考えの人間が多いのか、入荷待ち、
近くの本屋さんにも無く、とりあえず図書館で予約。
そして今頃やっと順番が回ってきて読んだのだが、
ほんとに良書。
これは自分で買っても良かったなあ、と思った。
戦争ジャーナリストという仕事、
なぜ戦争になるのか、
戦争を終わらせるには…。
彼女が取材した戦地に生きる子どもたちの生活は、
日本の日常からは考えられないほど過酷である。
彼女は時に無力さを感じながら、
でも、自分が目撃したことを世界に知らせることに意味はある、
戦争で苦しむ人々の姿を世界に伝えることで、
どうしたら彼らを救えるのか、と考えるきっかけとなって
それが平和へとつながっていくはずだ、
と信じていた。
そうだよね~、
こういう仕事って、お金や名誉のためでは
絶対できないことだ。
文章に、
どうしても伝えたいことがあるから書く、というのと、
文章技法の上手さで薄い内容を膨らませて文字数を稼いでいるな、
というのがあるとすれば、
この本はもう間違いなく前者だ。
こういうものが書けるようにならなければ…
(戦争ジャーナリスト的な文章が書きたい、というのではなく)。
わたしの文章って、単なるブログだけど
薄っぺらくて身が詰まってない感じ。
山本美香さんのは、言葉使いは平易なのに、
中身がギッシリ詰まっている感じ。
亡くなられたのは本当に惜しいことだ。
この人のほかの本も読んでみたい。
<『悪魔が殺せとささやいた―渦巻く憎悪、非業の14事件』
新潮45編集部 新潮文庫>
これも実際にあった殺人事件ばかり。
ドラマ仕立てで読みやすい。
親とか交際相手を、感情のもつれから殺すのは
まだ何か理解できる。
だけど、まったくの他人、運悪くそこを通りかかっただけの人を
すごく残酷な方法で殺した事件もあって、
そういうのは全く理解できない。
そういう事件の犯人は、生い立ちどうこうというよりも、
もう、生来的に心が壊れているとしか思えない。
そして、そういう犯人は事件後も反省してなかったり、
そもそも責任能力の問題になったり。
怖いなあ。
こういう人とうっかりすれ違わないようにしなきゃ。
でも、どうやって?
<『トーキョー無職日記』 トリバタケ ハルノブ 飛鳥新社>
大学中退、とりあえず東京行けばなんとかなるでしょ、と上京して一人暮らし、
でも、なんとかならずに無職、つのる焦り、とりあえずバイト…で
20代の青年が少しずつ自分のやりたいことを明確にしながら
仕事を定めていく話。
4コママンガで読みやすい。
誰でもこういう時期あるよなあ、分かるよ、と共感。
<『その時、殺しの手が動く―引き寄せた災、必然の9事件』
「新潮45編集部」新潮文庫>
実際にあった9つの殺人事件。
読者の興味を引くようにドラマっぽく書かれていて読みやすい。
でも、内容は凄惨。
どうして人は人を殺すのか?
憎しみ、怒り、金目当て…。
でも、そういう感情と実際の殺人の間には、
普通はやっぱり相当高いハードルがあると思うのだが。
なぜそれを飛び越えてしまうのかな。
わからないなあ。
わからないというのは幸せなことなのだろうが…。
<『台湾人生』 酒井充子 文藝春秋>
日本統治時代に、台湾で日本式教育を受けた人々へのインタビュー。
すべて日本語。
インタビューに答えているのは、
戦争に人生を翻弄されたとしか言いようのない人びと。
それでも、彼らは、その到底言い尽くせない理不尽さを乗り越えて、
頑張って真面目に働いて生きてきた。
そして、日本に対する親近感と恨み。
親近感といっても、彼らは、日本の統治が良かった、とは言っていない。
敗戦で日本人が台湾から引き揚げた後に来た中国軍よりは
マシだった、と言っているだけ。
なんというか、読んでいると気の毒で気の毒で、
日本人としては申し訳なくて、
涙が出てしまった。
そりゃそうだよねー。
何人も自国を他国人に支配されて許せるはずがない。
本当に、戦争というのは愚かで恐ろしい。
平和のありがたさをシミジミ感じました。
<『逮捕されるまで 空白の2年7ヶ月の記録』
市橋達也 著 幻冬舎>
図書館で借りた本。
なぜこの本に興味があったかというと、
この本が発売された当時(2011年1月)、
ワイドショーで取り上げられていたのだが、
作者本人が描いたという挿絵もいくつか画面に映されて、
それがすごく上手で、
「殺人犯なのにこんなに絵が上手いなんて…」
と印象的だったため。
あと、逃亡中に英語の辞書を持っていた、というのもニュースで聞いたので、
逃げながら勉強を続けていたのか…とちょっと哀れさも覚えたため。
でも、自分で買って読みたいほどでもないな~、と思い、
それきりになっていたが、
先日、図書館で発見。
出版直後は図書館で借りようと思ったら
きっとすごい順番待ちだっただろうけど、
もう何年もたって誰も借りないのね、と思い手に取った。
内容は薄くて(本が薄いのではない)、
うーん、別に読んでも読まなくてもよかったかな~、くらいの感じ。
違和感を感じたのは、両親に対する気持ちが、
一切書かれていなかったこと。
家族関係が薄かったのかしら?
あるいは、逆に、
この本で両親に迷惑をかけることを避けるために、
意図的に排除したのかもしれない。
あと、違和感より嫌悪を感じたのは、
犯行後、一緒に死んでくれと頼むために当時の彼女に電話したという部分。
それから逃亡中にも、
自殺の名所近くでここに自殺のために来る人がいる、という話を聞いて
そういう人が一人で死なないで自分と一緒に死んでくれないかな、
と思った、という部分。
なんでやねん。
なんで他人と死にたいのか、まったく理解できない。
その人をすごく憎んでいて死出の道連れにしたいというならまだしも。
ちなみに、挿絵はやっぱりすごく上手だった。
あと、英語の辞書だけでなく、逃亡中なのに、
携帯音楽プレイヤーで英語教材を聞くために充電場所を探したり、
英語の原書を読んだり、
勉強を続けていて、その点はちょっと哀れだった。
何のためにそんなに英語の勉強をつづけていたんやろ?
現実逃避のためかなあ?
文章はやっぱりプロの作家さんとは違うが、
いつ、どこで、どういう逃亡生活をしていたか、
わりに細かいことまでよく覚えていて、読みやすくまとめられており、
頭はいいんだろうなあと思う。
その一方で、
人一人を殺したというのに、
深い考察、みたいなものはほとんどない。
罪状は、強姦、殺人、死体遺棄。
なぜそんなことを、というのが知りたかったが、
それについても一切書かれていない。
ほんとうに逃亡から逮捕されるまでの自分のことだけ。
そのせいか、読了後も、
作者に対して同情は感じない。
(かなり過酷な逃亡生活だとは思うけれども)
なんというか、ただ、
この人もっと他の生き方ができたやろうに、
と思う。
それから、もし被害者の遺族がこの本を読んだら、
きっとものすごく腹が立つだろうなあ、と思う。
この犯人が逮捕された当時(2009年)は、
TVは連日このニュースでもちきりだったけど、
結局判決はどうなったんだっけ?とネットで検索してみたら、
2012年4月に無期懲役が確定していた。
時間の流れは本当にはやい!
< 『殺人者たちの午後』
トニー・パーカー 著 沢木耕太郎 訳 飛鳥新社>
前にアマゾンでレビューを見て、読んでみたいと思っていた本。
図書館をブラブラしていたらあったので、借りてきた。
アマゾンの紹介文をそのまま引用させていただくと…
……………………………………………………………………・…………………
「人はなぜ殺すのか?
殺したあと、人はどう生きるのか?
イギリスの殺人者たちを個別に取材し、
心の奥底までを濃密に描き出した傑作ノンフィクション!!
死刑制度なき国で、終身刑を受けた者たちは何を想い、
いかにして「生」の時を刻んでいくのか?
沢木耕太郎の翻訳で贈る、心ゆさぶられる、殺人者たちの告白。 」
……………………………………………………………………・…………………
ここでインタビューに答えている中に
計画的に殺人を犯した者はいなくて、みな衝動的。
そして、みなそろって生まれた家庭環境がとても悪い。
気の毒なくらい悪い。
まあ、いくら家庭環境が悪くても殺人はダメなのだが・・・。
でも、家庭環境って、やはりすごく大切なんですねえ。
本文も面白かったが、訳者あとがきに
「(以前は)私は深く考えることなく、 人に死をもたらした者は
自分の命で贖うことを当然のように思っていた」
という訳者が、翻訳後、考えさせられたことが書かれており、
それも興味深く読んだ。
わたしは、やっぱり、故意の殺人の代償は、
その犯人の命だと思う。
もし自分の身内が殺人被害者になったら、
きっと犯人の死刑を願う。
その考えはこの本を読んだ後も変わらないのだが、
でも、もし自分が裁判員制度で裁判員になって、
死刑にするか否か?という決断を迫られたら、
きっとものすごいストレスだし、
正直、とても怖くて何の決断も下せないかも。
うーん、
いろいろ考えさせられる本でした。
本を片付けていたら出てきた。
数年に一回読む本。
読み始めたら、結末は分かっているのに
途中で止められず、一気に読了。
モーム天才。
「月亮和六便士」(月と6ペンス)
「查理斯·思特里克兰先生看上去有些乏味,
但举止得体,事业有成,是个成功的证券经纪人」
(チャールズ・ストリックランド氏は平凡な感じだったが、
常識的で仕事もきちんとしており、成功した証券ブローカーだった)
初めて読んだ時、作品のモデルといわれるゴーギャンに興味を持って、
ゴーギャンに関する本を色々読んだ。
実際と小説はかなり違っていた。
それだけに、少しのエピソードから
これだけ面白い小説を書き上げるモームって、
本当にすごい!と思う。
<『目にあまる英語バカ』
勢古浩爾 三五館>
英語に限らず、語学の勉強にちょっと煮詰まってるな~、
と思ったら読むと面白いかも。
何のために英語を学ぶのか?
「あるある~」と思ったり、「自分もけっこうそうかも…」と思ったり、
作者は自分自身をもその対象に含めて皮肉皮肉皮肉で書いていて、
基本、笑える本です。
ためになる、というような内容ではないけれど、
読了後は「はー、面白かった」と気分がちょっとリフレッシュされます。